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自治体の歳入確保策の意義とその方策について

                 初出:大阪府市町村自治振興協会『自治大阪』平成1612月号)

                      奈良女子大学名誉教授  澤井 勝

 

1、歳入確保策の最近の主な取り組み

 

1990年代のバブル経済とその崩壊後から顕著になった競争社会への構造改革が進む中で、地方財政の歳入を安定的に確保することはますます重要になっている。この傾向は後に見るように小泉政権の下での経済財政政策によって助長され、それを引き継いだ安倍晋三政権のもとでも交付税制度の改革や地方債制度の完全自由化に向けた改革、市場化テストの本格導入などがさらに進められることになると見られる。こういった条件下での歳入の確保策について考えてみたい。ひとつは、直接の歳入確保策で、この間の各自治体での政策努力をいくつかサーヴェイしてみよう。もうひとつは、入札改革など歳出の一層の効率化と有効性の確保施策だが、これは他日を期したい。

 歳入の確保策の中心は、言うまでもなく税収の確保策である。しかし、税務当局の努力ばかりではなく、全ての部局でその権限に応じた歳入の確保策が取り組まれる必要がある。

さて、最近の各団体の歳入確保施策で目に付くのは次のような施策である。

 

(1)、独自課税 まず分権改革に伴なう法定外目的税の新設など、自治体の独自課税がある。独自課税には、地方税法に定める地方税における条例による超過課税と、地方税法に定めのない条例による法定外税のふたつの類型がある。例えば、神奈川県の「生活環境税制のあり方に関する検討結果報告書」は神奈川県地方時税制等研究会生活環境税制専門部会(部会長:金澤史男横浜国立大学教授)が20037月に取りまとめたものだ。ここでは森林の保全と水資源の確保、水質の保全、大気環境の保全などの施策の財源を、新しい財源で行う場合として次のようなものをあげている。

 ア、超過課税方式(現行税率への上乗せ方式)

 (ア)個人住民税及び法人県民税の均等割への適用

 (イ)個人県民税の所得割への適用

 (ウ)法人県民税の法人税割への適用

 イ、法定外税の創設

 (ア)かながわ環境税(法定外普通税)

     個人住民税の納税義務者に年額1000円から3000円を課税。

 (イ)水環境税(法定外目的税)

     水の使用量に応じて課税する。

これら独自課税の検討は、税の目的、使途、財源の規模、受益と負担の関係の透明性、

負担の公平性、政策効果などについて系統的で厳密な検討が必要である。森林環境税は2003年度から高知県が個人と法人の均等割への超過課税(税率年間500円)し、基金に積んで森林の間伐などの目的財源とするものとして実施している。この課税の良い点は、東京都のホテル税や河口湖町などの遊漁税のように、「よそもの課税」ではなく、県民が自ら負担する超過課税だと言う点である。ただし年間14千万円程度と規模が小さいのが難点である。このタイプの森林税は、その後、04年に愛媛県、05年に鳥取県と島根県、岡山県、山口県、熊本県、鹿児島県、06年に静岡県(個人には年度進行で100円から400円まで、法人には不均一課税)、岩手県(期間5年間、個人は年に1000円、法人は2千円から8万円の不均一課税)、滋賀県、兵庫県、奈良県、大分県が導入済みである。

 この他、目立つところでは産業廃棄物課税が2004年度で11団体で実施されている。

 

(2)、滞納整理 徴収率の低下に歯止めをかけ、税の公平性を確保するためには不可欠な施策であり、特に税務債権を広域的に整理する仕組みが広がってきている。最初の茨城租税債権管理機構が014月、次いで三重地方税管理改修機構が044月、そして愛媛地方税滞納整理機構と徳島滞納整理機構、和歌山地税回収機構が064月に発足している。岩手県も0610月から地方税特別滞納整理機構を発足させた。

 

(3)、民間セクターの債権回収機構などを活用した税等の電話などによる督促手法の導入が進む。これは『自治大阪』0612月号での堺市の例などを参照されたい。

 

