TOPPAGEまちづくり、地域活性化「地域自治組織」を考える−美山町訪問記

「地域自治組織」を考える−京都府美山町訪問記

(初出:「ならの風」第2号、2003年12月予定)

かやぶきの里とグリーンツーリズム

 03年10月初め、京都府の美山町を訪ねた。京都市の左京区高野から金閣寺、高尾、北山杉の里を通り、京北町を経由して役場まで、ほぼ1時間半。鉄道の便はなくJRバスも平成6年に廃止され、町営バスが最寄の京北町周山までつないでいる。

 かやぶき屋根の北集落の前の畑は、秋ソバの花が白く広がっていた。このソバで手打ちそばを供することができるようにがんばるとは、府道沿いの「お食事処きたむら」ご主人のパンフレット(そばの花第11号、発行そばうち会)での言だ。

 美山町の人口は昭和30年のピーク時には1万人であったが、現在は5200人程度で、なおゆっくり減少している。65歳以上の人の割合である高齢化率は、平成13年には32.6%で全国平均の17%の2倍近い。冬の積雪は多い。

しかし,一方でここは、北地区のかやぶき屋根の集落とその景観などを中心に、まず昭和63年の、「第3回全国農村アメニティコンクール優秀賞」受賞を皮切りに、平成4年に「第1回美しい日本の村景観コンテスト農林水産大臣賞」、平成5年には「過疎地域活性化優良事例国土庁長官表彰」および「重要伝統的建造物群保存地区指定」、平成6年「豊かなむらづくり農林水産大臣賞」、平成7年「手づくり郷土賞建設大臣賞」などを受賞している。村おこしと調和のとれた農村の景観が評価されている。

平成5年には、「グリーンツーリズム整備構想策定委員会」を設け、モデル構想を策定している。その基本コンセプトは「美山町のもつ美しい農村景観・美山らしさ・住みよい農村空間を形成すること。このことによって、Iターン、Jターン、Uターンを促すこと」、である。

なお、平成13年には「第8回優秀観光地づくり賞・金賞・国土交通大臣賞」を受賞している。総務大臣賞は愛媛県内子町、国際観光賞は滋賀県長浜市である。

これらと平行して、町づくりの体制としては、平成4年の4月にIターン者向けなどへの土地・住宅のあっせんと供給事業体として「第三セクター美山ふるさと株式会社」を設立(平成13年には新生美山ふるさと株式会社としてJA美山の事業の一部を引き継いで美山牛乳などの生産、販売をになう特産振興部と定住促進部とに再編した)、平成5年の4月の「美しいまちづくり条例」、平成10年3月には「美山町ほたる保護条例」を制定するなどが進められてきた。

出来て2年半の地域振興会

訪ねたのは役場の近くにある、宮島振興会。この振興会というのは、平成13年4月に地区ごとの話し合いによって設立された、「地域自治組織」である。この宮島振興会のほか、知井振興会、平屋振興会、鶴ヶ岡振興会、そして大野振興会の5つがある。この振興会のまとまりは、昭和30年に町村合併促進法に基づいて美山町として合併する前の旧村にほかならない。それぞれ、それまで各地区にあった「自治会」、「村おこし推進委員会」(平成元年6月設立)、「地区公民館」の三つの在来組織を統合したものだ。

なお、この「地域振興会」には、協力団体として、農事組合、造林組合、消防団、財産区管理委員会、婦人会、青年団、老人クラブ、保育所と保護者会、学校(PTA、スポーツ少年団)などの名前が挙がり、協力・協働するよう位置付けられている。

 また、基本的な三つの部会とは、旧自治会を継承する企画総務部、旧村おこし推進委員会を引き継ぐ地域振興部、そして地区公民館を受け継いだ生涯学習社会教育部、である。  

それに、行政の支所機構がつく。戸籍や住民登録関係の窓口業務、それに住民要望(陳情や苦情)、保険・福祉・医療サービスの相談。加えて町としての、それぞれの地区ごとの地域振興計画の策定が大きな仕事であるように見受けられる。

 さらにオブザーバー(参与)として、(有)村おこしセンター知井の里、(有)タナセン、(有)大野屋、(有)ダムパーク大野、などがある。

農協支所跡地利用の有限会社

 このオブザーバーのうち、鶴ヶ岡地区にある「タナセン」(平成11年12月設立)、知井地区の「21ショップ」(平成12年9月設立)、そして大野地区にある「大野屋」(平成12年4月設立)は、旧農協支所を引き継いだ自主的な法人による商店で、地域振興会に併設されている。これらについては、同じく京都府大宮町の「常吉百貨店」と共に、地域住民や区が出資した有限会社など商法法人形態による「地域商店」として全国的にも注目されている。一種のコミュニティ・ビジネスであると言っても良い。

