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                              『部落解放研究』第163号、05年4月の草稿。
                            

三位一体改革と人権政策

                       奈良女子大学  澤井勝

はじめに

一昨年春の本誌第151号において「分権改革と地方自治体の雇用・就労政策」と題した拙稿で人権政策としての地方自治体、特に市町村での「雇用労働行政」のあり方について若干の提案をさせてもらった。この間に、「地域福祉計画」の領域でも、新しいもうひとつの人権施策が展開され始めていると考えることもできる。ごく限られた領域であるが、このふたつの柱を中心に、人権保障の面で大きなハンディを持った人々の自立を支援するという観点からの施策を考える事としたい。なお、地域福祉計画については本誌20024月の第145号で、玉置好徳氏の「部落解放とこれからの地域福祉計画のあり方について」などで主な論点は提示されている。

ところで一方で、政府の経済財政諮問会議でとりまとめられた「三位一体の改革」が04年度の予算から具体化されたが、国庫補助負担金の廃止・削減と税源移譲は不十分なまま、結果として地方自治体の大幅な歳入、すなわち一般財源の圧縮が明らかとなった。さらに05年度および06年度にわたって約3兆円の国庫補助負担金が廃止され、その補填財源として、所得譲与税と税源移譲予定交付金2兆円弱が自治体に配分されることとなった。そして、08年度には、所得税の一部を地方税である個人住民税所得割に移譲することが、0412月に経済財政諮問会議から答申され、閣議決定されている。この税源移譲案は政府税制調査会の答申にも書き込まれることとなった。

このような「三位一体の改革」によって、財源面での削減圧力のもと人権施策が後退する懸念も強い。しかし、この「三位一体改革」は、地方分権改革の財源的な基盤を作るという意味がある改革でもある。それは国庫補助金からの自治体の解放という方向である。事態が分かり難いのは、「三位一体改革」が、一方で地方の財源を圧縮するところに主眼のある財務省と民間議員、他方で地方の立場を代弁する総務省、の三者の妥協の産物として、各年度の予算があるからである。

 

1、分権改革の意義 法令の解釈権が自治体に

            そして市民自治の形成

ところで、いくつかの前提条件を見ておきたい。第一には、分権改革の内容に関わることである。分権改革は、主として行政内部での権限の再配分というかたちをとる。したがって、市民にはわかりにくく、住民としては、どうでもいいことと取られやすい。つまり、役所はちゃんと仕事をしてくれればいいのである。また、市町村の理事者や担当者も、仕事の仕方にほとんど変化がないために、分権改革の意義を把握しそこなっている場合も少なくない。したがって、制度は変わっても仕事の仕方は変わらず(というより変えようとせず)、という場合が圧倒的に多い。

しかし分権改革の隠れた課題は、制度的に権限が国(各省大臣)から府県や市町村に来ている場合は、積極的に独自の取り組みを行うことによって、分権の内実を形成する責任が、府県や市町村の公務員にはある、ということなのである。つまり、ほとんどの国の事務(機関委任事務)は「自治事務」となっているのであるから、あとは自治体(府県や市町村の担当者)の賢明な解釈によって、様々な運用や適用ができるはずなのである。

もうひとつは、住民の自治、市民の自治の形成に向かう政策の流れを明確につかんで、その方向を促進することである。それがたとえば、住民がその策定と実施の主体として期待される「地域福祉計画」に見ることが出来る。同時に、9812月のNPO法施行以来、0412月末現在で累計19963となったNPO法人というかたちで、従来の自治会など地域自治組織と異なる市民組織が、制度的に成長してきているという流れがある。これはボランティア団体などのひろがりと相通じるものがある。

すなわち、今世紀を地方分権の世紀と言うことが許されるなら、それは基礎的自治体への権限移譲とその自治的な解釈運用、および新しい立法活動の展開という側面と、市民自治の展開を目指した新しい担い手を形成する「まちづくり」政策の策定と実施、そのような市民組織と行政の「協働」を通じた地域社会における「新しい公共性」の構築という側面とである。「分権と自治」という二つの課題を同時に追求することが求められている。

 

