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公会計改革と財政健全化基準

澤井勝(初出:「クリエイティブ房総」千葉県自治研修センター、2008年3月


目次
ピッチを早める地方公会計改革/財務諸表4表とは/自治体財務諸表の作成状況/ 地方公会計改革とはなにか/財務報告に求められる機能/ 分権改革と説明責任の拡充/ 現金主義会計と企業会計、その得失/ 民間企業と自治体の存立目的などのちがい/ 住民への説明から財政報告書へ/ 財政健全化基準と公会計改革/ おわりに 公務員が「市民」となるために


ピッチを早める地方公会計改革 

 京都府は2007年度半ばから、府内の全市町村に呼びかけて公会計改革に向けた「研修会」を既に6回開催してきている。内容は、20071017日に公表された「新公会計制度実務研究会報告書」に示された「基準モデル」と「総務省方式改定モデル」のうち、「総務省方式改定モデル」によって、財務書類4表を作成するためのものである。財務書類4表とは、「貸借対照表(BS)」、「行政コスト計算書(PL)」、「資金収支計算書(CF)」、「純資産変動計算書(NWM)」の4表である。京都府としては、この財務書類4表を連結したものを、2006(平成18)年8月に総務省が示した「地方公共団体における行政改革のさらなる推進のための指針」(新行革指針)に沿って、2009(平成21)年秋までに作成し、公表したいとしているようである。この財務諸表整備の水準は、新指針では全都道府県と3万人以上の市に要請している水準である。町村などは2011(平成23)年度までに整備をお願いしたいとしている。

したがって、対象とする決算は2008(平成20)年度決算ということになる。もっとも、総務省の前記報告書に基づく通知(20071017日)によれば、新財政健全化法(正式には、「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」平成19年法律第94号)に基づく健全化判断比率が、各自治体ごとに2007(平成19)年度決算に基づき、2008(平成20)年秋には公表されることもあり、例えばこの2008(平成20)年秋にも連結財務書類4表または、少なくも連結貸借対照表のみでも、開示することが望ましいとしているので、作成と公表が前倒しということもありうる。

この場合の連結対象は、普通会計(一般会計と一定の公営事業会計を統合した統計上の会計)、国民健康保険会計や介護保険特別会計のような公営事業会計、病院や交通、下水道など公営企業・準公営企業会計、一部事務組合・広域連合、地方独立法人、地方三公社(地方住宅供給公社、地方道路公社、土地開発公社)、地方自治体が出資している財団や公社、株式会社など民法法人、商法法人である第三セクターである。各地方自治体はこれらの特別会計、法人の財務書類を整備し連結資料を適時に、かつ正確に作成することが求められる。

 

財務書類4表とは

 

 なお、この財務書類4表の意味は次のように示されている(前にも触れた総務省自治財政局長通知「公会計の整備推進について」平成191017日)。

「貸借対照表は、地方公共団体がどれほどの資産や債務を有するかについての情報を示すものである。公共資産を『将来の経済的便益の流入が見込まれる資産』、『経済的便益の流入は見込まれないものの、行政サービス提供に必要な資産』、『売却が可能な資産』に区分し、その保有状況を住民に開示することができる。」「また地方公共団体財政健全化法の将来負担比率の算定について、連結貸借対照表に示される数値も引用しながら説明することが望ましい。」

「行政コスト計算書は、地方公共団体の経常的な活動に伴うコストと使用料・手数料等の収入を示すものである。コストの面では、人件費等の人にかかるコスト、物件費等の物にかかるコストといった区分を設けており、住民への説明にあたっては当該コストの性質について簡潔に説明することができる。」

「純資産変動計算書は、地方公共団体の純資産、つまり資産から負債を差し引いた残余が、一会計期間にどのように増減したのかについて明らかにする。総額としての純資産の変動に加え、それがどういった財源や要因で増減したかのかについての情報も示される。」ここで示される、「その純資産の変動こそが現役世代と将来世代との間での資源の配分を意味することとなる。例えば、純資産の減少は、現役世代が将来世代にとっても利用可能だった資源を費消して便益を享受する一方で、将来世代にその分の負担が先送りされたことを意味する。逆に純資産の増加は、現役世代が自らの負担によって将来世代も利用可能な資源を蓄積したことを意味するので、その分、将来世代の負担は軽減されることとなる。」(この項は『新公会計制度研究会報告書』平成185月、16頁)