 いずれも旧農協跡地と建物を町が買い取り、農水省の補助金などで施設整備を行い、「道の駅」的な施設として、農林水産業などからの地域特産物も扱う(大野屋の場合)。つまり、従来は農協の支所が担ってきた,日常の食料品、文房具、化粧品など雑貨、農機具、衣料品、それに書籍などと、さば寿司など特産品を販売するために、住民出資による有限会社が引き継ぐというかたちをとっている。それによって、特に買い物にハンディキャップのある高齢者の生活を支え、地域が衰退することを防ごうというチャレンジである。

 (ところで、宮島振興会の事務局長であり町の地域振興課長でもある中井洋氏にいただいた資料、『個性ある山村地域の再構築実験事業 評価検証報告書 平成15年3月』には、地域振興会の設立後2年間を振りかえった「共に語り・共に学び未来の地域を考える町民研修会」の記録がある。そこには帝塚山大学の中川幾郎さんがされた基調講演と質疑の記録もあり、その演題は「地域自治の視点からみた地域振興会」。

 したがって、中川先生にお話を聞くのが正確でしかも手っ取り早い。ただ共に考えたい重要な情報を含むので、とりあえずの印象などを,事実誤認などもあるかと思うが、筆者なりに記しておきたい。)

分権型・分散型自治体のヒント

その1、「大きな危機感の共有とキャッチフレーズ」

さてこの「地域振興会」は、今回の合併で注目される、「分権型・分散型」合併を考えるための、ひとつの組織事例である。また、合併をしない町村や都市にとっても、これからの「地域自治組織」を考えるヒントとなる可能性を持っている。つまり自治体内分権を具体的に考えるための重要な参考事例として考えてみたい。

ではどういった観点からヒントになるのだろうか。まず、地域社会の将来と現在に対する「大きな危機感の共有」と言う点である。このことは、中井課長がなんども強調していたことだが、「ハングリー精神」を持ちつづけてきたのが美山町だ、という。高齢化率は高く、ゆるやかな人口減少は歯止めがかからない。「地域振興会」の設立自身も、次のような流れの中から生まれてきたようだ。

「第3セクター美山ふるさと株式会社による新規定住対策や都市との交流による新たな産業おこしを実践してきたが、本格的な少子高齢化社会の到来で、集落・地域・町段階の各組織で従来の機能が失われつつある。役員の兼任化や構成員の高齢化により各組織とも活力や展望がもてない状況にある。」(『村おこしの取り組みと課題 第7回改訂版』)

 そこで、各組織を統合するというアイデアが生まれたようである。これに、恐らく、農協合併による、支所の廃止の衝撃が加わって「地域振興会」というかたちが生まれたのではないか。

その2、「地域振興課職員の地域振興会への配置」

 美山町「地域振興会」の特色のひとつは、このように基本的な三つの部会から構成され、それぞれが事業を展開しているのだが、その事務局長が町の「地域振興課長」となっている点である。したがって、「地域振興課長」は「地域振興会」ごとに5人いることになる。この「地域振興課長」は、ベテランの職員で、その地域出身者が充てられている。このような町の職員が、「地域振興会」という「地域自治組織」の事務局となっているわけだ。なお、今年の9月までは,この他に町の職員が1名、事務局員として配置されていたが、役場に引き上げられ、嘱託職員に交替していた。

このように行政職員が地域に出てきて、住民の地域活動を支援するという形は、地区公民館活動や、一部の市町村保健センターの保健師の活動に見ることができる。このよう行政と地域との関係は、メリットもあればデメリットもある。

デメリットは、住民が行政に対する依存度を深め,結局のところ住民自治の活性化に逆らうことになる。少なくもそのおそれがあるという点である。だからできるだけ早くこのような形を脱するべきだという議論になる。これはこれで正しい側面を持っている。

また、これから地方交付税が縮小していくことを考えると、行政職員の縮小ということも考慮する必要がある。行政が今以上に活動範囲を縮小する一方、行政が担っていた公的なサービス、地域住民の生活や生産そして流通,情報収集と提供,交換などを支える活動は、むしろ拡大するだろうから、地域住民自身が担うという仕組みを作らなければならない。

しかし重要なことは、町役場から地域に出ることによって、町行政を見直す視点を確立することが求められることだ。これがメリットである。これから、地域住民と一緒に仕事をしていくとすれば、このように役場の職員の意識を変えることは、不可欠な課題である。

自治体内の分権を進めるということは、このように、地域に行政(行政職員で裁量権を持った幹部)が出て行き、そこで住民と議論し、住民と政策をつくり、住民と実施すること、そして、その評価を住民と協働で行うこと、を意味する。