2、将来的にも縮小する政府財政規模

ところで、このような三位一体改革の基本的な動因を作っているのは、05年度末に740兆円になると見込まれる政府債務の問題である。経済財政諮問会議が051月に決め、閣議決定された「構造改革と財政経済の中期展望(改革と展望)04年度改定」では、プライマリーバランス(債務の元利償還金を除く歳出を、税収で賄えるか否かという収支バランス)を、2012年度に黒字化するとしている。このプライマリーバランスは05年度予算ベースで見ると、約16兆円の赤字となっている。04年度は約19兆円の赤字だったから、改善はしている。このプライマリーバランスの黒字化は、子ども達の債務を拡大しないという意味では、客観的には必要な財政改革である。

問題は第一に、歳入の拡大のための税収の確保を、社会的平等や公平性を拡大する方向で行うのか、それとも、富裕な層を優遇する形で行うのか(ブッシュ政権の減税策などのように)という歳入面でのそれがある。第二には、歳出面の圧縮をどの分野で、どのようなスピードと規模で行うかという問題がある。つまり、中央政府の縮小か、地方政府への負担転嫁と犠牲によるか、という争点である。また、社会保障基盤というセイフティーネットの構築か公共事業の維持か、という争点である。端的に言えば、国家の姿をどのようなものとして構想するか、という問題である。

ここでひとつ考えてておきたいことは、少なくも「人権が保障された国の姿」を追及するなら、第一に「福祉国家の骨格をしっかり構築」すること、第二に、その上に「福祉社会」を形成すること、そしてそれを支援することが、われわれが追及すべき「政府の構造改革」の主軸なのではないか、ということである。福祉国家の骨格とは、年金と医療保険、介護保険など社会保険制度と、生活保護のような所得保障制度の持続可能な制度としての確立であり、「福祉社会の形成」とは後に見るような「市民的コミュニケーション」の場の構築と、「市民的ファンド」の形成である。

そのように考えた場合においても、政府の財政規模は縮小していくことを前提として考えなければならない。これは、政府債務の拡大の抑制という税制面での制約がまずあるにしても、特にわが国の要件としては、早ければ2006年度から「人口減少社会」に突入するという条件があることも考慮に入れておく必要がある。

 

3,行政とボランティア、NPO、事業者との協働

このように強まる予算制約の下で、人権施策を展開するためには、行政の機能としては、様々な経営体や民間の事業体の力を引き出し、さらにボランティア団体やNPOの活動を支援し、それらがこれらの公共サービスを担えるように力を付けることに注力しなければならない。そして、社会的にハンディキャップのある人々が自立できるようなサポートの仕組みをつくることである。それが、ソーシャルワーカーの設置(人件費の配分)であり、またこれらの市民組織の財政支援を行うための租税や公的起債を通した補助金やファンドの設置と運用である。また、職業訓練や教育である。

市民の側から言えば、自らNPOを組織し、またボランティア団体を組織し、あるいは地域コミュニティを再生し、さらにそれをコーディネートする媒介組織すなわちインターミディアリを形成することで、行政からの自立を図ることが求められる。行政から自立すればするほど、行政との協働も意味のあるものになる。

 というのは、「縮小する公的財政」によって、「拡大する公共の仕事」を支えることが求められているからである。この矛盾を解決する方法は、「公共の仕事」を、行政のみが担うのではなく、「市民」が、行政と共に「協働して」担うという方向以外にはないともいえる。

公共的に、あるいは社会的に解決しなければならない問題は、これからも拡大していく。

第一に高齢社会に住む人々のニーズは一層増大する。05年度中の介護保険制度の改革では、要介護認定の調査を「市町村が行う」という本則に戻すという。また、要介護状態にならないよう「予防給付」を行うとしているが、その判定や給付、指導は基幹型在宅介護支援センターを拡充した地域包括支援センターの仕事としている。この「地域包括支援センター」は市町村の直営でなければ機能しないであろう。

 第二に、少子社会を担う人々を支援するためのニーズが拡大していて、それを社会的に支えなければならない。働く母親と父親を支える保育所が不足しているし、その内容も、延長保育や病児保育などなお充実が求められる。さらに在宅で育児に疲れた母親を、地域で支え、育児プランを作成する「こどもケアマネージャー」も創設する必要がある。ケアプランなど高齢者については基本的なスキームが出来ているが、子どもにはないに等しいからである。