「資金収支計算書は、現金の流れを示すものであり、その収支の性質に応じて、経常収支、公共資産整備収支、投資・財務的収支などと区分して表示することで、地方公共団体のどのような活動に資金が必要とされているかを説明することができる。また、基礎的財政収支(プライマリーバランス)も説明することができる。さらに、地方公共団体財政健全化法の実質赤字比率、連結実質赤字比率および実質公債費比率の算定について、資金収支計算書又は連結資金収支計算書に示される数値も引用しながら説明することが望ましい。」

 

自治体財務諸表の作成状況

 

ところで、2007331日現在で、地方自治体の平成17年度版の財務諸表(バランスシートと行政コスト計算書)の作成状況を総務省の資料で見ると、都道府県は普通会計のバランスシートと行政コスト計算書は47都道府県が、普通会計と公営事業会計をあわせた地方公共団体全体のBSPL44都道府県が、これに公社と第三セクターを加えた連結BS47都道府県が作成済みである。

政令指定都市(15団体)の場合は、普通会計のバランスシートと行政コスト計算書は全団体が、地方公共団体全体のバランスシートは14団体が、連結バランスシートは15団体全てで作成されている。

790市区では、63179.9%)の市と区が普通会計のバランスシートを作成し、行政コスト計算書は47860.5%)の市と区が作成済みである。ただ、連結バランスシートは84団体(10.6%)で作成されているに過ぎない。

1022の町村のうち、467団体(45.7%)が普通会計のバランスシートを、232団体(22.7%)が行政コスト計算書を作成している。地方公共団体全体のバランスシートは42団体、連結バランスートは18団体で作成済みとなっている。

 

地方公会計改革とはなにか

 

「公会計」という言葉は新しい言葉で、おそらく15年前には用いられていなかった用語である。当時は「官庁会計」といっていたものに相当する。ちなみに、平成2年に第二版がでている中央経済社の『会計学辞典』では、「官庁会計」、「公益事業会計」、「公益法人会計」、「公企業会計」があるが「公会計」はまだ搭載されていない。現在、「公会計」が示すものは、政府(国と地方自治体)、独立行政法人、公営企業、関連行政機関の会計である。ただし、これらの「公的セクター」の会計は、相互に性質のことなる財政活動を整理・表現しているため、「公会計」という言葉できちんと整理、統一された概念が成立している訳ではない。ここでは、中央政府ともことなり、地域での政府活動を担っている地方自治体の会計について考えることとする。

 「公会計改革」とは、例えば地方自治体の決算報告(財務報告)について、民間企業の企業会計方式を導入することを意味する。「企業会計方式」とは、「発生主義会計」と「複式簿記」の考え方を活用して、財政運営の結果を整理し報告する方式のことである。

 

財務報告に求められる機能

 

 このような企業会計方式を、公会計に導入する目的は二つの側面から要請されてきたとされている。

 第一には、税金を究極的な資源とする公会計に対して、市民、納税者、投資者による効果的な統制を実現するための「財務報告書」として求められる機能という側面である。そのような「財務報告書」として求められる具体的な働きは次のように指摘されている(筆谷勇監修『公会計読本』ぎょうせい、200410月、3頁に加筆)。

1、資源(リソ−シズ)が合法的に採択された予算に準拠して獲得され、使用されていることを示すこと。

2、資源が、議会(立法当局)により設定された財政上の規律と、法律および契約上の条件に依拠して確保され、利用されていることを示すこと。

3、財務資源の源泉、配分、および使用に関する情報を提供すること。

4、報告主体が、自己の活動にどのように資金調達を行い、自己の資金需要をどのように満たしたかについて情報を提供すること。

5、報告主体が、自己の負債と契約債務とを負担する能力を市民等が評価するのに有用な情報を提供すること。

6、報告主体の財政状態、およびその変動に関する情報を提供すること。

7、報告主体の業績を、そのサービスの費用、効率、および達成度の観点から評価するのに役立つ、総合的な情報を提供すること。

 以上のような働きを求められる財務報告書としては、現在の現金主義「官庁会計」では、資産や負債のストック情報や行政コストに関する情報において不足している。市民に対する、財政状況の説明責任を果たすためには、このようなストック情報やコスト情報を積極的に開示する必要がある。それが発生主義会計と複式簿記の考え方を活用する意味である。

 

分権改革と説明責任の拡充

 

第二は、地方分権改革の推進と進展に伴い、地方自治体の市民に対する責任が格段に重くなっていることから、今まで以上に総合的で正確な情報の提供が求められる。また市民の側からしても、従来以上に行政活動に参加し、また参画することが求められ、行政との協働を求められる時代に入っていることから、より正確な財政情報の開示を求めるようになっているからである。