(4)、コンビニ収納など納税者の便宜を考えた収納改革。千葉市ではこの4月から固定資産税、市県民税、軽自動車税についてインターネットやコンビニでの収納を行っている。ネットの決済システム「ページ1」(2000年に各種公共料金収納を扱う金融機関や行政らが設置した「日本マルチペイメントネットワーク推進協議会」が運営)を利用する。国民健康保険料は7月から、9月から下水道使用料に拡大した。来年4月施行の自治法改正によって可能になったクレジットカード決済の導入も私立病院で検討中だ。

自動車税については同じシステムを使い昨年の佐賀県につづいて岩手、群馬、東京、愛知、三重の各都県が5月からネットによる納付システムを整えている。

 

(5)、債権整理の工夫。 05年度から東京都が始めた債権回収の一元管理の仕組みが首都圏を中心に広がっている。この取り組みは、自治体の債権を自力回収のできる「公債権」(道路占用料や下水道料金など)と民法上の裁判手続きが必要な「私債権」(水道使用料や中小企業設備近代化資金など)とに区別し、それらを適切に処理することを目的とする。

 兵庫県や那覇市などでは、公営住宅の滞納家賃の徴収事務のうち県外移住者など回収がこれまで難しかった債権について、法務大臣の認可を受けた債権回収会社に業務委託する方式を取り入れている。

 

(6)、広告料の確保。これは既に多くの自治体で活用されている。

 

(7)、無体財産権の活用。自治体が自らの業務改善を通じて取得した特許を使い、特許料を確保する方式。03年には長崎県が日本総合研究所と共同でオープンソース・ソフトを利用した自治体システム構築の特許を申請している。漁業向けの地図情報システムや文書管理や電子決済システムが内容だ。

 

(8)命名権の販売。これも活用が広がっている。

 

(9)資産の売却、貸付、活用。特に遊休資産である公有の土地や建造物の活用の工夫が必要だ。

 

(10)、寄付金による基金造成。長野県泰阜村と北海道のニセコ町で04年度に導入された。泰阜村の「ふるさと思いやり基金」は、学校美術館修復事業、在宅福祉サービス維持向上事業、自然エネルギー活用・普及事業を指定して村内および全国に寄付を呼びかけたもので、05年度の事業報告書では、2年度で16,039,207円の寄付が寄せられ、在宅福祉事業では目標の500万円を達成した。064月には滋賀県高島市、なども設定して、全国に11市町村(以上のほか、岡山県新庄村、秋田県小坂町、北海道松前町、同沼田町、同羅臼町、同本別町、岩手県葛巻町、長野県王滝村、そして苫小牧市が検討中)で設けられている。(NPO法人寄付市場創造協会のHPから)。村出身者への応援の呼びかけでもある。

 

(11)使用料・手数料の確保。これらについては、適時に適切な料金等の改定をオープンに議論していくことが求められる。

 

2、競争社会への構造転換のもとで、

 以上のような取り組みを含め、これからの歳入確保策を考える場合の条件を改めて考えてみよう。

 

(1)「三位一体の改革」の影響。

4兆円規模の国庫支出金の廃止ないし削減が行われ、その補てん財源として3兆円規模の税源移譲が行われた。来年度(平成19年度)には、移行期間が終わって地方税のうち住民税個人所得割が10%の比例税となり、4%が府民税に、6%が市町村民税となる。この税源移譲(所得税から住民税所得割へ)では、おおむね財源的には増加する見通しのようだが、箕面市のように、高額所得者の多い自治体では、減収となる見込みの団体もある。また、税の滞納が大きい自治体も税源移譲のメリットを活かせず、減収となる自治体も生じる。

 

(2)、個人所得などの税収の中期的低落傾向。

基幹税のひとつである個人住民税所得割全体について言えることは、その伸びが鈍いということである。今年度の収入見込みは、地方財政計画ベースでは府民税で11%程度、市町村民税で10%程度の増が見込まれている。しかしこれは、主として平成111999)年度から実施されてきた定率減税が昨年度に半減されたことによる増税効果である。071月には全廃されるので、この増税効果は来年度も続くことになる。

しかし、われわれが注意しておかなければならないことは、全国の個人住民税(府県民税と市町村民税合わせて)は全体として減少してきたという事実である。平成41992)年に115千億円のピークをつけた後に減少に転じ、定率減税後の平成12年には97千億円となり、その後さらに減少して平成162004)年度には87千億円にまでなった。このうち00年から04年までの1兆円(この期間の減少率は9%)の減少は、定率減税の直接の影響を除いてのものである(『地方財政白書』から)。