 さらに、昨年の豪雨や台風などの災害は、地球温暖化に原因があるとしたら、常態化する可能性があり、地震対策も含め、災害に強いまちづくりが急がれる。そのうえ、サーズや鳥インフルエンザのような、新しい脅威がグローバルな人の交流を一因として拡大してきている。これらも「公共的に」対応すべき仕事である。

 

4、地域就労支援事業の可能性

職安法改正を受けて

ところで前稿では明確になっていなかった職安法改正は、20036月に成立し、20043月から施行され、無料職業紹介事業が市町村や府県でも届け出で行うことが可能になった。また、労働行政の面では、この間にいわゆるフリーターなど若年の青年層の雇用問題が、その高い失業率とともに大きな課題となり、京都府などで「ヤング・ジョブカフェ」などの取り組みが行われるようになっている。雇用労働行政の分権化の流れのもとで、大阪府や京都府、島根県の「ふるさと定住財団」などのこの間の取り組みによって、人権確立の基礎の一つとしての「働く」ということへの支援政策は、前回も若干紹介した「地域就労支援事業」などでより具体化されてきつつある。

大阪府の地域就労支援事業は、この職安法改正の前の2000年度から始まり、和泉市と茨木市で包括的な就労に関する住民意識調査を行いながらモデル事業を実施したうえで、2002年度からは大阪市など17都市に拡大し、その後さらに広げているものだ。

和泉市の場合は、いち早く無料職業紹介事業の届出を04年の4月に行い、事業を開始している。まず求人情報の把握から始めたという。それ以前のモデル事業からの地域就労支援事業の成果と経験を、04年の8月に京都自治総研の「雇用労働政策研究会」(座長は大谷強関西学院大学教授)における竹田竜彦和泉市労働政策課長(当時)の報告から紹介しておきたい。

まず、この地域就労支援事業の中心となる、コーディネーターの設置については、大阪府の設置費補助金がついているわけだが、このコーディネーター(個人を対象としたソーシャルワーカーのひとつである)が事業の鍵となる。

「就労支援コーディネーターは、多種多様な知識と能力が必要で、『スーパーマンやな。そんな人おるのか』とよく言われます。もちろんコーディネーターにすぐなれる人がどこにでもいるわけではありませんが、その養成や育成もこの事業の大事な部分です。しかし、のんびりと適任者の選択をしたり養成をしている時間的余裕も無かった本市では、次ぎの三つの要素にポイントを置きました。

@ 人との対話が得意又は好きなこと。

A やる気と根気があること。

B 就労困難者の気持ちを理解できること。

このうち@とAはそれほど難しくはないとしてBをどうするか。いろいろ悩みましたが結論としては、当事者から選任することです。方法としてはいろいろあります。当事者団体から推薦してもらうこともひとつですし、職安でも特定求職者の援助部門があります。本市の場合は、労働政策課(就労支援センター)に身体障害者(1級)、母子家庭の母、前職安特別相談員、民間労務主担退職者などがコーディネーター研修修了者として相談にあたっています。」

 なお、この当事者による就労困難者支援は、職業教育という分野でも特に重要だとする。聴覚障害者がパソコン教育を聴覚障害者に行う。視覚障害者が視覚障害者を教える。このことで、教育を受ける障害当事者の気構えが違い、また教育の視点が全く異なることから理解のしかたや速さが全く違うし、継続性も格段にいいという。

 

5、地域就労支援事業で納税者に

 また、この地域就労支援事業の成果については、なかなか難しいところがあるとしながら次のように述べる。

 「本市の実績としては、就労支援相談と位置付け、就労支援コーディネーターとハローワーク職員と合同で実施したのが平成1410月から2箇所で、相談者述べ518人、紹介83人、就職17人でした。その中に生活保護者3人が納税者に変わりました。154月からは相談個所を増やし4箇所で相談を開始し、9月末で相談者述べ876人、紹介124人、就職38人(うち母子家庭13人、障害者2人)の中には生活保護者5人が納税者に変わり,自分の目標を持ちました。

