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分権改革と監査制度
                 

 

                                                   2010219日                          

於いて:北海道町村等監査委員協議会

ポールスター札幌2Fホール

                     奈良女子大学名誉教授  澤井 勝

 

1,自治体における監査機能の強化

 1、監査委員制度は昭和21年の地方制度改正で創設された(市制町村制改正、府県制改正)。

 2,22年の地方自治法では、府県には必ず置くこととし、市町村は条例で置くことができるとされた。

 3,38年の地方自治法改正で市町村も必置と改められた。

 4,平成3年の改正で監査対象を行政監査に拡大している。また公の施設の管理を委託している場合に受託法人に対する監査ができることとなった。さらに、監査結果の報告を監査委員の合議とすることとした。合議制の拡大。

 5,平成9年改正では、監査委員から監査の結果を報告された長、議会、委員会もしくは委員はその報告を参考にして措置を講じたときは、その旨を監査委員に通知することとし、監査委員にはその通知を公表することを義務づけた。住民への「説明責任の拡大」でもある。(長等が措置をなんら講じなかった場合も、その旨公表すべきだという意見がある。)

 なお、同年、外部監査契約(法第252条の27)制度が導入されている。外部監査契約とは、包括外部監査契約と個別外部監査契約とを含む。

 

2,財政健全化法の健全化判断比率の審査

 

 周知の通り、2007年に新財政健全化法が制定され、20084月から施行されている。2008年度決算から下記の4つの財政健全化判断比率が公表され、このうち一つでも一定の基準を超えると、1、早期健全化計画の策定(国の関与なし、議会の議決必要)が義務づけられ、さらに悪化すると、2、財政再生計画(従来の財政再建計画にあたる計画、国の関与あり、議会の議決必要)を策定することが義務付けられた。

(1)実質赤字比率  一般会計等(普通会計)を対象とした実質赤字の標準財政規模に           対する比率。

(2)連結赤字比率  一般会計、公営企業会計(下水道、病院など)、国保、介護保            険、など全会計を連結した実質赤字額、および資金不足額。(3)実質公債費比率 一般会計等が負担する元利償還金、および「繰出金」や「負担           金に含まれる公営企業債や組合債の元利償還金に当てるもの、           債務負担行為のうち公債費に準ずるもの、一時借入金の利子、           などの標準財政規模に対する割合。
(4)将来負担比率  一般会計等の地方債現在高+債務負担行為に基づく支出予定額           (PFI事業に係わるもの、住都公団の建て替え負担金、国営           土地改良事業等への負担金、地開発公社の土地取得に要する           費用など)+公営企業(下水道、病院など)の公債費に対する           一般会計等からの繰り入れ見込み額+組合等の公債費への一般           会計等の繰り入れ見込み額+退職手当支給予定額+第三セクター           など出資法人の負債のうち一般会計等が負担する見込み額(地           方道路公社の借入金の一定部分、土地開発公社に対する債務保           証額および負債の一定額+地方独立法人の繰越欠損金+その他の           法人への損失補償の額、等の標準財政規模に対する割合。

 これらの「早期健全化計画の策定」と「財政再生計画の策定」には議会の議決が必要である。このため、議会の審査能力が高めることが求められている。またこれらの財政健全化判断比率の公開は毎年度、地方自治体に義務づけられているから、その際に議会が十分にこれら指標について質疑し、議論することが求められていることは当然である。
 また、監査委員については、毎年度の決算審査の一環としてこの財政健全化判断比率の審査を実施することが義務づけられ、監査委員の権能は格段に広がっている。「総務省としては(08年)9月下旬に全団体の健全化判断比率等を暫定値として公表することを予定しているところである。健全化判断比率等は、監査委員の審査を経た後、議会報告や住民への公表が行われることとされているため、監査委員による審査については、従前の決算審査の時期を早めることを含め、健全化判断比率や資金不足の審査時期との相互調整が必要になることがある。

また、従来の決算審査にない審査項目が多くあることから、監査事務局と財政部局が事務作業についての十分な共通理解を得た上で、連携を図ることが重要となる。」(総務省財務調査課、「地方公共団体財政健全化法について」平成2064日)。

 