 言うまでもなく分権改革の中心は、法令の解釈権が都道府県と市町村に公式に付与されたところにある。この法律の解釈権が都道府県、市町村にあるということは、法律を解釈し、運用する責任が自治体にあるということでもある。具体的には、法律に基づく施策を起案する主査クラス、それをまとめる課長クラスに第一の責任があるということである。それが「国と都道府県」、「国と市町村」、「都道府県と市町村」が「対等・平等」になったことの意味である。法律の解釈と運用において対等なのである。(松本英昭『要説 地方自治法』ぎょうせい、第13章第2節を参照。)

 すなわち、地方分権一括法が施行された2000年4月以降は、国から地方自治体に対する関与、また都道府県から市町村に対する関与は、地方自治法第245条(関与の意義)から第245条の9までに規定されているように、「指導」という関与は廃止され、「技術的助言」以下の7種類に限定されているのである。

したがってまた、これまでの「指導通達」は全て失効していると理解すべきである。現在の「通達類」もほぼその98%までが「技術的助言」以外のもではなく、自治体の執務上の「参考資料」の域を出るものではない。

繰り返しになるが、その分だけ自治体の市民に対する説明責任は重くなっているのである。これまでのように、住民や事業者に対して「それは通達に従えばこうなるので、責任は国にあります」という釈明はしてはならないし、そもそもそのような釈明は無効である。

現在の地方自治体は、直接に市民に対して責任をとることが求められ、市民とともに地域社会を形成していく責任を担っている。その基盤は、租税を一方的に徴収し、予算にしたがって使用する統治権力だという責任の自覚にある。つまり本来の主権者である住民に対する誠実な説明を行う重い責任があるのである。税金を主たる資源とする資金をどのように使ったか。市民の過去の負担で形成された「資産」はどのようなかたちで、いくらあるか。「負債」はどの程度で、将来の世代の負担はいかほどか、など。

そのような財政情報は、ストック情報やコスト情報を補強することで求められるのである。

 

 現金主義会計と企業会計、その得失

 

現在の政府部門の会計は、周知の通り、明治時代にプロイセンから導入された、「単式簿記」と「現金主義」(現金の移動時点で取引を記帳するもの)で行われている。法律に基づく現金管理を主体とする会計方式といっても良い。それが、自治体の財務についての定めが、地方自治法の「財務編」に置かれている理由である。このため戦後の改革期に、財務の編を「地方財政法」として自治法から独立させる考えもあったという(石原信雄元自治事務次官の証言)。現実には地方財政法は、起債の手続きと国庫補助金の規制を中心としたものになったとされている。なお、1963(昭和38)年の地方自治法の財務編の大改正の時に、複式簿記と発生主義を基盤とする新財務制度改正案が検討され、報告もされている。このときの膨大な報告書を見ると現在問われている論点は多くが既に議論されているのである。

 現金主義のメリットは、直感的にキャッシュフローについての情報を把握することができるところにある。そのため、議会や行政が歳出予算についてその支出を客観的な数値によって監視し、統制することが容易な方式といえる。またそれに基づく情報は、高い信頼性と比較可能性をもち、予算統制を容易にする。また現金主義は、複雑で専門的な会計学の知識を必要としないので、工夫次第で情報の説明や理解が容易である。

特に企業会計と異なり、公会計は財政状況を報告し説明する対象が異なるから、この専門的知識をそれほど要しないという特徴は重要なメリットである。公会計のステイク・ホルダー(顧客、利害関係者)は、民間企業会計であれば銀行や証券会社など投資家としての金融機関、個人投資家など専門家が主たる顧客だが、公会計はそれとは異なる。最大の相違点は、住民が究極の主権者であり、その主権者の理解を得ることが最大の政策課題だという点である。もちろん、地方債などへの金融機関投資家などへの専門的説明も必要であるが、それはいわば二次的なものである。

 

民間企業と自治体の存立目的などのちがい

 

また営利企業と自治体ではその存立目的が異なる点も重要である。民間企業では「利益の追求」がもっとも大きな目的であり、善である。しかし、自治体の場合は、その存在理由は「住民の福祉の増進を図ること」(地方自治法第1条の21項)であって、利益を目的とすることは公営企業や第三セクターなど付随的な機関の目的である。したがって、民間企業の経営判断の中心は損益計算書(PL)に示された経常利益、税引後利益の増減などだが、総務省方式での損益計算書にあたるものは「行政コスト計算書」になっているわけであり、そこでの赤字や黒字の内容が経営判断指標としてのポイントになるのである。

