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自治体の雇用労働政策の新展開 

                   澤井 勝(初出:『ガバナンス』2003年11月号)

 

無料職業紹介事業の自治体への解禁

 今年の613日、参議院本会議で職業安定法の改正法が可決、成立し、即日公布された。施行の期日は、遅くとも平成15312日までには施行される。この関連の政令などは、仄聞するところ、来年の1月ごろに示される予定だという。なお、同じ国会で、労働基準法および労働者派遣法の改正が行われ、有期労働契約の期限を1年から3年とする、裁量労働制の要件緩和、労働者派遣期間を年から3年に延長するなど、規制緩和が行われている。この職安法改正はこれら一連の規制緩和政策の一環でもある。

 この職業安定法の改正によって、地方公共団体も無料職業紹介事業を行うことが可能になった。この改正は、雇用労働行政の分野での地方自治体への大きな権限移譲であり、地方分権改革の一環として、これからの地方自治体政策の展開に画期的な意味を持つ。

この改正は、以下のように職安法の第33条の4(地方公共団体の行う無料職業紹介事業)の新設として行われた。

 すなわち、地方自治体(都道府県、市区町村、一部事務組合,広域連合)は、「無料の職業紹介事業」を、厚生労働大臣への「届け出」で行うことができる。例示的には、1、福祉サービスの利用者の支援に関する施策、2、企業の立地の促進に関する施策、3、地域内の住民の福祉の増進に関する施策、4、産業経済の発展等に関する施策、に「付帯する業務として」「無料の職業紹介事業」を行うことができる。

 言うまでもなく、この「無料職業紹介事業」は、地方自治体に法的な権限が与えられた「自治事務」である。その「自治事務としての無料職業紹介事業」を、その自治体の仕事とするかどうかは,自治体に任せられている。そして、その事業の内容もまた、自治体の創意と工夫、地域のニーズの把握の仕方などに大きく依存することが予想される。

 

職業紹介事業の定義

 この場合の地方自治体の無料職業紹介事業の内容は、同法の第1章総則の規定に沿うものであることが,当然に求められる。

すなわち「第一条(法律の目的)この法律は雇用対策法と相まって、公共に奉仕する公共職業安定所その他の職業安定機関が関係行政庁又は関係団体の協力を得て職業紹介事業を行うこと、職業安定機関以外のものが行う職業紹介事業等が労働力の需要供給の適正かつ円滑な調整に果たすべき役割に鑑みその適正な運営を確保すること等により、各人にその有する能力に適合する職業に就く機会を与ること」である。

さらに「職業紹介」とは求人及び求職の申し込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすることをいう。更に『無料の職業紹介』とは、職業紹介に関し、いかなる名義でも、その手数料又は報酬を受けないで行う職業紹介をいう。以下、第5条から第5条の7までが少なくも参照されなければならない。

 

法的位置付けを与えた雇用対策法改正

ところで、これに先立って2000年の4月に施行された、地方分権一括法によって、雇用労働行政は大きく変わった。第一には、いわゆる地方事務官制度の廃止にともない、それまで都道府県行政の中に位置づけられてきた職業安定事業が、国の地方出先機関としての労働局の機関の事業として国に一元化されたことである。この場合は国への集権化である。この段階でも、各都道府県の地方労働委員会は広範な自治事務の領域として残ったことには留意が必要である。

しかし、第二に、地方公共団体を「雇用行政の主体」として新たに位置付ける法的な整備、すなわち分権的な法制が敷かれたことにもっと注意が払われてもよかった。それは、先ほどの職安法第1条にも明記されている、「雇用対策法」の改正法である。

同じく00年4月に施行された改正雇用対策法は、その第5条に次の規定を置いている。「地方公共団体は、国の施策と相まって、当該地域の実情に応じ、雇用に関する必要な施策を講じるよう努めなければならない。」この規定は当初の改正法では、第3条に置かれたが、その後の改正によって第5条に繰下げられているものだ。

この定めは、努力義務規定であるが、法的には歴史上初めて雇用政策を一般的に地方公共団体の政策として位置付ける、これも画期的な規定改正であった。

もちろん実務上は、法的な根拠の有無に関わらず、産業政策や企業誘致政策の一環として、雇用政策に多小なりとも取り組んできた地方自治体は少なくない。あるいは,若者定住政策や地域活性化の中心的政策として推進してきた市町村も多い。津山広域圏の雇用労働センターもそうだ。旧産炭地である大牟田市や夕張市の取り組みも、雇用労働政策としてみることもできる。そして、不況地域対策としての「産地政策」も、見方を変えれば「雇用政策」そのものである。

これらの少数だが政策的に創意に充ちた取り組みが、21世紀になってようやくその法的な位置付けを得たのだといえる。

 

国と地方との協力関係を構想する

このように雇用政策を自治体の自治事務として展開するよう求めるということは、同時に、従来、雇用労働政策をもっぱら担ってきた国との関係をあらためて規定し直すことを求めることにもなった。すなわち、国と地方自治体の協力規定も同時に設けられている。

「第27条(国と地方公共団体との連携) 国及び地方公共団体は、国の行う職業指導及び職業紹介等と地方公共団体の講ずる雇用に関する施策が密接な関連の下に円滑かつ効果的に実施されるように相互に連絡し、及び協力するものとする。」

この国と自治体との相互の協力、連携の規定は、今後充分に生かされることが求められる。特に国の職業安定機関の持つ求職・求人情報の地方自治体への積極的な提供や、職業のあっせんに関するノウハウの開示も求められる。そのことによって、本来の職業の安定事業を、地域に根ざした、真に実効性のあるものにすることが可能になるからである。