財政健全化判断比率を理解するために

 ところで08年の12月に私が三重県議会の第3回政策討論会(財政問題)で報告、討論を行った際の印象を記しておきたい。政策討論会のテーマは、議会が三重県議会基本条例に基づいて設置した別の専門研究会の報告書である「第一次答申」についての評価であった。その評価については次のように指摘させてもらった。
(1)財政健全化判断基準は従来の決算統計に基づく指標と企業会計に基づく指標とが混在した指標であり、それが理解をしにくくしている。実質赤字支比率はキャッシュフローを把握する現金主義決算に基づく決算統計から導出される指標である。一方で、連結実質赤字比率は、一般会計という現金主義会計の赤字と公営企業会計など発生主義を基にした企業会計の資金不足(資金余剰)を合算したもので、便宜的な数値である。また「将来負担比率」は発生主義をかなり加味した指標である。

(2)したがって、この二つの会計原理を共に一定程度理解しておく必要がある。すなわち、経常収支比率のような現金主義のフローの把握による財政硬直化の程度の読み方に習熟する必要がある。平行して、各会計の行政コスト計算書と貸借対照表とが既に作成されているから、それをも理解を深めることが求められる

現金主義会計のメリットとデメリット

(3)現金主義のメリットは、直感的にキャッシュフローについての情報を把握することができるところにある。そのため、議会や行政が歳出予算についてその支出を客観的な数値によって監視し、統制することが容易な方式といえる。またそれに基づく情報は、高い信頼性と比較可能性をもち、予算統制を容易にする。また現金主義は、複雑で専門的な会計学の知識を必要としないので、工夫次第で情報の説明や理解が容易である。

特に企業会計と異なり、報告し説明する対象が異なるのでこの専門的知識をそれほど要しないという特徴は重要なメリットである。公会計のステイク・ホルダー(顧客、利害関係者)は、民間企業会計であれば銀行や証券会社など投資家としての金融機関、個人投資家など専門家が主たる顧客だが、公会計はそれとは異なる。最大の相違点は、住民が究極の主権者であり、その主権者の理解を得ることが最大の政策課題だという点である。もちろん、地方債などへの金融機関投資家などへの専門的説明も必要であるが、それはいわば二次的なものである。

(4)また営利企業と自治体ではその存立目的が異なる点も重要である。民間企業では「利益の追求」がもっとも大きな目的であり、善である。しかし、自治体の場合は、その存在理由は「住民の福祉の増進を図ること」(地方自治法第1条の21項)であって、利益を目的とすることは公営企業や第三セクターなど付随的な機関の目的である。したがって、民間企業の経営判断の中心は損益計算書(PL)に示された経常利益、税引後利益の増減などだが、総務省方式での損益計算書にあたるものは「行政コスト計算書」になっているわけであり、そこでの赤字や黒字の内容が経営判断指標としてのポイントになるのである。

(5)現金主義会計のデメリットは既に触れたように、現在および将来のサービスの提供能力に影響する、資産や負債というストック情報が得られないところにある。また現在のコストの把握も、資産の減価や退職手当の費用など、将来の正確なコスト(期間コスト)の情報も、それ自体としては得ることができない。したがって、総合的な財務状況の把握には情報が不足することとなり、企業会計方式の活用が求められている、といってよい。

 以上の報告をもとに、報告への質問や出席議員同士での意見交換が行われたが、ごく初歩的な知識の理解や、考え方の相違を確かめるなど率直な話し合いが持たれた。このような率直な意見の交換の場として、この制作討論会が機能し始めていることが感じられた。ここから新しい政策をつくるための議会としての意思形成が進むことが期待される。

 

算・決算統制の基本は一般会計(普通会計)の健全化

 ところで財政健全化法による「財政健全化判断比率」の一つの特色は、「連結決算」の考え方を大きく取り入れたことである。昨年9月に早期健全化檀徒として指定された団体は、病院の累積債務、公営交通の営業赤字、土地開発公社の損失補償や借入金など他の特別会計や出資法人など第三セクターの赤字や資金不足、不良債務などが表面化した団体がそのほとんどを占める。財政健全化法と「健全化判断比率」はこれらの今まで隠されてきた赤字を表面化するところに一つの基本的な狙いがあったから、そのように制度設計されているのである。

 したがって、これらの病院事業や公営交通事業、それにレジャー施設などの財政健全化は、それぞれ固有の課題があり、それを解決するべく収支計画の改善を基軸とした経営健全化計画が立てられることになる。ただし、その際に、不良債務の肩代わりや利子補給、借り換えなどに一般会計からの支援があれば、健全化計画の内容や期間は全く異なることになる。

