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分権改革に逆行する地方法人特別税               
                      
(初出:『自治日報』2008年1月18日号に加筆)

                    奈良女子大学名誉教授 澤井 勝

 

 2008年はニュヨーク市場、東京市場とも大幅な株安とドル安(円高)で幕を開けた。世界的な信用収縮がさらに進む中で、米国経済の停滞から景気後退の道も見えてきた。これはサブプライム・ローンまで突き進んだ「市場原理主義」にもとづく野放図な信用創造の自滅現象である(17日のNHK『クローズアップ現代』での榊原英資氏など)。

 ひるがえって来年度の地方財政対策である。これも同じ「市場原理主義」を掲げた小泉「改革」が引き起こした地域社会の崩壊の現実に対して、政治的な調整(おそらく自民党税調インナーによる裁定)で糊塗しようとするもの。やむを得ざる選択と言う見方もあるが、結果的に地方分権改革に逆行するものとなった。 

今回の地財対策の中心は、第一に、地方と大都市部の税収格差を是正するために、法人事業税の約半分である26千億円(消費税にすると1%分)を国税の地方法人特別税に移管するところにある。短期が予想されるが、法人特別税に移管されるのは当然に大都市の事業税が中心で、1226日に示された総務省の試算では、東京都が6358億円である。これを財源に09年度に、人口と従業者数を基準に都道府県に法人特別譲与税として譲与する。

 今回の地方財政対策のもう一つの中心は、地方交付税の特別枠、4千億円の「地方再生対策費」の新設である。この「再生対策費」は「地方税の偏在是正により生じる財源を活用して」、「交付税の算定を通じて、市町村、特に財政状況の厳しい地域に重点的に配分する」とする。例えば人口1万人で8千万円程度、5千人で6千万円程度だ。この追加的な交付税増は、特に小規模市町村には一定の効果があると思われる。

 しかし、この地方再生対策費の原資は、国税である地方法人特別税のうち4千億円を交付税化したもので、仮に交付税率にすると15.4%。これも「法人事業税の国税化」の産物であり、国から地方への財源移譲を意味するものではない。いわば地方財源を交付税化したものだ。しかも08年度は地方法人特別税が0810月期から収入されるために原資がなく、都道府県は臨時財政対策債を原資とする一方、都道府県の交付税の一部(2500億円)を市町村にふり向けるかたちとなるようである。ここでも地方財源の振替が行われる。1月21日付けの「財政課長内かん」でも全額(交付団体の需要額増加相当分)の3700億円を都道府県の臨時財政対策債で賄うとしている。すなわち都道府県は、地方再生対策費の都道府県分1500億円を臨時財政対策費で賄い、さらに市町村に回る交付税減少分を臨時財政対債で穴埋めしなければならない。

 今回の対策では、地方財源不足は5.2兆円とされたが、借入金償還の繰り延べなどで補填された結果、交付税の総額は154100億円と前年度より2千億円増えた。一貫して減少してきた交付税が増加に転じるのは朗報ではある。しかし、再生対策費を除けば2千億円の減である。それは主に自治体の努力で歳出削減が進み、基準財政需要額が収縮しているからだ。その結果は地域社会での基礎的セイフティーネットや地域の活力の破壊である。

 4千億円の地方再生対策費で地方は再生できない。ここではあらためて、地方6団体が主張する交付税5兆円の復元を求める。それも国の財源を移譲するかたちでなければなない。その際に、基準財政需要額の構造を基本的に組み立てなおし、福祉、医療、教育、環境(森林や河川)の4分野を中心にして、地域の切実なニーズに応え、これからの地域の活性化につなげる前向きのものとするべきだ。

例えば「介護崩壊」が進んでいる。ヘルパーなどの低賃金が固定し、人材が介護の世界から流出しているからである。厚生労働相省のワーキングチームの報告によると男性ヘルパーの平均月収は23万円、女性は197千円で、他産業の6割から8割にとどまる(1212日、日経)。この状態を改善することが「介護崩壊」を回避するために不可欠である。それには介護報酬の大幅な引き上げを政府の責任で行う必要があり、その地方財源として1兆円を超える規模の財源を基準需要額に追加的に算入すべきである。このことで得られる安心と、家庭の葛藤や時間的拘束からの解放が、現役世代の働く基盤をつくり、成長の基盤をつくるのだという認識が必要である。

いま求められているのは市場原理をもてあそぶことではなく、時を失しない強力で一貫した政府・政治介入であると榊原氏も言う。市場の持つ公共性(資源の価格機能による適正な配分の実現)が破綻したとき、そこから社会を救うのは、政府と市民および企業市民と言う「新しい公共主体の協働」であることを銘記したい。なお、分権改革を進めるための税源移譲では政府税調答申と与党税制改正大綱に盛り込まれているように、地方消費税の大幅な拡充を実現することが求められる。

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