また、自治体には株式会社と違って、株主という所有者がいない。主権者は住民(地方自治法第10条)だが、所有者とは異なる。したがって「資本」という概念があてはまらず、資産と負債の差額は、民間企業であれば「資本」であるが、公会計では「正味資産」とする提案となっている。

加えて、自治体が所有し管理する道路や橋梁、河川と堤防、上下水道などの社会資本、インフラストラクチャーは、もともと市場性がなく価格をつけることが不可能か非常に難しい。この事情がバランスシートの資産評価を正確に行うことを難しくしている。この点が地方公会計整備の最大のネックとなっている。これについては、今回の総務省案では、特に「基準モデル」では「時価評価」を行うとしているので、イギリスやニュージーランドのように公会計を企業会計に限りなく近づける立場のようでもある。アメリカは公会計と企業会計は別に考え、遺跡や軍事施設、公園などはバランスシートに計上しない。(兼村、星野『自治体財政はやわかり』イマジン出版、20016月、92頁)。

 

住民への説明から財政報告書へ

 

その点では、予算統制を中心とした自治体の会計では、予算について現金主義はなお有効であり、その活用をさらに工夫し、より住民にわかりやすく説明することも重要である。特に、企業会計方式は決算を対象とするもので、予算は対象とならず、また民間企業経営では予算は企業秘密もあって公表の義務づけはない。その点、議会(議会審議と議決)と市民による予算統制(監査請求、納税者訴訟、リコール、条例制定改廃請求など)を中心とする民主主義的なレギュレーション(規制)の下にある自治体の特色を生かすべく、作成される財務書類4表もそのようなレギュレーションのツールとして活用するという視点が忘れられてはならない。

同時に、新しい財務諸表の公開と説明は、住民にわかりやすく工夫される必要がある。単に財務諸表を示すだけでは、公会計改革の名に値しないだけではなく、むしろ情報によって住民に目つぶしをかけることになる。財務情報を簡素でわかりやすく示すこと、特に当面はこの3-5年の経年変化と、比較しうる他団体や全国平均の率などとの比較が求められる。それに加えて、財務情報以外の「非財務情報」を組み合わせた「財政報告書」を作成し、公表することが求められる。損益に関する情報で足りる民間企業と異なり、「住民の福祉の増進」という多面的な価値を実現することをその存立目的とする自治体のパフォーマンスは財務諸表だけでは情報不足である。保育所待機児童の数とその充足計画、コミュニティスクールの生徒満足度、街の景観保全条例の住民周知度などの行政評価、政策評価のアウトプット指標とアウアトカム指標とを合わせて一覧できる「行財政報告書」の整備に進みたい。

現金主義会計のデメリットは既に触れたように、現在および将来のサービスの提供能力に影響する、資産や負債というストック情報が得られないところにある。また現在のコストの把握も、資産の減価や退職手当の費用など、将来の正確なコスト(期間コスト)の情報も、それ自体としては得ることができない。したがって、総合的な財務状況の把握には情報が不足することとなり、企業会計方式の活用が求められている、といってよい。

 

財政健全化基準と公会計改革

 

最後に20076月に成立し、20084月から一部が施行される新財政健全化法(正式には「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」)に定められた「財政健全化基準」との関連について述べておきたい。

 この法律は、自治体の財政破綻を早期に発見し、「健全化」すること、それができずに「財政再生」状態に陥った場合の救済を目的に制定された。中心は四つの指標により「早期健全化基準」「財政再生基準」を設けたところにある。この四つの指標とは、「実質赤字比率」、「連結実質赤字比率」、「実質公債費比率」、「将来負担比率」である。

これらは財政規律の早期の確立を目指して、その団体の財政危機の進行度を測る指標であるが、それはできるだけ正確な財務情報に基づくものでなければない。その点では、公会計改革によって作成されるストック情報やコスト情報を繰り込んだものであることが望ましい。このことを強く意識しながら「健全化基準」等が定められた(20071228日施行の健全化法施行政令)。今のところ、「連結実質赤字比率」、「実質公債費比率」に企業会計方式を活用した連結決算の考え方が示されている。また「将来負担比率」は、負債の将来負担の見込みを算定するよう、発生主義の考えかたを導入して設計されている。その点で、これらの財政健全化基準等の説明をするに当たっては、財務4表の数字を援用してもらいたいとの指摘が行われている(20071228日、日経、青木信之総務省自治財政局財務調査課長)。また、早期健全化計画などの策定にあたっては、売却可能資産の把握を優先することによって、健全化計画をより実効性のあるものにすることができる、としている。