 このように、就職により生活保護から脱却した者の他に、保護廃止に不安を持つ者には、生活保護の適用を継続しながら就業・就労に導く職場体験や緊急雇用層創出事業での労働者になることで、保護の一時停止や収入認定による扶助費の軽減を図れたことともに、就職への助走を始めることとなったといえます。このように、保護適用を継続しながら就業・就労する稼動世帯は、平成13年度の210世帯から。14年度は257世帯に大きく増えています。これは金銭にこだわった財政的効果ですが、本来の効果は、市民の生活安定と自己実現という希望を持ちうることです。このふたつがもたらすものを、この事業の効果としたい。」

 財政当局への就労支援事業予算、特にコーディ−ネーター設置費(500万円程度うち市費250万円)獲得に向けた説得の議論は、扶助費削減のための「先行投資」という点であるという。すなわち、月額25万円の生活保護費を受けていた人が、就労して生活保護から抜けると、年間300万円の保護費の圧縮となる。もし10人が生活保護から抜け出せれば、3000万円の圧縮となる。4分の1負担である市費分だと750万円の抑制効果があることになるわけだ。この効果は毎年度継続して生じるもので、10年たてば3億円と7500万円の財政効果となる、という理屈である。20人が、希望をもって生活保護から脱却すれば、年間6000万円、10年で6億円である。

 それに、この10人または20人は納税者となるわけだから、国保料の減免からも外れるなどその歳入増加への寄与という効果がさらに加わることとなる。

 いずれにしても、同和対策事業の一般事業化にともない、広く対象を広げると共に新しいソーシャルワークという政策展開をしているのである。地域の就職困難者の自立を支援することで、地域の人々の活力を引き出し、財政力をつけることにもなるのであるから、この試みを息長く続けることが期待される。

 

6、事業を創る

 大阪府内では、市町村ばかりではなく、社団法人である「おおさか人材雇用開発人権センター(C−ステップ)」がこの地域就労支援事業を支えている。この事業は、市町村や府と連携しながら、市民が自ら事業を立ち上げ、雇用を開発し、起業する取り組みである。同じく京都自治総研の研究会(0410月)における富田一幸氏の報告から(以下間違いも含めて文責は筆者)。

 社団法人「大阪同和地区人材雇用開発センター」を転換する際に、ポスト同和対策事業としての基本的なコンセプトを、「自立支援とまちづくり」とした。その際、4つの問題意識があった。

第一には、自治体との新しい関係をつくるにあたって入札制度に着目した。画期となったのは、日本初の障害者雇用のための事業協同組合である「大阪知的障害者雇用促進建物サービス事業協働組合」(エル・チャレンジ)の発足だった。委託事業のダンピングに道を開く入札制度の強行には座り込み闘争で対抗し、最低賃金違反には就労拒否(契約解除)闘争を行い、ついに大阪府及び大阪市における「総合評価一般入札制度」の導入を勝ち取ったことが大きい。発足5年で、エル・チャレンジは50の現場で3億円の受託事業を担い、90人の就労者を確保している。

第二に企業との関係では、アウトソーシングに着目したこと、第三に医療法人や社会福祉法人に対しては、地域貢献に着目した。そして第4に地域では参加型まちづくりに着目して、就労機会の拡大とその質の転換を図ったといえよう。

その結果、老人軽作業は「生きがいワーカーズ支援事業」に結びつき、「生きがいワーカーズ」の数は85に広がった。また地域貢献の観点から、各地区に社会福祉法人やNPOが次々に誕生することとなった。つまり、「福祉でまちづくり」のニーズに応答することによって、市民の自立的な、自発的な「アソシエーション」が立ち上がってきたのであり、それをC−ステップによる4つの支援事業が支援してきた。支援事業とは、「人材スキルアップ事業」であり、「地域仕事づくりフェア」の開催である。また、1000社に及ぶ会員企業の拡大努力と、これらの会員企業の評価検証制度である。

 西成地区での多彩な起業も重要だ。(株)ナイス(まちづくり会社)による「住宅リフォーム」、「おしぼり」、「介護機器販売」、「ビルメンテナンス」、「調剤薬局」、「地域情報化支援サービス」、「賃貸マンション建設」など。

 この5年で、西成地区500人、大阪の同和地区で5000人の就労を創出したという。この取り組みは、後に見るロンドンのノース・ケンジントンにおけるハウジング・トラストやOAP(オープン・エイジ・プロジェクト)の活動に一脈通じるものがある。

