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                                初出:『地方自治職員研修』09年5月号号
                             澤井 勝

2008-2010世界経済危機」と自治体財政

             第二地方交付税の創設を
                  (初出:『地方自治職員研修』09年5月号

                                奈良女子大学名誉教授 澤井 勝

1,大幅な税収減に見舞われた自治体財政

 表題の「2008-2010経済危機」という名称は、アメリカのサブプライムローン問題から顕在化した金融危機から実体経済に波及しつつある現在の危機を、将来はこのように名付けられるだろうと考えて仮につけた名称である。ここでは、少なくもこれから3年間は、相当低い経済活動の下、底の深いデフレ状況が続くものと考えている。

この経済危機の直接の影響で、愛知県豊田市は08128日、来年度の法人市民税が08年度の当初予算比で9割減り、400億円近い減収になると発表した。トヨタ自動車の11月の営業収益予想では従来の5000億円から1400億円に黒字が圧縮するとしていたが、これに基づく見込みである。豊田市は予算査定をやり直し、庁舎建設は延期する。建設事業費を35%削り、不足分は900億円の積立金で埋めるとしていた。しかし、年明けにトヨタ自動車は三回目の業績修正を行い、営業赤字が1500億円から4000億円程度に拡大すると報じられ(130日、産経など)、純損益もその公表を始めた1963年以来、初めて赤字とされた。このため、豊田市の税収減の幅は赤字になった法人への法人税の還付を含めさらに拡大すると思われる。09213日に当初予算案を公表したが、そこでは法人税の減収は426億円減としている。これからさらに減ることは確実で、年度途中での補正等でこの減収拡大分は補填するつもりなのであろう。また東京都は7500億円の税収減を見込み、大阪府の場合は1500億円超の減収を見込んでいる(いずれも1218日時点)。

マクロの地方財政計画でも地方税の見通しが大幅に悪化するとしている。2009年度の地方財政計画での地方税収入見込みは、税制改正後、前年度当初に比較して42,843億円のマイナス、10.6%減の361,860億円としている。道府県では18.1%減、市町村では4.0%の減の見通しである。これがさらに減少することは確実である。

 

3,減収補填債等による歳入減の補填措置は不可避

このような税収見積もりは、国民経済の成長率をどう見積もるかによって大きく左右される。昨年末の予算編成にあたって前提とされた国内総生産(GDP)の見通しは510.2兆円程度である。2008年度の実績見込みは509.4兆円であるから、実質成長率0.0%である。名目の成長率は0.1%程度とかろうじてデフレを回避することとなっていた。

 しかし、この数字は10月から急激に悪化した経済動向を十分には反映していない。足下の経済動向からすると、マイナス成長に転落するのは避けられない。事実、09312日発表の、昨年10-12月期の国内総生産(GDP)の第二次速報値は▲3.2%、年率換算▲12.1%となった。おそらく、鉱工業生産指数の落ち方からすると091-3月期もさらに低下することと思われる。

 したがって、先にも触れたが、今年度の税収は年度途中に穴が開くのは確実である。この減収の一部は、減収補填債の発行でとりあえずは埋めることになる。

 

4,一方で不況対策と雇用対策に財源が必要となる

 同じく厚生労働省が09227日に発表した091月の全国の完全失業率は4.1%で、前月より0.2ポイント低下したが、完全失業者数は前年同月より21万人多い277万人。

このような動きからすると、これから半年で5%に悪化する可能性は極めて高い。20089月の完全失業者数は271万人だったが、これが338万人に増える計算になる。

このこともあって、国の2008年度の第二次補正予算には生活対策に掲げられた「雇用セイフティーネット強化対策」および「再就職支援対策費」として、「ふるさと雇用再生特別交付金」2,500億円と「緊急雇用創出事業交付金」1,500億円が追加されている。この交付金については、「各都道府県においては、これを財源として基金を設置して、民間事業者やシルバー人材センターへの委託等により、地域の求職者等を対象にした雇用機会の創出や非正規労働者、中高年労働者等の一時的な雇用機会を創出するための事業を平成23年度までの期間にわたり実施する」としている(総務省財政課長内かん)。この雇用対策交付金は、2009年度の地方交付税追加の1兆円のうち5千億円の「地域雇用推進費」に事業的には繋げていけるような工夫と腕力が必要となる。含意は、これら臨時的資金を中期的、長期的な地域人材育成のための資金として生かすところにあるからである。

 

5,予算執行のストップ・アンド・ゴー

 以上のように、交付税は若干の増額となる一方、年度途中の税収が当初予算を割り込むことは確実である。そのために、予算執行に当たっては、世界的な経済状況と地域的な経済状況とを両にらみで見極めつつ、時期に応じて執行にブレーキをかける一方、雇用対策や中小企業に対する金融対策を機敏に発動することが求められる。いわばストップ・アンド・ゴー政策で手綱を捌かなければならない。