 しかし、健全化指標は、ピュアな財務指標ではない。現在の自治体の財政状況を出発点としながらも、具体的に個々の自治体をいきなり財政健全化団体や財政再生団体に転落させるというような激変は、政治的にも避けなければならないという要請が働く。また、現在の自治体の財政状況のみを取り上げ、「自己決定・自己責任」の原則(この原則自身に誤りがあると思う。自己決定・自己責任の原則は、それだけの能力を全ての自治体が持っていることが前提であり、そのような能力を自治体の責任以外の理由で制限されている自治体にまで求めるのは誤ったイデオロギーである)を掲げて、赤字の責任を自治体のみに求めることには無理がある。自治体の財政状況は中央政府の施策展開の結果として、国の責任をも問う内容をもっているからである。そういう事情を勘案して作られた指標であるから、財務4表の数値を健全化指標などに代入することはできない。当分の間は、重要な参考資料等の扱いであろう。

 

おわりに

 我が国の地方公会計改革は財務4表の全自治体での策定と言うところまできた。しかし、東京都など独自方式で財務諸表を策定している団体もあり、さらに、「基準方式」と「総務省方式改訂版」でどちらを選択するかはこれからの課題である。ということで財務諸表の統一までにはまだまだ時間を必要とする。そしてこの財務諸表を活用し、さらにより正確な財務状況を把握する指標として行くにも、同じように時間がかるであろう。その間に地方自治体がすべきことの一つは、このツールを活用して、財務指標を読み、意見を表明できるよう住民と職員の力をつけていくことである。すなわち住民と職員のエンパワーメントを基本とした取り組みの積み重ねが求められる。

 さらに、自治体の職員に求められることは、市民に対して財務諸表と合わせて、「予算の内容の説明」を十分に行うことである。その一つとして、最近は予算編成過程への市民参加が進んできている。鳥取県から始まった、課長査定段階、部長査定段階、知事査定段階の各段階ごとに、事業ごとの予算要求とその査定内容がホームページ上で公開され、それぞれの段階でのパブリック・コメント手続きを経るというスタイルが広まりつつある。

このような予算編成過程の公開は、財政民主主義(納税者市民が直接、間接に財政をコントロールするという意味で)の確立にとってこれからは、不可欠になる。そのためのツールとして、財務諸表を役立てたい。もっとも解りやすいのは、「行政コスト計算書」である。東京都のように、「新交通システムゆりかもめ」や都立病院ごとの行政コスト計算書として示せば市民にとっても興味を引く説明となる。

 そのバリエーションとして、図書館や公民館、市民会館などの施設について、その施設の入り口に看板を付けることを勧めたい。この施設の目的はなにか。管理者は誰か。建設費はいくらで、借金はいくら、国庫補助金はいくら、一般財源はいくらか。借金の元利償還金または減価償却費や人件費も含む維持管理費はいくらか。そして利用の実績はどうか。これらを張り出し、意見を求める。このような説明は、あれこれのイベントや個々の事業でもできる。

このようにして、公務員に、そして利用者の市民にもコストに鋭敏になってもらう。このようなコスト感覚の形成は、資源を有効に活用するための「市民的な能力」をつくることでもある。公務員もまた「市民」となることを社会的に要請されているのである。

 

 

主要参考文献

1、加藤芳太郎『自治体の予算改革』東京大学出版会、1982年。

2、加藤芳太郎『日本の予算改革』東京大学出版会、1982年。

3、宮元義雄『逐条問答 地方財務の基礎知識』ぎょうせい、1989年。

4、兼村高文、星野泉『自治体財政早わかり』イマジン出版、2001年。

5、肥沼位昌『図解 自治体財政のしくみ』学陽書房、2002年。

6、吉田寛『住民のための自治体バランスシート』学陽書房、2003年。

7、松本英昭『要説 地方自治法 第3次改訂版』ぎょうせい、2004年。

8、筆谷勇監修『公会計読本』ぎょうせい、2004年。

9、中地宏監修『自治体会計の新しい経営報告書』ぎょうせい、2006年。

10、 稲沢克祐『公会計 改訂版』2007年。

11、 澤井勝主催『地方財政情報館』http://www.zaiseijoho.com

 

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