特に地域から選出された市町村会議員との調整作業が出来なければならない。このような「地域自治組織」をもった自治体においては、議員はもっと大局的に、自治体全体を見渡して仕事をしてもらわなければならない。府や国、他の自治体との折衝や、周旋作業が主な仕事になることが望まれる。

住民のふたつのあり方

この場合の住民には二通りある。ひとつは、旧自治会や農協役員、財産区委員会など「地区の役員」クラスの人々である。現在の美山町「地域振興会」の役員は、このクラスの人々が多いようだ。したがって女性の割合が低い。そのために各振興会の課題のひとつとして、女性役員の割合をせめて2割あるいはそれ以上にすることが挙げられている。

美山町では、このクラスの役員が、地域振興会の活動に大きな役割を担い、そのために学習や研修に努め、新しい自主的法人を立ち上げる苦労を積極的に背負っているように見受けられる。地区によっては、30代、40代の担い手が出てきているようだ。

もうひとつのタイプの住民は、地区にこだわらず、自治体の領域全体をカバーするような活動をしている住民組織である。もちろんこのような住民は、地区の構成メンバーとして地区の役を担っているわけだが。「

水をまもるためにせっけんを」というNPOなどがそれにあたる。このような住民組織は、市町村を超え、府県や全国的なネットワークと連携している場合も多い。このような住民組織は、「水環境の保全」、「里山の環境再生」、「障害者とその家族の支えあい」など、ひとつの課題を解決するために、ボランタリーに手を取り合って活動している。このような、住民組織が地域振興会の活動の輪に加わってきていることも注目される。

 今年の9月から大野地区での配食サービスが始まったが、これは町社協が行ってきた事業を大野振興会が受け継ぎ、ボランティア・グループ(虹の湖ネットワーク)を組織したもの。女性37人と配送担当の男性4人が登録している。サービスの利用者は22人。「将来的には大野地域でとれた野菜を利用したメニューも考えていきたい。」(戸本節子大野地域振興課長)。なお、一食700円で、町が400円を助成する。

その3、「生産組織としての地域振興会」

ところで、農協支所を継承した三つの地区では、先に触れたように購買部を引きついだ「タナセン」などが、さまざまな形で農地管理や農作業の受託を行っている。他の地域振興会、知井振興会、宮島振興会などでも広域営農組合の組織化など、農業生産組織として活動している。すなわち「地域振興会システム」のもつ第3の特徴は、「村おこし委員会」が,継承してきた「村の地域振興」とくに地区における農地管理の推進によって、ムラの経済基盤をある程度コントロールしてきたことである。

鶴ヶ岡地区の(有)タナセンの農事部の場合、平成11年3月に京都美山町農協の3支所の廃止が決まった後、その年の12月に地区および個人の出資による有限会社タナセンも登記が完了している。さらに旧農協鶴ヶ岡支所の土地と建物を町が買収する議案が同年12月に成立、翌日タナセンの創立総会が開かれている。

この有限会社タナセンの定款には、農作業の代行、請負委託事業、農産物の生産・加工・販売業務を事業目的として掲げた。そして地区(大字)ごとに新たな広域営農組組合を設立し、転作を中心とした農作業を受託している。方法としては、3ブロック(水稲地、転作地、水稲地)によるローテーション方式をとっている。

タナセンが全体の作付け方針、種子・資材等の一括発注と決済を行い、作業料金の支払や補助金事務を行う。また栽培講習・指示、JAとの協議を行う。そして広域組合は土地所有者の同意の取り付けを行うと共に、農作業全般を請負い、作業料金の受払いを担っている。

すなわち、「地域振興会システム」は特産物の開発・生産・販売や農作業の請負など農林業の経済活動を担う共同組織としての色彩も一方で強いといえる。このように村おこしの基盤に、農林業の振興とそのための共同作業・共同管理を置かれているのだ。これは、もともとが、昭和42年から63年まで農水省の補助金を利用して、圃場整備事業を大規模に導入し、「田んぼは四角に、心はまるく」のスローガンで取り組んだ「第1期村おこし 農林業の振興」以来の、考えかたの延長上にあるといえる。その点では、基本法農政に忠実でありながら、それを相当に利活用した町といえるもかも知れない。

その4、「まちづくりイメージの明確化」

それともうひとつは、明確なまちづくりのイメージを持っていることである。各振興会がそれぞれの地域特性を踏まえながら、「めざせ 日本一の田舎づくり」、「地域のことは地域で」という方向で統一されているように見える。それに、生産と生活のキャッチフレーズとしての「地産地消」という言葉が、よく浸透している。

これにやや不足している、福祉、健康、医療の政策を組み込めば、ますます新しい住民の定住を進めることも可能だろう。そしてそれが、地区の新しい担い手と高齢者の交流というかたちで、まちづくりの次のステップにもなりうると思われる。

