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地方税収の低迷と収入確保策

問われる公平性確保と統治能力

           奈良女子大学名誉教授 澤井勝(初出:全国市長会「市政」2011年2月号)

 

1、のび悩む税収と増加する事務事業・権限

 日本経済の低成長と雇用構造の変化、それに平成209月のリーマンショックの影響で、地方税収は長期的に伸びていない。都道府県税の平成229月末の調定実績は、地方財政計画ベース(法定外税や超過課税分を除く)では前年度同期比9.1%減となっている。市町村税でも、たとえば滋賀県内の近江八幡市を除く12市の平成22年度当初予算の税収見込みは、全市で前年度に比べてマイナスとなっている。

 この理由はいくつかある。第一に、景気がなかなか上向かないという経済情勢の影響がある。これは特に法人関係税で影響が大きい。第二には、特に市民税個人所得割が伸びていない。原因の第一は、市民の一人当たり収入の減少がある。国税庁の民間給与実態調査によると、平成8年から平成21年の間に、一人当たり給与総額は12%ほど減少している。この民間給与の減少の理由の一つには、この期間に急激にすすんだ雇用の「非正規化」がある。平成229月の労働力調査では、非正規労働者の割合は34.5%と過去最高になった。団塊の世代が定年退職して年金生活に入り、大幅な所得減となっていることも効いている。頼みの固定資産税も地価が下落するなかで、長期的に低落傾向にある。

 他方、地方税の徴収率は一時より持ち直しているが、劇的な改善とはなっていない。地方財政白書によると、平成20年度の市町村税の徴収率は、現年課税分が98.1%で、これは平成14年度の98.0から0.1ポイントの改善にすぎない。滞納繰り越し分の徴収率は19.5%で、2%ポイント改善している。これは、各都道府県で進んだ、府県と市町村が協力した滞納整理機構の設置などの成果であろう。現年分と滞納分を併せた徴収率は、91.8から93.6にまで改善はしてきている。しかしこれも既に頭打ちの傾向が見える。

 一方で、ことの善し悪しは別にして、基礎的自治体重視の「地方分権改革」が進み、市町村への国や都道府県からの権限や事務の移譲は増える傾向にある。また、高齢化が進み、少子化に歯止めをかけるべき仕事は増えつつある。

 こういう状況のもとで、あらためて都市の収入確保策の強化が求められている。

 

2、収入確保策

(1)滞納整理、租税債権の確保と整理

 徴収率の低下に歯止めをかけ、税の公平性を確保することを目的に20014月に「茨城租税債権生理機構」が発足。次いで、三重県地方税管理回収機構が20044月にできた。昨年4月現在では、北海道に渡島・檜山地方や釧路・根室など4つ、宮城県泉南広域行政組合、岩手県、宮城県、茨城県、栃木県、千葉県、福祉県、山梨県、三重県、静岡県、滋賀県、京都府、和歌山県、香川県、愛媛県、徳島県、鳥取中部広域連合、長崎県などに設立されている。組織形態としては、一部事務組合、広域連合、任意団体とがある。

これに滞納整理で差し押さえた絵画や自動車など動産をインターネット公売にかける方式が平成167月に、東京都主税局がヤフーと提携して実施することで実現し、大きな成果があったことから全国化している。もちろん滞納整理は、各市ごとに滞納整理の専門課の設置や、全庁的に職員を動員する方式など様々な工夫がされている。

(2)独自課税=自主課税

 平成12年の地方分権一括法の施行によって、それまで法定外普通税だけだった自主課税について、法定外普通税も認められるようになった。自主課税あるいは独自課税には、大きく二つがある。一つは「超過課税」であり、もう一つは「法定外税」の新設である。

(ア)超過課税方式(現行税率への上乗せ)

  A、個人住民税及び法人住民税の均等割への超過課税 県税であるが高知県から始まった「森林税」が著名で、平成20年度までに23府県で導入されている。

  B、個人市民税の所得割への超過課税

  C、法人市民税の法人割への超過課税  ほとんどの市町村で実施されている。

  D、固定資産税の超過課税  など

(イ)法定外税の創設

  A、法定外普通税  熱海市の別荘税、三浦市のヨット税など。

  B、法定外目的税 県税であるが産業廃棄物埋め立て税が21団体で実施。沖縄県では伊平屋村、伊是名村で環境協力税という名で、フェリーでの入村者に100円程度課税するかたちで導入されている。

