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政権交代と公務員の働きかた

                                    奈良女子大学名誉教授  澤井 勝

(初出:『地方財務』09年11月号、巻頭論文)

目次 1,「止めるものは止める」で躍動感  2,民主党のマニフェスト=地域主権  3,補完性の原理と事務の仕分け  4,ひもつき補助金の一括交付金化  5,補正予算の一部執行停止と概算要求の再編成


1、「止めるものは止める」で躍動感

        自民党的なるものを捨てる

 民主党を中心とする連立政権が916日に発足して、この原稿を執筆する時点で3週間たった。ここまでのところ、各大臣や副大臣、政務官からの様々なメッセージがメディアを通じて発せられ、予想外のダイナミックな政治空間が開かれたと言う印象がある。

 温室効果ガスの90年対比で25%削減を2020年までに行うことを国連で国際公約したこと。八ツ場ダム建設中止、国の地方出先機関の原則廃止、事務次官会議の廃止。09年度補正予算の3兆円執行停止。10年度概算要求の白紙化。

 109日付の朝日新聞では、自民党政治を中心に日本政治を分析してきた政治学者3人と朝日新聞の政治部論説委員による座談会「民主党政権で何が変わったか」が掲載されている。共通の理解は次のようだ。「自民党から民主党への政権交代で日本の政治は変わったか。私の答えはイエス。『政治主導』を掲げた鳩山政権の滑り出しはまずは順調といえる。自民党政権の末期には、政府の中で官僚が思うがままに力をふるい、政治が実行力も説明力も失ってしまった。民主党が掲げる脱官僚依存や政府と党の一元化は、自民党政権時代のこうした悪弊を絶ちきるものだ。」(野中尚人学習院大学教授)。

 御厨貴東大教授も次のように言う。「自民党が止められなかったことを止める。自民党的なるもののパージが進んでいる。たとえば事務次官会議。廃止したら天変地異が起きるようにいわれていたが、何も起きない。そればかりか形骸化していたことが全部、明るみに出た。もっと出せとなっている。政策を担保するための審議会も早晩なくなり、官僚は日程調整から解放される。政権の評価は5年から10年のスパンでみるべきだ。じっくりやるほうがいい。」

 ここで言われている「自民党的なもの」の一つは、「質問取り」である。また陳情政治と族議員とのつながりである。そして有力議員の根回しという議会対策である。これらは地方自治体の現実でもあるが、もっと根が深い。変わりつつある日本政治の最後の抵抗勢力が自治体、特に県議会など県の機構と言われないようにしたい。その意味でも知事、市町村長と責任ある部長や局長が、議員や市民と対等に「討論」「議論」する場を公開されたものとして作っていくことが求められている。議会もそのような討論の場として再構成するべきである。

 

2、民主党のマニフェスト=地域主権

 ところでわれわれが驚いたのは、民主党がそのマニフェストをまじめに実行しようとしていることだ。権力を握ったその翌日からマニフェストを実行しようとすることに少しあっけにとられ、もう少し手加減してもいいのではというが声が出てくるほどだ。まあ律儀と言えば律儀で、ただ具体的な設計や計画が未定であるので危なっかしい。とはいえ、期待しながら見守る、というのが今のところメディアや世論の大勢のようだ。

 ということは民主党のマニフェストの1丁目1番地の一つである「地域主権の確立」もまじめに取り組むはずである。そうなればこれは地方公務員の働き方や発想法を大きく変える改革になる可能性がある。

 民主党マニフェストの第4章に言う「地域主権の確立」は、「地域のことは地域が決める」ことができる状態や制度をつくることであるようだ。

(1)そのために、中央政府の役割は「外交・安全保障などに」特化し、「地方でできることは地方に移譲する。」新たに設立した「行財政刷新会議」で全ての事務事業を整理し、補完性の原理に基づき基礎的自治体が対応可能な事務事業の権限と財源を大幅に移譲する、としている。

 106日には、この行政刷新会議のメンバーとして、稲盛和夫京セラ名誉会長、茂木友三郎キッコーマン会長、前鳥取県知事の片山善博慶応大教授、草野忠善元連合事務局長、そして事務局長には加藤秀樹「構想日本」代表の名前が仙石由人行政刷新相の記者会見で明らかにされた。座長は首相で、担当相、財務相、総務省、国家戦略室担当、官房長官などが加わる。

(2)そして、最初のマニフェスト案にはなかった「国と地方の協議の場を法律に基づいて設置する」ことを掲げる。この「国と地方の協議の場」は全国知事会などの総選挙直前の要求行動を取り入れたものである。

 (3)また、財源的には、国のひもつき補助金(社会保障・義務教育関係は除く)は廃止し、地方の自主財源に転換する、としている。基本的に地方が自由に使える「一括交付金」として交付する仕組みを提案している。これによって補助金申請や審査に係わる経費と人件費を削減する。当然だが中央による箇所付けは廃止されよう。

 (4)国の出先機関は原則廃止する。道路・河川・ダム等の全ての国直轄事業における負担制度を廃止し、地方の1兆円の負担をなくす。それに伴う地方交付税の減額は行わない。この国直轄事業廃止に伴う地方負担減に伴う交付税減額はマニフェストの原案にあったものだが、地方6団体などの意見から削減をやめたものだと思われる。

 

3、補完性の原理と事務の仕分け

 これらはシンプルである。しかし、いずれも核心を突いた改革で、23年を掛けて着実に実現すべきである。一例として事務事業を基礎的自治体への移譲から積み上げて、国と地方に振り分けていく作業を考える。この事務事業の「事業仕分け」は、1949年のシャウプ勧告と51年の神戸勧告以来、繰り返し提言が行われてきたが、いずれも各省庁と政権党の抵抗で、骨抜きにされて来たという苦い歴史がある。今回こそ、それを実行できるチャンスである。