その5、「情報公開と住民参加、そして調査活動」

これからの「地域自治組織」を考える場合、さきほどの『評価検証報告書』などによれば,次のことも重要な課題だと指摘されている。

第一に、旧来の自治組織の統合である「地域振興会」は、一方でその負担軽減という観点から、役員を削減している。スリム化である。これは必要な組織改革だが、同時に住民参加を更に拡大する方策が必要だとも指摘されている。特に「男女共同参画社会」に向けた女性の参画が求められる、という課題意識が高い。そのためには、広報誌の拡充と充実が求められる。すなわち情報公開である。これには本格的なコミュニティ・マガジンのようなものも、再度,深く自らの地域を知ることという観点から求められるかも知れない。(東京は下町の地域誌『谷根千』を想起している。)

それとIT基盤の拡充なども重要になる。地域振興会の生涯学習部の重点的な取り組みとして、パソコン講習とインターネット・カフェの体験が好評だったそうだが、このことは美山の地での就労機会の確保ないし保障を必要とするわけで、ホームオフィスの環境作りという観点からもIT基盤の整備も重要だという意識が強いようだ。

 第二には、調査活動の一層の推進が重要課題として挙げられている。

これまでも、政策立案の基礎としての「調査活動」がそうとうしっかり行われているようだが、その調査や研修、そしてそのための情報ネットワークの構築こそが、村おこしのための人材育成に役立ってきたという思いがありそうである。

夕方に遅くなって訪ねた「知井振興会」では、平成15年の3月にまとめられた「ふるさと知井の将来プラン作成のための 住民意向調査集計結果」というパンフレットを頂くことができた。これは地区内の住民588人からの回答を,単純集計と一部クロス集計で見たもの。それによって、地区の課題がいくつか浮き彫りになっている。

@ 日常生活での不安,不満

「病院や診療所などの利用が不便である」(50.1%)
「農業問題」(41.9%)
「冬の積雪に不安がある」(41.0)%
「古いしきたりやつきあいが大変である」(35.3%)
「集落や近所に住む人が少なくなり、活気がなく不安である」(32.4%)
「バスなどの交通の便が悪い」(30.8%)

A 希望する地域政策

「医療・福祉サービスをリオユしやすくしてほしい」(50.4%)
「働く場所や機会を作り、働く場所を整備してほしい」(23.5%)
「農地や山林の管理、農作業、林業などを支援してほしい」(21.2%)
「携帯電話や高速インターネット、デジタルテレビ対応など情報基盤を強化してほしい」(19.4%)
「山崩れ、洪水、火災、積雪など災害に対する対策を強化してほしい」(18.8%)

(前掲『評価報告書』)

 またよく他の地域の見学、研修を行っている。例えば、同じ知井振興会が自主法人設立のために行った。平成12年度の研修は次のようだ。

 1、店舗づくりを学ぶ。京都市、京北町、和知町、丹波町。道の駅系統のようだ。

 2、特産振興、街並み保全を学ぶ。奈良県當麻町、橿原市今井町。

 3、農業生産,加工,販売を学ぶ。滋賀県大津市、愛東町。

 4、研修会の開催。

・法人設立の方法と手続き。行政書士、府農業会議、町商工会。
・地産地消の農業。府農業改良普及所。
・イベントの開催。地域間交流を図り商品化コンテストも。春,夏,秋の3回で2,400名参加。

 5、女性活動の推進のために。滋賀県の環境保全政策。水環境科学館、五箇荘町。

おわりに

 これからの地域分権と地域自治組織を考える場合、次のような、地域振興会設置のねらい(理念)をよく検討して活用することも重要だと考えられる。

 @ 住民の利便性を高める。

 A 地域の課題の掘り起こし。

 B 人材の発掘。

このような理念は、小難しい理屈ではなく、常に住民の目線でのニーズに応えることによって成長し,反省し、変化する組織をつくることを可能にするのではなかろうか。

いずれにしても、ひとつの例であるが、このような実態(紹介できたのはそのほんの一部であり、重要な取り組みや考え方を落としているのだが)をもった「地域自治組織」の組織化を図ることが、これからの「基礎的自治体」に求められる。もちろん、他の自治組織のありかたを構想してもよい。地方自治法改正の課題としては、このような「地域自治組織」に「法人格」を付与することが考えられても良い。たとえば、財産区の管理員会や、行政委員会としての農業委員会などに類推されるような、役員と執行機関を公選にすることを選択肢のひとつとした、多様なありかたを可能にしたいものである。

 このように形成される公法人と、有限会社や株式会社、財団法人や社団法人、社会福祉法人、それにNPO法人などと、それらに出資したり,自らの負担で活動する個人との複合体として、より豊かで、多様な意思を包括した、「地域自治組織」の展開形態をも構想したいものである。

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