7、地域福祉計画をつくる中で

 地域福祉計画は、2000年に社会福祉事業法を改正した社会福祉法に定められた行政計画である。これで法律の基づく福祉計画は、老人保健福祉計画、こども育成計画、障害者基本計画、介護保険事業計画、健康日本21計画など大きいもので6本になる。各自治体ごとにネーミングがことなり、子ども関係や障害者関係は未整備の市町村もかなりある。

 この中で、地域福祉計画はいくつかの特徴をもっている。第一には、住民を初めて地域福祉の主体の一つとして位置付けたことである。第二には、この地域福祉計画の詳細なマニュアル等を国が示していないことである。都道府県は、市町村の地域福祉計画を支援する計画を策定することとされているが、特にその内容に縛りがない。それは当然で、分権改革以降の計画策定であるから、その内容は自治体がつくればよいのである。

 この地域福祉計画を策定し、それを推進していくに当って、いくつかの興味ある現象が出てきた。それを奈良県宇陀郡菟田野町での、町社会福祉協議会の地域福祉行動計画と町の地域福祉計画策定過程で見ておきたい。

 菟田野町は人口4900人ほどの里山地区とでもよべる町で、高齢化率は2002年で24.8%であり、単身の高齢者世帯は107、高齢者のみ世帯は147世帯。介護保険の要援護者の数は209人となっている。身体障害者手帳を保有しているのは280人、ボランティア活動が活発な町で、社会福祉協議会に登録している団体は9団体だがユニークな団体が多く、登録者数は243人で人口の5%、協力者を入れると10%と高い数値である。

 この計画策定は住民が参加しないと意味が無い。いままで策定している市町村はそれなりに市民参加を導入しているが、せいぜい懇談会を一回程度としている市町村が多いのではないか。菟田野町の場合は、次のようになっている。

(1)住民意識調査

  1、一人暮らし高齢者については民生児童委員による訪問、留置方式。ほぼ半数が回答している。

  2、高齢者のみ調査は民生児童委員による留置方式と「いきいきサロン」における対面式聞き取  り調査。ほぼ悉皆である。なお「いきいきサロン」は、町内の12ヶ所で月一回のペースで拓か  れている。

  3、一般住民調査は郵送方式で配布数600票、有効回収数323票であった。

(2)地区別住民懇談会

  アンケート結果を、地区の住民懇談会に示して、何で困っているか、どうしたらよいか等について夜7時から議論した。三つのモデル地区のうち岩崎(大字)地区(町の部落解放センターがある)では、10ある組ごとの懇談会を行っている。基本は大字単位である。社協の職員や町の職員も一町民として議論に参加した。ルールは、一回2時間、人を攻撃する話はしない、地域全体の問題を、マンツーマンの話はさける、など。

 

(3)部門別懇談会を3回持っている。

  1、ボランティア団体や障害者などと当事者団体。

  2、民生・児童委員。

   3、保健センター、小学校、中央公民館、部落解放センター、病院、特別養護老人ホームなど。

 

8、住民協議で出てきたもの

(1)高齢者の抱えている問題としては、人のつながりが薄くなっていることで、近所づきあいが挨拶程度になっていることがどこでも指摘されている。

(2)行政に期待することは、災害時や犯罪などの場合であるが、困った問題を解決するのは、「行政と住民が協力して」という人が半数近くで最も多い。

(3)公共の交通機関へのニーズや、公園の荒廃、挨拶運動、痴呆を持った一人暮らし高齢者の見守りなど、まちづくり全体の課題が出てくる。

(4)外出しないで閉じこもり傾向の人がかなり多いが、手立てがなくなかなかそこからひきだすことができない。

(5)障害児が養護学校が休みのときに行く場所が無いなど、制度の不備が家族の負担のまま見過ごされている。

(6)地域で孤立して子育てをしている母親を支援する手段がない。

などが議論の中で浮かび上がったその地域の福祉課題の一部だが、住民懇談会や住民協議の面白いところは、議論する中で解決策が浮かび、それが可能であれば実行にうつされることである。そのようにして痴呆を持っている高齢の女性を近所の人が声かけをして、デイサービスの送迎を買って出ることによって、痴呆の症状が著しくよくなった地区がある。また、障害児の夏休みについては、部落解放センターの体育室の一部に畳を入れて、デイサービス用に変えてしまうということで乗り切る工夫が行われたりしている。