たとえば、丹羽地方分権推進委員会でも第一次勧告で一級河川の管理や直轄国道の管理について、都道府県に移譲するとされた。これらはいわば店ざらしとなっているが分権改革という観点から、まずこれを実現すべきである。この問題は国土交通省の地方出先機関の廃止と、それを都道府県に移譲するか、または広域連合への権限と財源移譲と一体のものとして議論され、結論が出されなければならない。もちろん、出先機関の職員は当該の自治体に身分移管する。その場合、政令指定都市の区間については、政令指定都市に移管することも考えなければならない。国道の管理についても同様である。複数の府県にまたがる一級河川の一貫した管理のためには、「淀川流域委員会」のような市民委員会などを置くことも考えられる。

ということは、この「事務仕分け」は都道府県や政令市、都市自治体、町村の代表の参加を得た「国と地方の協議会」(法定)での合意を経なければできないものである。そのためには、各地方自治体は、「事務仕分け」の具体案をつくり、「法定協議会」での議論と合意作りに今から主体的に係わる覚悟と体制をとることが要請される。既に北海道にある「地域主権局」や大阪府や神奈川県の「地域主権課」の内容を組み替え、各自治体はなんらかのかたちで「地域主権局」的なものを縦割りを超えてつくり、権限移譲と財源移譲の具体案について議論を始めなければならない。

 

4、ひもつき補助金の一括交付金化

これも議論されてきたが実現できていない改革である。自治省事務次官から官房副長官を竹下内閣から村山内閣まで7代にわたって努めた地方自治研究機構会長の石原信雄氏は言う。「若し全ての『ひもつき補助金』が義務教育や社会保障関係を除き廃止され、基本的に地方が自由に使える『一般交付金』として交付されることとなれば、中央省庁による地方支配を終わらせる画期的な改革であり、ある意味でわが国の統治構造を変える契機ともなる改革である。マニフェスト等から判断して、鳩山政権の下で地方分権は飛躍的な前進が図られるものと期待される」(『自治日報』102日号)。「お手並み拝見」という感じもあるが、一方で強い期待感も表明していると言える。

ところで、この「ひもつき補助金廃止」に関連して、新政権下で問題になったのは「新型インフルエンザ」のワクチン接種の地方負担である。102日に厚労省から各府県に、低所得者向けの接種費用軽減策の900億円について、府県と市町村が4分の1ずつ負担するよう求めてきたという。これについては仁坂和歌山県知事や橋下大阪府知事が強く反発している。新型インフルエンザ対策のワクチン接種は国の仕事のはずで、一方的に地方に仕事と地方負担を押しつけるもの、というわけだ。

しかし、地方財政法ではその第10条の1項第6号で「臨時の予防接種並びに予防接種を受けたことによる疾病等に対する給付」について、「地方公共団体が法令に基づいて実施しなければならない事務で、国がなおその経費の全部又は一部を負担する事務」となっている。予防接種法では、予防接種(インフルエンザのワクチン接種を含む)は市町村長に義務づけられた法定受託事務で、都道府県も地域指定などの事務を義務づけられている。費用負担は同法21条から23条で、市町村と都道府県が4分の1、国庫が2分の1と定められている。したがって、厚労省の地方負担の指示はこれに従ってまでで、両知事の反応は勇み足ということになろう。これは「ひもつき補助金」の対象外のものである。

しかし、「地域主権」ということであれば、新型インフルなどの新しい事務については、迅速に「国と地方の協議会」で事務権限と費用負担について了解しあうことが求められよう。一方で地域の市民にとって不可欠で必要な仕事は、自治体が積極的に担うことが求められる場合が多く、いたずらに「国から押しつけられた余計な仕事」という自己保身に閉じこもるべきではない。

いずれにしても、「ひもつき補助金」の廃止と一般交付金への転換は、地方公務員の働き方に最も大きな影響を与える。まず補助金の有無で仕事の優先順位を確保すると言う手法は成り立たない。予算の確保は、市民協働で作られる新しい総合計画や首長のマニフェストでの位置づけ如何となる。したがって各担当の自律的な企画力と説明力が厳しく問われる。その際、一番の力は、市民との連携力になる。それは行政依存の「住民要望」ではない。まちづくりへの構想力ある提案ができる市民との連携こそが求められる。今からそのような市民との協働の場と、議論の場をもちうるところこそ、全体を引っ張ることができる。一方で前例踏襲にこだわり、縦割りの城に閉じこもり、大過なく仕事をこなす地方公務員は、「変わる政治」の中で厳しい局面に立たされる。

 

5、補正予算の一部執行停止と概算要求の再編成

 目前のこととして地方自治体に直接影響してくるのは、09年度補正予算と10年度予算編成である。この中では、地方に負担をかけないというが、補正予算では3兆円を執行停止とする見込みである。特に国交省の補正予算の4割、9470億円が凍結。特にそのまた4割は道路関係である。うち4車線化が2613億円をしめる。これらは地方としては、予算に既にその負担分を計上している場合もありうるし、地元への説明が待っているので、苦境に立たされることも予想される。

 いずれにしても、国庫補助事業や直轄事業を当てにした自治体事業は足踏みとなる可能性がある。この事態に対して、良い機会であるからその事業が本当に地域住民の利益になるか、もう一度アセスメントを行い、優先順位を含め、事業の再構築を考えることも必要になろう。

 

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