TOPPAGE自治体財政をめぐるコラム>自治体の歳入と市民

自治体の歳入確保と市民

(初出:「月刊自治研」08年8月号)

                                    奈良女子大学名誉教授 澤井 勝

目次 
歳入確保に苦戦する自治体/自治体の歳入と市民、滞納整理をどうする/地方税について/「使用料その他の法律で定める収入/市民的な関係の確立こそ大事/税の使い途への市民参加/税を市民が決める、タックスペイヤーの世界(テネシー州チャタヌーガ)



歳入確保に苦戦する自治体

最近の報道などでは、自治体が歳入確保に苦労する状況が伝えられることが目立つ。奈良県大和郡山市でも、今年、086月議会で、市長が提案した下水道料金の値上げ案が否決されている。医療保険の自己負担の増や、介護保険料や国民健康保険料の引き上げ、それに昨年末から家計を直撃しつつある食品など生活必需品の物価上昇、その中でも第三次オイルショックの様相を呈してきたガソリン価格の引き上げ、など市民の負担が増える中で、市議会としてはとてもこの値上げ案を住民に説明できない、というのが否決の大きな理由であるらしい。

また京都府の木津川市は昨年(2007年)3月に木津町、加茂町、山城町の3町が合併して誕生した新しい市だが、水道料金や下水道料金の統一が大きな問題となっている。これは地域的に水道や下水道建設の経緯が異なるために当然に生じる問題である。また国民健康保険の保険料についてはそれまで低く設定してきた町の住民には急激な負担増となる改定案が示され、激変緩和措置をどうするかが大きな政治問題になっている。

全国的には国民健康保険料の収納率の低下傾向が続く。その中で東京都では、都内の市区町村の現年分の収納率が2年連続で上昇した。04年度は85.88%、05年度は86.22%、そして06年度は86.71%である(注:東京都福祉保健局報道資料)。その中でも上昇率が高いのは福生市のように徴収専門員をおいたところ、練馬区のように収納対策プランによる目標管理を徹底したところ、世田谷区は保険料収納課を設けている、などの経営努力があるという。しかし全国的にも、国保料金(税)の収納率は90%を割り込んでいる。特に大都市部で収納率の改善には大きな壁がある。

ついでながら自治体の手は離れたが、国民年金の納付率の低下傾向も続く。2007年度の納付率は64%前後に低下している模様で、06年度実績の66%を下回る見通しとなっている(注:521日付け日本経済新聞)。未納者は低所得の若年層に多いと見られ、将来、無年金の生活保護層を形づくる恐れが強い。これは社会保険庁への不信感が国民に強いことが第一の理由だと指摘されている。もう元に戻すのは遅いと思うが、市区町村に国民年金の窓口を残していたら、ここまで納付率が低下することはなかった可能性がある。

 

自治体の歳入と市民との関係 滞納整理をどうする?

 ところで、一口に「自治体の歳入」といっても、対市民との関係が異なるものが混在している。ここを整理しておかないと、議論が混乱するので、簡単に「歳入と市民との関係」を整理しておこう。

 具体的には、滞納処分を直接に行政が行えるか、それとも民事執行法などによる裁判所の手続きを必要とするか、という性格の違いである。つまり行政が直接に滞納処分を行える「公権力行使」型の行政強制が行えるか、それとも普通の私人間での争いのように裁判所の介入を求めることで滞納整理を行うか、という違いである。いわば前者が「公法上の歳入」であり、後者は「民事法上の歳入」である。

 自治体の歳入は地方自治法の上では、「第三節 収入」に規定されている。第223条「地方税」、第224条「分担金」、第225条「使用料」、第226条「旧慣使用の使用料及び加入金」、第227条「手数料」、および第230条「地方債」である。これらはいわゆる「自主財源」で自治体がその権限でその内容(種類、対象、税率、料金の額、徴収方法など)を、条例で定める。たとえば第228条、「分担金、使用料、加入金及び手数料に関する事項については、条例でこれを定めなければならない。」

なお地方債については予算で定めることとされている。第230条「普通地方公共団体は、別に法律で定める場合において、予算の定めるところにより、地方債を起こすことができる。」この法律とは「地方財政法」である。

 

地方税について

まず地方税は、別に地方税法によって税目、課税客体、課税標準、税率などが定められている。「租税法定主義」といわれるものだが、具体的には各自治体の「地方税条例」で再度規定しなければならない。地方税法の定めに加えて、地方税条例によって住民個人あるいは法人に課税されることになる。したがって、「租税法定主義」の「法律」とは、「条例」を優先的に含むものと理解されている。地方税法に定めのない地方税を「法定外税」という。法定外税には法定普通税(府県税で核燃料税、市町村税で使用済み核燃料税や山砂利採油税など)と法定外目的税(県税である産業廃棄物税や宿泊税、市町村税では遊漁税や一般廃棄物埋め立て税など)がある。