この点では、改正職安法に新たに定められた次の規定の活用も重要である。

「第33条の5(公共職業安定所による援助)公共職業安定所は、(中略)前条第1項の規定による届出をして無料職業紹介事業を行うものに対して、雇用情報、職業に関する調査研究の成果等の提供その他当該無料の職業紹介事業の運営について援助を与えることができる。」

 このこともあってか、最近の新聞情報では、「市町村の雇用対策支援」という観測記事が登場している(2003917日、日本経済新聞朝刊)。すなわち、「厚生労働省は来年度から市町村が主導する雇用対策の本格支援に乗り出す。地元ベンチャー企業への就職支援や若年失業者が技能を修得するための企業研修など市町村が手掛ける独自対策を財政支援する。来年度はまず約30の事業を対象とする。」これらについては、既に該当する市町村には、声がかけられているようである。

 もうひとつは、職安の持つ求人情報の地方自治体への提供である。「改正職業安定法の施行で来春に解禁予定の自治体による無料職業紹介事業に、公共職業安定所(ハローワーク)が持つ求人情報も提供する。地方独自の求人情報に国が持つ情報を加え、より効率的に再就職先を紹介する」としている。

 

雇用労働政策を確立するための4つの課題

 ここでは,今回、地方自治体に移譲されたこれらの権限を活用して、地域経済を活性化し、地域福祉の推進を図り、若者が希望のもてる地域社会を構築するためのいくつかの課題を整理しておきたい。

 第一には、国と都道府県そして市区町村の雇用政策における役割分担の明確化という課題である。これは,国だけが基準を示すものではない。むしろ自治体側からも提案すべき問題である。大阪府商工労働部が平成14年3月にまとめた「大阪府労働政策の基本方向」では第一に、その第4部、「雇用政策編」で国の役割を整理して位置付けを行っている。そして第二に、地方公共団体の役割として、障害者の雇用促進等に関する法律など個別法に定められた役割を列挙するとともに、雇用対策法第5条にいう地方公共団体の役割に就いても整理している。そのうえで、第三に、府と市町村との役割分担を論じ、府は、広域的・連絡調整的課題、規模・性質において市町村が処理することが適当ではない課題に対応するとしている。地域就労支援事業など市町村の事業に対する支援など、具体例も掲げられている。職安法改正を受けて、この「基本方向」を抜本的に見直すことが、この領域での新しく課せられた課題である。

 第二は、この大阪府のように、「○○市雇用労働政策の基本方向」といった、政策課題、政策目標、事業目標を掲げた、「雇用労働政策マスタープラン」が不可欠である。この雇用労働政策マスタープランは、市町村総合計画ないし基本構想に位置付けていくことになる。現在も,総合計画に産業政策、商工政策の一部で触れられている場合もある。しかし、明確に雇用労働政策として位置付けられているわけではなかろう。

 ことの性質上、この雇用労働政策マスタープランは、経済部、商工部、福祉部、都市計画部部門、総務部、教育部門、企画財政部局など全部局にまたがるプロジェクト型の組織で策定する「総合経済雇用政策」でなければならない。これは多くの自治体に既にある、「緊急雇用対策本部」など、首長を本部長とする臨時対策本部を、中長期的な課題を担う組織に組替え、そこで調査・研究をすすめ策定することになろう。

 この「総合経済雇用政策」策定には、経済団体,労働団体のほか、女性団体、障害者団体や高齢者組織、など当事者組織(ステークホルダー)の参画が不可欠である。

 第三には、雇用政策、特に「無料の職業紹介事業」を担う専門担当部局を設置することが必要である。そこにおけるデータベースの構築と、専門家とそのノウハウの確保、そして人的な協力関係のネットワークの形成を担えるような、組織としての受け皿と拠点を構築することが緊急の課題である。市民部局と経済部局そして企画部門のいずれかが事務局を担うことになろうが。

 第四に、順番としては最初になるはずだが、各自治体が直面している雇用問題をあらためて把握する作業が求められる。すなわちどういう人々が、どのような仕事に関する問題を抱えているか。そういう、基礎的でファンダメンタルな地域ニーズを把握することが必要である。地域での自前の調査の実施と,それを踏まえた政策化が行われるべきである。

 そして第五に、現在の都道府県、市区町村が県民局や市民局、福祉部門、経済部門などで行っている「市民相談事業」の徹底した洗い直しが求められる。地方自治体の新しい、独自の求職・求人情報は、これら相談窓口に寄せられてきていた可能性が高い。その多くは、たらいまわし的に処理され、情報としては捨てられてきたのではないか。

 このような実際には求職相談であったり、人材確保相談であったりした雇用に関する情報を、一元的に扱い、関係機関をネットワークする総合相談窓口の設置が、まず優先されなければならない。

 また第六に、雇用に限らず、地域活性化と働く場の確保という観点から、既に多様な形で取り組まれている、インキュベーターの設置、コミュニティビジネスの支援政策、キャリアアップ施策、生涯学習とインターンシップ、などを広く位置付けた政策展開が求められる。

 雇用問題というのは、政治における最も基礎的で、中心的な課題である。地域の人々の稼ぐ場所や所得の保障を実現するよう最大限の努力をし、民間の力を引き出し、市民の活動を活性化する舞台と潤滑油を準備するのが、政治や行政の主たる役割のはずである。あらためて、土建国家と呼ばれた20世紀型の政治から、新しい形での雇用問題の解決という21世紀の自治体の姿を再構築したいものだ。

(なお、拙稿「雇用労働政策の分権的展開に向けて」『自治総研』(財)地方自治総合研究所、2003年7月号、神奈川県自治総合センター『自治体学研究』第87号、および澤井のホームページ『地方財政情報館』http://www.zaiseijoho.com/なども参照されたい。)

 

                              

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