重要なことは、「協議する場」すなわち「コミュニケーションの場」をつくることにある。アンケート調査は実は、その結果を市民同士や市民と行政が一緒に読みながら討論するための、その意味では「コミュニケーション・ツール」なのである。「コミュニケーションから行動へ」という流れをつくることが、計画策定への市民参加と、推進への市民参画の道筋を作ることになる。すなわち、「福祉でまちづくり」とは、ハード面でのバリアフリー化などよりも、人と人の関係を作り、それを協議し、討議する関係として構築するところに意義があるのである。

 
このようにして、その地域で住んでいくために解決するべき課題が、あるいはニーズが住民に共有される必要がある。大きな「危機意識」が共有されることが求められる。その際、直ちに全ての住民に共有されることは期待できない。そうあれば望ましいのだが、多くの場合は、せいぜい一割の住民が共通の問題意識をもつにすぎない。しかし、まずはそ1割から始めることにしたい。

 このように地域福祉計画に、住民同士と住民と行政との対話と討論、そして協議する仕組みを導入することをワークショップ形式で試みているところもある。奈良県橿原市や大和郡山市である。


9、「コミュニケーション空間」の創造
 ロンドンの北西部、人口26千人のノース・ケンジントンは、黒人系のカリビアンと多様なムスリムを包み込んだ移民労働者と共生するコミュニティである。ここでの市民活動を丹念にフィールドワークして、福祉市民社会へのヒントと提案を行っている本がある。東京女子大学の加藤春恵子教授の『福祉市民社会を創る コミュニケーションからコミュニティへ』新曜社、20043月、である。

 
イギリスの市民社会の基礎には重層的で多様なコミュニケーション空間があることを改めて指摘する。Y・ハバーマスの『公共性の構造転換』で示されたこのコミュニケーション空間の有名な例は、コーヒーハウスであるが、現在それはパブであり市場である。さらには、多数の相談オフィスであり、図書館であり、コミュニティ・カレッジであるという。

 このうちの相談オフィスは誰でもいつでも「ふらっと立ち寄ってビスケットとお茶をいただきながら」話ができる「ドロップ・イン」空間である。もちろんソーシャルワーカーによる「アウトリーチ」という訪問相談も重要な位置を占める。

 ここで特にこの「コミュニケーション空間」の重要性を指摘しておきたい。話が飛ぶが、昨年5月に改正された地方自治法では、「地域自治区」が規定された。この「地域自治区」には「住民協議会」が置かれる。この「住民協議会」は市町村長の権限に属することがらについて審議し建議すると共に、自ら地域自治区に係わる問題を発議して議論し、提議できる。そしてこの「住民協議会」の構成員は、住民の構成を反映できるよう、市町村長が選任するとしている。これは「コミュニケーション空間」のひとつの創出ということを意味する。このような「公共空間」があることによって、行政的な分権は、地域住民の自治に拓かれることとなる。「分権と自治」を同時に追及することは、このような「地域自治区」、すなわち地域自治組織を構想することで、より具体的になるのだと考えたい。

 最後に財政規模が縮小することが避けられない時代における人権施策の拡張は、ひとつは、行政の分権化とソーシャルワーカーというかたちでのアウトリーチの展開として考えられる。この公務員としてのソーシャルワーカーは、一定の時期がたてば、NPOに引き継いで業務委任するなど、より柔軟なものに展開することになるかもしれない。そして、コミュニティワーカーとしてより行動範囲をひろげることとなる。

もうひとつは、NPOや社会福祉法人、協同組合、事業組合、株式会社などその他の市民事業の族生によって活性化することが期待される。そしてこのような市民事業を支える「市民ファンド」が幅と厚みと多様性をもって構築される必要がある。行政による住民参加型公募債によってNPO支援資金が供給されるような形もあり、市民税の一部をNPOの支援資金とする市川市のようなタイプもある。また白いリボン運動(阪神大震災の犠牲者追悼の運動から転換して、全国の募金運動で集まった資金をNPOの支援に活用する)のようなNPO自身による寄付金集積もある。

 そして、さまさまなコミュニケーション空間をつくること、すなわち市民が協議し、行政に要求し、自ら公共活動を担うことを決める、そのような場を作る事が、決定的に重要だということをあらためて提起しておきたい。

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