地方税の滞納については地方税法に定める差し押さえ等のほか、国税徴収法を準用して処理される。これはいわゆる公法上の行政強制である。これは市民にとっては、納税の義務を強制される場面であり、このような手段が適正に、かつ公平に行使されることは、納税者としても重要な関心事である。この義務を不当に、または違法に逃れる者を行政が放置しておくことは、納税をしている市民にとっては税負担について公平に取り扱われるべきだという公平取り扱いの権利を侵害することになる。その意味で、滞納整理は税制の公平性を維持しその信頼度を高めるために、不可欠で基本的な行政施策である。

 

「使用料その他の法律で定める収入」の滞納処分

 使用料とは「物を使ったサービス提供への対価」である。たとえば、保育所の保育料、学校の授業料、体育館の使用料、公民館の使用料、上下水道の料金、公営交通の運賃などである。「第225条 普通地方公共団体は第238条の44項の規定による許可を受けてする行政財産の使用又は公の施設の利用につき使用料を徴収することができる。」

 これに対して手数料は、自治体が提供する「特定の者」に対する人的なサービスへの対価だとされる。たとえば各種の身分証明、印鑑証明、公簿の閲覧などである。

 これら使用料の滞納などは一般には滞納処分の対象にならない。すなわち第231条の23項において「普通地方公共団体の長は、分担金、加入金、過料又は法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の収入につき(督促手続きの後)地方税の滞納処分の例により処分することができる」と定めている。

 分担金(第224条)とは法律に基づく、道路法や河川法に定める受益者負担金や下水道法による汚濁原因者負担金などがある。(注:この項については、地方自治総合研究所編『逐条研究 地方自治法 第4巻財務編』敬文堂、の該当条文を参照。)

 ここでの規定によって、「分担金、加入金、過料」および「法律で定める使用料その他の収入」は地方税と同様な滞納処分ができることになっている。しかし「法律で定める使用料その他の収入」以外の「使用料その他の収入」については、地方税と同様な滞納処分はできないのである。自治体の条例のみで定める公営企業の料金、公営住宅の家賃、授業料などは「法律で定める使用料その他の収入」ではないので、すべて民事訴訟によらなければ強制徴収はできない。保育料の滞納整理も同様に民事訴訟の対象である。

 なお国民健康保険の保険料は国民健康保険法第79条の2で、この「法律に定める収入」とされている。したがって督促から差し押さえまでをこの自治法の定めで行うことができる。しかし、実際にはこの滞納処分までを行うのは簡単ではない。というのは、国民健康保険の保険料を滞納するする人の多くは、年金のみの収入しかない人や、フリーター的な低所得者であって、払う余裕がないからである。こういった低所得者の滞納処分は事実上不可能だろう。払える所得や資産があるのに払わない人こそこの滞納処分の対象であるが、これへの督促、差し押さえの手続きを行うことはそれなりの体制と覚悟が必要なのである。東京都の場合でも、06年度で差し押さえを行ったのは大田区の500件や杉並区の383件がある一方で、中央区や港区はゼロ件である。

 

対等な市民的な関係の確立こそ大事

したがって自治体の多くの収入確保策は、基本的には、行政と住民・市民との関係を私人間の関係と同様な民事訴訟の世界にあるものとして考えておく必要がある。税についても、滞納処分はできるものの、その前段での市民の言い分を聞きながらの説得こそが必要で、公権力行使に安易に依存することは避けたい。

静岡県掛川市は3年前から一般職員をほぼフルに動員して税や使用料など各種の滞納整理の訪問事業を行っている(注:529日、朝日新聞静岡版)。一般事務職員のうち約500人を徴税吏員に併任して、市税、住宅家賃、公共下水道受益者負担金、給食費、保育料、介護保険料などを滞納している約1500人を二人一組で訪問する。職員一組が56人を受け持ち、ほぼ1ヶ月間に時間や曜日を変えて訪問を重ねる。対象者には事前に、滞納していること、職員訪問の可能性、納付が困難な場合に相談に応じることなどを記した通知を発送している。その場で現金を扱わず、あくまでお願いをするだけだが、昨年度は市税の滞納分の6割以上を解消することに成功している。市の税務課は、「一般の職員も含めて全庁的に納付指導をしているのは掛川だけ。負担の公平性を求める市の姿勢を示すだけではなく、職員が自主財源確保の大変さを体験する機会にもなる」としている。