 その際の中心的な政策目標は、地域の人々の様々な能力を形成し、蓄積することに置かきたい。たとえば、月に12万円の生活支援金を伴った職業教育の抜本的拡充政策を国の施策とあいまって、積極的に実行する。これによって新しい時代の市民のニーズに応える人的資源を育成する。その仕組みをつくり、施設を整備し、教育専門家を確保しなければならない。

まず絶対的に不足しつつある介護分野のスタッフの育成と定着が大きな課題である。このために、前記の雇用対策交付金をも活用することで、地域の介護スタッフ全体の給与を引き上げることも考える必要がある。7万人の都市で、必要な介護サービス従業者数は1000人程度との試算もある。一人2万円の付加手当を給付すると財源は2千万円である。

また将来の地域の生活と生産インフラを整備することが求められる。太陽光発電施設の整備や、電気自動車の開発推進を支えるスタンド整備、耐震補強工事を市町村管理の橋梁に広げること、街路の歩道整備などバリアフリーの環境整備など小規模だが多様な公共事業を拡充すること、など。

 

6,第二地方交付税を創出する

このための財政措置としては、第一に、国の補正予算および本予算にある各種交付金の積極的な活用である。第二次補正予算と09年度予算でも、臨時的なこれらの交付金は19千億円程度ある。その原資の多くは、外国為替特別会計などの「埋蔵金」の活用である。その他に類似の補助金が、経済産業省、農水省、厚労省、環境省など各省庁に配分されているから、それらを組み合わせたものとすることが求められる。すなわち、自治体においても、知事や市町村長を本部長とする緊急雇用経済政策対策本部を立ち上げ、各部局の情報を共有化した上で、最も政策的に有効な組み合わせを工夫するべきである。したがって、この対策本部の事務局は、企画部が担う必要がある。現在も多くの都道府県、市町村で対策本部が立ち上がっているが、連絡機関としての性格が強く、事務局はたまたま労政課であったりして、相互の政策を調整して総合化するまでには至っていないようである。これら本部の発表施策も、各省庁の予算事業の単なる羅列となっていないか危惧される。

第二は、臨時財政対策債を限度額いっぱいに発行してこれらの単独事業のための資金として活用し、前記の地域人材の恒久的な育成という視点に立った、地域での失業者対策を進めることが求められる。国のハローワークを中心とする事業が拡大することは必然だが、職業教育機関などは国のものは限られているから、民間への委託事業への依存度が高くなると思われ、それで政策意図が貫徹できるか疑問がある。都道府県や政令市の職業訓練校や技術学校の設備やスタッフを拡充し、レベルアップしてその受け皿とする必要がある。

そして第三には、第二交付税を創設し「緊急経済対策総合交付金」というかたちで、国としての経済対策の地方必要財源を用意するべきである。

2009313日のG8に先立って行われた、与謝野馨財務・経済財政・金融相と米オバマ政権のガイトナー財務長官との会談では、与謝野氏は09年度の日本の財政出動額を、GDP比で2%とすることを約束している。これは08年度の第二次補正予算(執行は09年度)と本予算、それに4月以降の第三次対策における景気対策の合計と見られる。日本のGDPは約500兆円と見られるから、その2%は10兆円である。今までの経済対策は7兆円程度とされるから、追加的には3兆円以上ということになる。しかし、これに対応する地方財源は、冒頭に見たように地方財政計画は縮小しているから、もともと不足している。通常の財政運営を維持するだけで精一杯であり、10兆円または新たに3兆円の経済対策を地方で支える財源はないのである。

そのため、国が国際的に約束した経済対策を成功させるためには、地方財源の追加的な増額を3兆円、またはそれ以上行わなければならないはずである。

税源移譲を行う時間的な余裕がないと思われるから、それを前倒しするかたちで、一年度当たり3兆円規模の第二交付税を、3年度間程度の期間を限って、臨時に創設することが必要である。この第二交付税は、「緊急経済対策総合交付金」として地方自治体が緊急経済・雇用対策に自由に使える財源とする。人口割りを基本にしながら、地域の失業率による増額補正を行い、さらに新産業への投資予定額を基礎に増額補正するなどの工夫が必要であろう。この財源は、現在の政治状況から、引き続き特別会計の余裕資金(埋蔵金)を活用するか、国債の増発によることとする。

これらの措置については、経済が回復した段階で所得税の所得再配分機能のかなり大幅な復元による増税、逆進性を緩和した上での消費税率の引き上げ等で財政健全化の道に戻す筋道を示すべきである。第二交付税については、基本的には、当該額も含めて地方税源への移譲および地方交付税の増額というかたちで、地方財政制度に吸収することが求められる。いずれにしても、「ピンチをチャンスに」、である。

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