また、『自治大阪』(平成1711月別冊資料集)によれば、府内市町村の地方税は、この00年から04年の間に、16,495億円から14,810億円に減少している。1685億円、約10%の減である。この要因は、個人住民税所得割と固定資産税の減と考えられる。

この個人所得割の減少は実は根が深いものと考えたほうが良い。ある市の課税所得の分布の変化を見ると、全体として給与所得者の収入の低下があり、その中で給与所得の格差が開いてきている。おそらく、バブル崩壊後の企業のリストラによって、離職したり転職したりした人々が多かったことの反映である。中高年層がこのリストラの対象と考えられるが、一方で20歳代から30歳代前半の若年層においても正規社員から派遣社員やパート、アルバイトへの雇用の非正規化が急激に進んだ結果である。すなわち、このような税収の動きはわが国が「格差社会」、すなわち「競争社会」に転換してきたことを反映してきたものと考えられる。

 

(3)、格差社会(競争社会)への「構造改革」。

このようなことが生じる理由としては、経済のグローバル化によるところが大きい。給与所得格差が開いてきた最大の根拠は、正社員から非正社員(派遣社員やパート、アルバイトなど臨時的な雇用)の活用に企業の雇用政策の重点が移ったためだが、これは国際的な競争にさらされる企業が選択せざるを得ない、コスト削減施策のひとつだと言うこともできるからである。最近、労働局から事業停止命令を受けた人材派遣と請負の大手が、自動車産業や電機産業で横行する「偽装請負」の担い手であったこともこのことを示している。

 この点については、次のような注文もついている。要約すると「企業景気がなかなか消費に点火しない。企業のダムにたまったお金は依然として庶民の家計に流れてこないからだ。企業の分配政策が変わったためだ。法人企業統計では株主優遇政策を進めた結果、支払配当金は10年前の3倍に。一方で労働分配率はピーク時から10%落ち込んで歴史的低水準となっている。しかも人件費の配分が変わって、役員給与は3年前から増加して12%上回る一方、従業員の給与は下がる。加えて福利厚生費の削減で人件費はピークを10%下回る。賞与を加えると従業員と役員の報酬の格差は10年前の2倍から3.9倍と成った。ストック・オプションも加えると格差はもっと大きい。米国流も結構だが、分配のひずみを正さないと消費の本格的な回復は期待できず、景気も早晩息切れする。労働分配率を過去30年間の平均に戻すと企業負担は年4.5兆円増えるが、特別損失10兆円が半減するから十分可能だ。次は従業員に報いる番だ。」(日経929日、大機小機。)

 

(4)、規制改革。

そしてこの間の、特に小泉政権下での経済財政諮問会議や規制改革本部の「構造改革」政策がこの傾向を加速したことが、所得格差を拡大する方向に作用したのは、その良し悪しは別にして事実である。例えば、タクシー業界への参入規制の緩和と料金規制の緩和と言う競争施策の導入は、タクシー・ドライバーの雇用労働条件を引き下げ、それによってタクシー業界は年金受給者がドライバーの中心となる職場に再編成されつつある。若年層が家族を支える給与が保障されないのである。日経新聞社によると大阪では平均年齢が58歳、60歳以上が45%になっている。平均年収は320万円に落ち込んでいる。

 また大メーカーでも「偽装請負」が普遍化するような事態が生まれたのは、2003年の労働者派遣法改正で、2004年から製造業へも派遣が可能になったことがあげられる。またその前1999年に、労働者派遣の対象事業が港湾、建設、製造など4事業以外(ネガティブ・リスト)に可能になっていたことも作用している。

 

(5)、安倍政権の成長重視政策。

この927日に発足した阿部晋三内閣は、このような競争促進政策をさらに進めることを経済政策の中心に置いている。企業の競争力を強め、それによって「経済成長」を加速させることを目指しているといっても良い。1013日に開かれた新メンバーによる第一回の経済財政諮問会議(安倍首相、塩崎恭久官房長官、太田弘子経済財政担当相、菅義偉総務相、尾身幸次財務相、甘利明経済産業相、福井俊彦日銀総裁、伊藤隆敏東大大学院教授、丹羽宇一郎伊藤忠商事会長、御手洗富士夫キャノン会長(経団連会長)、八代尚宏国際基督教大教授)は、民間メンバー4人が「成長なくして日本の未来なし」として示した7つの課題を了承し、今後この課題実現に向けて1月に施策化を行うこととした。

