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参議院総務委員会公述人意見  2008年4月15日 於:京都東急ホテル

                                奈良女子大学名誉教授   澤井 勝


1、
はじめに 地方財政の現状は、三位一体改革の結果、地方交付税の大きな削減と、国庫補助金の地方税への不十分な移譲によって、今までにない一般財源不足感がある。

2、そのための歳出カットなど、総務省の集中改革プランの勧めに従い、あるいはそれ以前からの歳出削減で職員定数は大きく削減されつつある。例えば大阪府の寝屋川市では平成13年の2200の定数を18年度に1600とし、22年度には1400とするとしている。実に36%の圧縮であり、議論してきた寝屋川市行財政改革市民懇談会の市民委員からは、公共サービスの劣化について強い危惧の念が表明されている。ここでは既に、財政健全化のための定員削減やアウトソーシングはその限界に達していると危惧されているのである。

3、このように歳出削減をすすめることは、膨張してきた行政規模の削減という点では当然のことである。しかし、行き過ぎると、それに伴うひずみ(公共サービスの質の低下や官製ワーキングプアのまん延など)も大きくなる。このようなひずみの拡大は、住民の福祉を支える自治体の存在意義(地方自治法第二条)が問われることを意味する。住民の福祉を増進させるべき自治体が、住民の権利や暮らしを破壊することになるからである。

 加えて、これまでの地方債依存の財政運営のツケが、公債費の圧力として財政の硬直度を高める傾向は続いている。

 また、連結決算の観点をとり入れた新財政再建法が施行されるとともに、実質公債比率や連結赤字比率などの改善を目指した健全化圧力はこれからも強まる。

4、一方で分権改革の進行によって府県や市町村の新しい仕事、権限は増加してきている。2000年以降の児童虐待防止法、DV法、高齢者虐待防止法の施行などはその典型であり、就労支援事業や地球環境対策推進法改正による温暖化ガス削減計画策定とその推進など、地方自治体に法的に義務づけられ、あるいは努力義務が課せられる事務事業が増えているが、それに対する財源手当は全く不十分である。

5,また一時沈静していた東京一極集中の傾向が加速している(愛知県や滋賀県のような例外はあるが)。このため自治体間の税収の面から見た財政力の格差は拡大してきている。この傾向は残念ながらなお進行するに違いない。

6、こういった地方自治体の財政状況を考えれば、昨年来からの全国知事会など地方6団体の地方交付税5兆円復元論は首肯できるものである。

7、以上のような観点から、今回の地方交付税法改正案、地方税法改正案等について検討する。

8,まず、地方交付税の総額(2034億円の増)と地方財政計画(2753億円の増)の総額が共に、対前年度比減少という傾向から脱して、やや拡大の方向に向かったことは評価しておかねばならない。久々の明るい知らせである。

9、しかし、この交付税増は、交付税の別枠として新設された地方再生対策費4000億円のおかげである。このうちわけは都道府県に1500億円、市町村に2500億円で主として人口で案分され配分される。人口規模の小さい町村にとってはそれなりの効果はあるかも知れない。しかし、本格的な地方再生対策費としてはあまりにも少ない。

10,またこの地方再生対策費の原資は、今回の制度改正の目玉である、地方法人事業税を国税とした「地方法人特別税」の一部である。これは、地方税源で地方交付税を創出するということを意味する。交付税の垂直的財政調整(国税の一定割合を地方に再配分するもの)という基本的な性格をゆがめるものと言える。

11,今触れたように、今回の地方財政対策の最大の目玉は、都道府県の法人事業税の一部26千億円を国税とする「地方法人特別税」の創設と、それを原資に翌年度に都道府県に再配分する「地方法人特別譲与税」の新設である。これは主として東京に集中している地方法人関係税を他の道府県に「水平的に」再配分するものといえる。

 水平的財政調整は、自治体間の税収上の財政格差が経済構造や税制のゆがみによって生じ、均衡を失するほど大きいときは十分に考慮すべき政策テーマである。

12,その意味ではこの「地方法人特別税」は、税収面から評価した財政力の格差を是正する一つの工夫であると一応は評価できる。

13,しかし、問題が二つある。ひとつはその決定過程に自治体を参加させていない、という点である。地方税の一部を国税化するにあたって、当の東京都もぎりぎりまで蚊帳の外。大阪府は決まってから、新聞で知るに近い扱いだったと聞く。このような政策決定は地方分権改革に背くものであり、それが自治体の現場に与える否定的影響(自ら責任を持って判断し、決定していくことに対するあきらめと国への依存意識の助長)は極めて大きい。

14,もう一つは、今年度はこの地方法人特別税は収入されない(今年の10月から課税のため)。そのために、今年度の交付税の増額分である「地方再生対策費」は市町村分も含め都道府県が全額臨時財政対策債で賄う、と言う点である。これも地方財源の先取りであって、地方財源の将来負担を増やすことになっている。本来このような交付税の増額は、国税の一部を裂いて行うべきである。例えば、道路目的財源(一般財源化される)や、所得税における株取引と配当にかかる優遇税制の廃止等による税収増分を充当すべきで、地方の負担でおこなうことは避けるべきである。

15,水平的財政調整は、自治体間の連帯の精神で、自治体間の論議によってその責任においてその有り様を決めるべきである。したがって今後は、そのための討議の場として「地方税制・財政協議会」(仮称)を地方6団体、財務省、総務省などによって設置し、09年度中の税制抜本改革論議にのせるべく相互の意見調整をすすめるべきである。(地方財政平衡交付金時代(49年から53年まで)の地方財政委員会が参考になるが)。

16,その際に、財政格差是正と共に、地方全体として一般財源総額を確保し、また個々の自治体の一般財源を保障しなければならない。さらに、国と地方の財源の割合を11とするよう、議論が組み立てられなければならない。

17,今回のような地方税収における大きな財政格差が生じたのは、法人関係税を地方税としていたためであるから、地方税の税目の構造を変えなければ、このような地域的財政力格差を調整することにはならない。そのために地方法人関係税を国税に移し、地方消費税の税率の引き上げによってそれを補うという制度改正も検討すべきである。この地方消費税の税率の引き上げは、昨年11月の政府税制調査会答申でも明文で指摘されているところである。これも「地方税制・財政協議会」(仮称)で討議すべきである。

18,なお、市町村間の財政調整は、地方交付税によって行うべきであるが、現在は交付税減少の影響は小規模自治体ほど大きい。奈良県高取町の場合は、2001年度から2006年度の間に交付税が20億円から10億円に半減し、財政規模も2割程度縮小している。これでは地方の公共サービスは崩壊することが心配される。このような事態はあってはならない事態であり、交付税の基準財政需要額の構造を改め、新たな公共サービス需要を賄う経常的支出を保障するようにするべきである。

 例えば、その低い介護報酬に規定されて、介護労働者の給与は他産業に比較して数万円低い。そのためにこの仕事について10年を過ぎ、介護のスキルとマネージメント能力を持ったベテランが他産業に移る傾向が強まっている。若年層の離職率も高い。これによって「介護崩壊」が始まっている。この状況を改善するためには介護報酬引き上げが重大な課題だが、そのための自治体負担を引き上げる必要がある。例えば、基準財政需要額に介護保健事業費として1兆円を参入することが望ましい、などである。その交付税財源は、先に触れたように一般財源化された道路目的財源や、所得税の優遇税制廃止に伴う増収分、消費税の税率引き上げ分などが考えられる。

 

                                     以上

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