 ただし自主課税については、税の目的、使途、財源の規模とコスト、受益と負担の透明性、負担の公平性、政策効果などについて系統的で、説得力のある検討が必要である。

(3)債権整理のための条例制定

(以下の各項は主に時事通信社の『官庁速報』の報道を整理したものである)

 東京都が平成17年度から始めた債権回収の一元管理の仕組みで、自治体の債権を自力回収できる「公債権」と「私債権」とに区別して、それらを適切に徴収することを目的とする。現在27都道府県にある。平成2211月施行の大阪府条例では、府の抱える債権を、(1)府税と同様に強制徴収が認められている債権(道路・河川占用料、児童保護費保護者負担金など)、(2)公法上の債権だが、強制徴収が認められていないために裁判所の関与が必要な債権(庁舎施設使用料、公園緑地使用料など)、(3)私法上の債権で、強制徴収には裁判所の関与が必要な債権(府営住宅使用料、中小企業向け貸付金など)に分類している。これらのうち、法律で延滞金の規定がないものについても延滞金をとれるように規定する。なお、大阪府八尾市が201012月議会で債権管理条例を制定し、同月24日に施行している。

(4)民間セクターの債権回収機構・会社(法務大臣の認可)に、県外に移住した住民に対する公営住宅滞納家賃などの回収を業務委託する自治体も増加している。同様に、民間事業者に電話による督促を委託する事例もある。

(5)コンビニやインターネットでの収納などの納税者の便宜を考えた収納改革。これに、平成20年の地方自治法改正で可能になったクレジットカードによる決済の導入も進んでいる。これはうっかり納税や支払いを忘れても、督促を受けたら役所の取り扱い時間外にも納めることができるなどの利点が大きい。

(6)同じく平成19年の地方自治法の改正で、行政財産の貸付ができるようになったことを受けて、様々なかたちで取り組みが行われている。

東京都は都税事務所の駐車場を民間に貸し付けてコインパーキングとして活用して収益を挙げた。北海道は平成21年から本庁舎の改築用の仮庁舎用地で、120台分をコインパーキングとして民間に貸付、年間4200万円、3年で12600万円の収入を得た。

鹿児島県は平成21年度から、県立高校を中心に自動販売機89台分について事業者を公募して貸し付けた。貸付の前は、使用許可をして使用料をとる形式だったが、貸付によって1800万円の貸付料を得た。使用料の45倍の収入増である。

埼玉県は平成23年度から、自動販売機貸付の業者公募に「総合評価制度」を入れる。22年度は価格要件75点だったが、それを65点にし、事業者の社会的貢献度を35点と評価する。100点満点のうち、県の基金やボランティア活動への参加度の社会貢献度が24点、学校など施設整備への事業協力に3点、災害対策や省エネなどに5点など。

滋賀県野洲市や山梨県笛吹市などでは、組織再編や合併によって空いた市庁舎の一部を介護事業者やCATV事業者に貸し付け、相当の貸し付け料収入を得ている。

(7)広告料の確保やネーミングライツ(命名権)の販売、これらも既に広く採用されている。最近は職員のパソコンへの広告掲載なども進んでいる。

(8)福島県郡山市は市の「暮らしのガイドブック」を公募・プロポーザルで大阪の広告出版会社と契約、共同で編集・発行する。市の費用負担はゼロ。業者が広告収入で作製し、市内全戸にポスティング配布する。3千万円の節約になり、配布コストも減少している。

(9)中長期的にはコミュティ・ビジネス、地産地消事業への支援などで地場産業を興し、納税者を増やすことを考える必要もある。

 

おわりに 「払わない人」と「払えない人」の区別を

 払える能力や資産がありながら税や使用料などを「払わない人や法人」に対しては、適切な督促や差し押さえ、競売を果断に行うための組織的取り組みを進めることは第一に必要なことだ。それが納税者の権利を守り、公平性を確保することにもなる。

同時に、本人や家族の病気や失業、離婚、それらに伴う多重債務などなんらかの事情で納税の意思がありながら「払えない人」をきちんと区別する必要がある。「払えない人」には、具体的に生活再建の助言や制度の利用を支援するなどの親切で温かい対応が求められる。滋賀県野洲市、鹿児島県奄美市、岩手県盛岡市などの多重債務者支援の庁内・庁外のネットワークづくりなどを参考に、「本当に困っている人」へのワンストップ・サービス体制を構築したい。これらの市では、生活再建によって納税できた市民から、担当者がお礼を言われているのである。

 

 

 

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