その7つの課題とは、1、全産業での情報通信技術等のイノベーションの加速、2、労働市場の効率化(労働ビッグバン)、3、法人税減税などグローバル化対応税制、4、民間企業の活動領域の拡大と規制改革と財政再建のための複数年度改管理、5、政府関与の必要な分野での「市場の再設計」による資源の最大限活用、6、政府系金融機関や特別会計改革などによる資産の効率的運用、7、地方の自律性を高める包括的な地方分権と国民のくらし重視の観点から改革が実感できる具体的施策。

したがって、このような「競争社会への構造改革」の中心は、それが成功するかどうかはさておき、1990年代以降に進行し、小泉改革で加速された傾向をさらに推進するところにある。

なお、成長政策の目玉として法人税減税が来年度にも行われると、地方の法人関係税および固定資産税もその伸びが抑制されるか、縮小することが予想される。

 

(6)、労働分配率低下のもとで。

ところで、日本経済はこの10月で景気拡大期間が20022月から57ヶ月となり、戦後最長の「いざなぎ景気(65年〜70年)」と並んだ。しかし、いざなぎ景気とはかなり異なる。端的に言えば、景気拡大の実感を国民の多くが実感できていないのである。まず、この間の名目の経済成長率は平均で年1%(実質で2.4%)で、いざなぎ景気の18.4%(名目11.5%)とは全く異なる。いわば完全な「低成長の時代」に入っている。なおバブル経済景気では名目で7.3%成長であった。景気拡大の主役は、低金利などによって為替が円安で推移したこともあって輸出であった。個人消費は拡大していない。

 個人消費の伸びが低調なのは、先にも見たように個人の所得が減っているからである。名目雇用者報酬はデフレと非正規雇用へのシフトでこの期間中にマイナス1.6%であり、労働分配率もピーク時の70%から61%に大きく低下している。

 1010日に金融広報中央委員会が発表したところによると、貯蓄を持っていない2人以上の世帯の割合は2003年調査で初めて全体の20%を超えた。06年の調査では少し減ったがなお22.9%が貯蓄をもっていない。貯蓄がない単身者世帯は32.3%に上る。

 国税庁発表の2005年の民間給与実態調査では、民間企業に勤める人の給与は平均で4368千円で、前年より2万円、0.5%減少した。これで98年以来8年連続してダウンしたことになる。給与所得者数のほうは前年より0.9%増の44936千人。非正規労働者の増加で給与総額の増加は人数の増加率を大きく下回っている。なお、男性が5384千円で25千円の減少、女性の平均は2728千円で8千円の減だった。男女の平均給与の差は、ほぼ21である。

 

おわりに

 以上に見てきたような競争社会への構造改革が進み、社会の不安定化が心配される中で、自治体にはそれに見合った「新しいセイフティーーネット」の構築も求められる。そういう意味でも、税の公平性を確保しながら、収入を安定的に確保することがより厳しく求められる。さまざまな政策ツールを駆使して、市民への説明責任を果たしていかなければならない。そのためには、歳入確保は財務や税務の仕事という考えを捨て、全庁的な歳入確保施策の推進も必要である。

 そういった観点から、大阪府が、広告事業で得た財源を、原則全額、当該部局で活用可能とする取り組みを行っていることや、熊本県が2007年度当初予算編成で、創意工夫を凝らして歳入を確保した部局には、確保が見込まれる財源の一部を上乗せ要求できる優遇制度を創設したことは検討に値する(『官庁速報』061025日)。

 いずれにしても、歳入の確保ができるかどうかは、多くの市民の行政への信頼がどの程度あるかに究極的には依存している。納税者の付託に応え、税金や公金を市民から預かったものとして、公正かつ公平に、そして有効に支出していくことが大事である。予算編成や執行過程への市民参加と参画をより積極的に推進することも求められている。

 

            

 

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