 そういったことも含めて、連結した自治体会計全体の立て直しを図るための基本的な課題は、まず一般会計(普通会計)の健全化を先行させる必要があるということになる。なぜなら、自治体の基本的な収入は税収であり、それ以外は、強制力のない企業的な収入か、手数料や使用料など公共サービス提供の対価である。サービスの対価であると言うことは、それなりのコストがかかり、それが公共性の高いものであるなら、それで稼ぐということにはならない、という性格を持っている。すなわち、地方自治体の収入はあくまで税収が基軸である、という原点に立ち返るべきなのである。

 

標準財政規模の確保と経常支出削減による「財源余剰」創出

 一般会計はまず租税収入の受け皿である。租税はサービスの対価ではないから、サービスを縮小したり廃止したりしても、それとは無関係に入ってくる収入である。極論すれば、自治体財政の一般会計を黒字化するための早道は、「働かないこと」である。働かなくても、収入は確保できるのである。

 また、財政健全化法の「財政健全化判断比率」のうち、「実質公債費比率」にあっても、分子は各会計の公債費にかかる元利償還金と、準公債費を加えた額から都市計画税など特定財源を除いた額であり、連結決算の考え方が導入されているが、分母は一般会計の標準財政規模である。「標準財政規模」とは地方自治体の一般財源の標準的大きさを示す指標で、実質収支比率、実質公債費比率、連結実質赤字比率、将来負担比率、経常収支比率などの基本的な財政指標や財政健全化判断比率の分母となる重要な数値である。その大きさは、「標準税収入額+普通地方交付税額+地方譲与税」で求められる。言い換えれば、標準的に収入しうる「経常一般財源」の大きさである。標準税収入額とは、基準財政収入額から地方譲与税を除いた額を基準税率(75%)で除した額である。なお、2004(平成16)年度以降は、臨時財政対策債発効可能額もこの標準財政規模に加えられている(地方財政法施行令附則第12条の規定による。)

 言い換えれば、各特別会計や第三セクターなどの経営健全化の基盤となるのは、突き詰めて言えば一般会計における税収及び普通地方交付税である。この経常一般税源を確保するとともに、経常支出の削減とそれに充当する経常一般財源を抑制し、同時に投資的経費に充当する一般財源を圧縮することで、一般会計における「財源余剰」を生み出すことが、財政健全化のスタートであり、また健全化全体を推進する基本的なエンジンなのである。

 

なお、議会に関わる予算統制という議論とは別に、財政マターの施策として有力なのは、政策的経費の「枠配分」方式の採用による予算編成の分権化を推進すること、単年度主義から複数年度予算への改革、そして鳥取県から始まった予算編成過程の公開とともに、智頭町の100人委員会のような予算編成への市民参加の推進にも期待するところが大きい。

 

3,指定管理者制度による指定管理者および担当課への監査

 

 公の施設の管理に民間の能力やノウハウを幅広く活用し,住民サービスの向上と同時に行政コストの縮減等を図ることを目的に,地方自治法が改正(第224条の23項から第11項、平成15年9月施行)され,従来の「管理委託制度」に代わり,新たに創設された制度。
 これまでの管理委託制度では,地方自治体が公の施設の管理を委託できるのは,自治体が出資する法人(公社,財団)や公共的団体(社会福祉法人等)などに限定されていたが,指定管理者制度では,これに加え民間企業やNPOなどにも範囲が拡大されている。

 さらに,指定管理者制度では,施設の使用許可など処分に該当する業務についても,指定管理者に行わせることができるようになった。なお,利用料金制は,これまでの管理委託制度と同様に導入が可能である。

 

 指定管理者に対する監査は,地方自治法の規定により,監査委員が必要と認めるときや市町村長が要求するときなどは,指定管理者が行う公の施設の管理業務に係る出納関連の事務について監査を行うことができる(地方自治法第199条第7項(財政的援助に関わる監査)および第8項)。
 管理業務そのものについては監査の対象とはならないが,設置者たる地位に基づきその事務を監査するのに必要があれば,指定管理者に対して出頭を求め,調査し,また帳簿書類等の記録の提出を求めることがある。

 