一方では、今年430日の地方税法(第321条の72など)の改正で、住民税について年金からの天引き(特別徴収)が来年度から可能になった。年金が年額180万円以上の65歳以上の納税義務者が対象で、北海道などではこの6月議会で続々と条例が可決されている。これは介護保険の財政維持に効果を発揮している年金天引きを住民税にまで広げようと言うもので、効率性と財源確保には合理的だが、財政民主主義という観点からは問題がある。むしろ市民が自ら税を計算して納付する申告納税制度を多くの高齢者が活用できるように支援することこそ必要であろう。それに介護保険の場合は、介護費用に充てることが明確だが、税となるとそうはいかない。後期高齢者医療制度での年金天引きが、大きな反発を呼んでいることも含め、その使い道をもっと丁寧に説明することが絶対に必要である。

 

税の使い途決定への市民参加

 自治体の歳入段階での市民的なあり方について考えてきたが、もうひとつ踏み込んで、そうして歳入した収入の使い途の決定に市民が参加することが求められている。先駆けとしては市川市の1%条例が、市域のNPO支援を市民が市民税の一部を割いて行う仕組みを開発した。また2004年度からの長野県泰阜村「ふるさと思いやり基金」への寄付(07年度末で2298万円)や、岡山県新庄村の「協働のふる里づくり基金事業」などの取り組みがあり、これらが先ほど成立して動き出している「ふるさと納税」制度につながっている。

 最近では宮崎市の0941日施行の「コミュニティ税」がある。(注:宮崎新聞531日、およびイマジン出版「ビーコンオーソリティ」2008年夏号。及び宮崎市ホームページ。)同税は「地域コミュティ条例」によって市民税均等割の課税対象者約16万人から一人当たり年に500円を徴収する。すなわち住民税の均等割に500円を上乗せする超過課税を行う。この超過課税方式は高知県から始まった「森林税」に似ている。これを「コミュニティ活動基金条例」によって基金に積む。これで年に約8千万円の財源を設けることができるという。

 宮崎市は20061月に砂土原、田野、高岡の三町を編入合併し、旧市域に15の地域自治区を設置し、また旧3町の区域に合併特例区を設けた。これら18の自治区の活動費の一部を支援するのが、このコミュニティ税である。

 宮崎市のホームページから砂土原町合併特例区の広報を見ることができるが、そこでは2008年度の「特例区予算」が、第19回合併特例区協議会で同意されたこと、その総額は80,628千円であることなどが示されている。この予算には、地域づくり協議会支援事業約1900万円、自治会運営補助事業1182万円、砂土原地域福祉センター管理運営事業2332万円などが計上されている。

 コミュニティ活動支援交付金はこれらの予算に追加して交付されるようで、その使い道については、今年度(2008年度)はモデル事業を3つの地区で立ち上げることとしている。交付金の使い道は住民が協議して、防犯、防災、福祉、環境などの地域課題を自主的に解決するのに活用するとしている。

 

税を市民が決める タックスペイヤーの世界

 手元にアメリカ、テネシー州の『チャタヌーガ市の挑戦』というビデオがある。94年にNHK日曜スペシャルで放映されたものだが、タイトルは「最悪の公害都市から全米で最も住みやすい都市への歩み」だ。この75分のドキュメンタリーは、市税である売上税を引き上げるかどうかを決める住民投票を軸にして構成されている。14年前のものだが、その内容は少しも古いものではない。それは19世紀の初めに、フランス人のアレクセイ・ド・トックビルが発見したアメリカ民主主義のよき伝統が、この人口16万人の都市に息づいていることを活写しているからである。(注:トックビルのこの著作については最近新しい訳が出ている。松本礼二訳『アメリカのデモクラシー 第二巻』上下、岩波文庫。20083月)

この町では市議会は毎週月曜日の夜6時から開かれ、7人の市会議員は市民傍聴者に向かって座る。傍聴者も必要と認められれば発言できる。まちづくり計画は市民グループが事務局原案なしにつくる。ここにあるのは、市民が行政と政治を直接コントロールする仕組みである。タックスペイヤーが主人公でありうる行政の市民化のひとつのあり方が示されていると言ってもよい。日本でこれをそのまま実現するのは難しいが、ひとつの方向性を示していることは間違いないのである。ただ、90年代以降、特に共和党政権政権の下で、アメリカ社会に猛威を振るってきた「市場原理主義」によって、この伝統がどう変容しているか、それを検証することがこれからの課題でもある。

Copyright© 2001-2005 Masaru Sawai All Rights Reserved..