指定管理者の監督についての訴訟では、ふじみ野市営プール事件がある。

埼玉県ふじみ野市の市営プールで、20067月に小学校2年生の戸丸瑛里香さん(7歳)が吸水口に吸い込まれて死亡した事故で、業務上過失致死罪に問われた同市教育委員会の元体育課長(61)と同課の前係長(47)に対する判決公判が27日埼玉地裁で開かれた。伝田喜久裁判長は「両被告は前例を蹈襲してほぼ全面的に管理を(指定管理者に)任せていた。自己の職責に対する自覚を欠き、無責任」とし、元課長に禁固16月、執行猶予3年、前係長に禁固1年、執行猶予3年を言い渡した。

 

おわりに  分権改革の意義

監査とは自治体の自律性と自己統治を保障する仕組みの一つである。そのような働きを持つ監査制度を的確に活かす前提としての「分権改革の意味」を改めて確認しておきたい。2000年の地方自治法改正を中心とする475本の法律を改正した「地方分権一括法」の意義は次の点にある。

 

(1)国と都道府県、国と市町村、そして県と市町村は「対等」、「平等」である。それを担保するのは、改正地方自治法の第11章「国と普通地方公共団体との関係及び普通地方公共団体相互の関係」であり、法245条(関与の意義)は、国の行政機関が自治体に対してできる関与は以下の通りと規定している。

助言または勧告、・資料の提出の要求、・是正の要求、・同意、・許可、認可または承認、・指示、代執行

つまり、国の行政機関は自治体に「指導」及び「命令」はできないのである。同じく県の行政機関は市町村に「指導」したり「命令」はできない。できるのは、本法本条による技術的助言や、事実上の「相談」、「協議」である。

 

(2)従来の国の機関委任事務制度は廃止され、自治体の事務は、「自治事務」と「法定受託事務」(ほとんどが自治事務)となった。法定受託事務にあっても、自治体の条例による規制は及ぶから、「自治体の事務」であり、自治事務との違いは、「国の関与」の程度が違うと言うに過ぎない。たとえば「生活保護」。したがって、本来、法的受託事務についても監査は及ぶと考えるのが妥当である。新政権にあっては、この方向での地方自治法改正も検討されている。

 

(3)したがって、法令(法律またはこれに基づく政令)の解釈権もまた平等に付与された。いわゆる所管の省庁による「有権的解釈」は存在しない。「行政実例判例集」はあくまで「参考資料」であって、「実例違反」という概念はなくなったのである。むしろ、県や市町村は、法律を自ら地域の実情に合わせて合理的に解釈し、運用すべき義務と責任が生じた。

 

(4)また「通達」もその「拘束力」を失っている。それは「次官通達」でも同じであり、いわんや「課長通知」などで自治体を法的に拘束することはできない。それは「技術的助言」にとどまる。通達の末尾に「地方自治法245条により」と付記してあるのは、そのことを指す。これが付記されていない通達類は、「関与の法定主義」(第245条の2)に違反する、違法な関与である。付け加えると、自治体を拘束するのは、法律とそれに基づく政令であり、省令以下の命令は法的な拘束力があるか、疑わしい。従って、「政令によって省令への委任を行う」というかたちで省令の拘束力を担保する脱法行為が行われる傾向が見られる(厚労省に多いようだが)。

 

(5)すなわち、係長や主査など第一線の県職員は、自ら所管の法律を読み、その目的と理念にしたがって解釈、運用することが求められているのである。さらに法律の不備を指摘し、補うことも必要であり、次の法改正に寄与することも重要である。法律は、いろいろな団体の意見や、政治的配慮からできた妥協の産物であり、ときには特定の集団による特定の施策を実現する手段に堕している場合も少なくない。たとえば、2003年の「製造業派遣の解禁」など。

 

(6)「政省令が出てないから、出るまで待つ」(2003年改正職安法の場合)、「国の指示が出ていないので動けない」(介護保険改正の時期の言い訳)、などは一般的には自治的な対応とは言いかねる。もちろん国の動き(特に財政措置)は重要な考慮事項であるが、各施策は自治事務である場合が多く、法律の趣旨を生かす施策を、自治体自ら能動的かつ自主的に考え、施策化することが求められている。最近の国の施策は、これら自治体が自律的に動いて施策化した自治体の成果を、国レベルで吸い上げ、政策的イノベーションに役立てている場合が圧倒的に多い(小規模多機能居宅介護への富山方式の寄与など)。

 

 

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