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地域主権大綱を読み解く
          改革のトーンダウンを超えて

2010年8月
NPO現代の理論・社会フォーラム
NEWS LETTER Vol3-8
    奈良女子大学名誉教授 澤井 勝


 

地域主権改革の定義

 参議院選挙の直前、622日の閣議で「地域主権戦略大綱」があわただしく決定された。これは他の地域主権改革法案(地域主権一括法案と国と地方の講義の場法案)が参議院を通過したものの、衆議院では継続審査になったことにともない、この「大綱」も先送りされるようとしたことに総務相が巻き返して、かろうじて閣議決定に持ち込まれたものであるされている。この点は、「地域主権改革」を政権の「1丁目1番地」とした鳩山首相が退陣して、管政権となって、財政再建優位の施策基調のもと「地域主権」や「地方分権」に対するトーンダウンが指摘されていることの一つの表現とも言える。

 「地域主権改革」という言葉については、法学者や政治学者などから評判が悪い。主権とは「国民主権」以外の考えをとる余地がない、というわけである。これらの法案や大綱をつくるに当たっても、内閣法制局も同じような立場から法律用語として「地域主権」という言葉を使うことには最後まで抵抗したようである。その妥協として、地域主権戦略会議の法的根拠となる内閣府設置法改正法案では、この地域主権改革を次のように定義している。すなわちその第43号の3で「地域主権改革」とは、「日本国憲法の理念の下に、住民に身近な行政は、地方公共団体が自主的かつ総合的に広く担うようにするとともに、地域住民が自らの判断と責任において地域の諸課題に取り組むことができるようにするための改革」であるとしている。

 

国と地方の協議の場の法制化など

では民主党政権の「地域主権改革」と自民党政権での「地方分権改革」ではどこが違い、どこが連続しているのか。一つは「国と地方の協議の場」を法律によって設置することが

挙げられる。ただし、これについて民主党は衆議院の総選挙前には積極的ではなかった。むしろ自民党や公明党が選挙公約に掲げた後追いとして、衆院選マニフェストをまとめる最終段階の88日になって、全国知事会や市長会の直接談判もあってようやく入れたものだ。この問題に対する感度は相当低いと見ておく必要がある。

 もう一つは地域主権戦略会議の設置である。これは従来の地方制度調査会(首相の諮問機関)を休業して政府と有識者で構成されている。メンバーは橋下徹大阪府知事、上田清司埼玉県知事、それに神野直彦元東大教授、小早川光郎東大教授、北川正忝元早大教授、前田正子横浜市国際交流協会理事長、などであり、首相が議長で原口総務相が副議長、内閣官房長官、財務大臣などである。621日まで6回開かれているが、いずれも1時間程度の会議である。

 この他に総務大臣の下に「地方行財政検討会議」を設けている。この会議では地方自治法の抜本改正が検討され、「地方政府基本法」としてまとめるとしている。メンバーは総務相や政務官、それに全国知事会など地方6団体代表、有識者として西尾勝東大名誉教授、斉藤誠東大教授などで全体で14名である。今のところ首長と議会の関係、法律の規律密度の問題、監査機能の問題などが議論されている。

 しかし、いずれもまだ論点整理など瀬踏み状態で、「地域主権改革」の中心課題が明瞭になっているわけではない。ただ方向性としては、「国と地方が対等なパートナーシップの関係にあることを踏まえ、地域の自主的判断を尊重しながら、国と地方が協働して『国のかたち』をつくる。『補完性の原理』に基づき、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体に委ねることを基本とする」としている(大綱から)。

 

現実的には条例制定権の拡大と権限移譲

 こういった中で「地域主権戦略大綱」が閣議決定されたわけである。その内容をあげると次の通りである。

1、義務づけ・枠付けの見直しと条例制定権の拡大。2、基礎自治体への権限移譲、3、国の出先機関の原則廃止、4、ひも付き補助金の一括交付金化、5、地方財源の充実確保、6、直轄事業負担金の廃止、7、地方政府基本法の制定、8、自治体間連携・道州制、9、緑の分権改革。

このうち法制度改正の提案にまで来ているのは「義務づけ・枠付けの見直しと条例制定権の拡大」および「基礎自治体への権限移譲」である。これらは、いずれもこの3月に任期を終えた地方分権推進委員会(丹羽宇一郎委員長)の第三次と第四次勧告を主に継承するものである。この二つの答申は、政権交代をまたいで昨年9月以降に鳩山首相に手交されている。その点では、前政権の時からの「地方分権改革」の延長上の改革であり、むしろこれが現在のところもっとも実現性のある改革案である。

「義務づけ・枠付けの見直しと条例制定権の拡大」では、昨年秋から早速議論を呼んでいる。たとえば、保育所の子ども一人当たりの面積基準を省令から自治体の条例に任せるという提案に、ナショナルミニマムが危なくなるとして保育関係者(厚労省も)からの強い反対がある。地域主権改革一括法では第二次見直しの結果として、308項目・528条項が見直すとされている。実はこの条例制定権の拡大には、地方自治原理とナショナルスタンダード原理との対立を調整するという大問題があるのだ。

また「基礎自治体への権限移譲」では、59項目の207条項について市町村、全市、中核市と政令指定都市、政令指定都市という区分で以上提案が行われている。これについても自治体の現場段階では、「仕事を押しつけて財源の手当がない」と反発する声が強い。この中には昨年9月の消費者庁設置と消費者安全法(平成216月)の施行により市町村の消費者行政の権限が広がったが、さらに自治体の区域内の業者への立ち入り検査権などを移譲するといった内容が含まれている。これも職員の削減を進めてきた都市などにあっては、職員の増加と専門性の確保を要請するものだとしてとまどいがあるというのが本音のところである。

 

道州制は絵空事

ところで大綱をまとめる最後のところで、原口総務相は経団連の直談判に応じて、「道州制の検討」を取り入れることを約束した。その結果は、「自治体間連携・道州制」のところに、「さらには、地方や関係各界との幅広い意見交換を行いつつ、地域の自主的判断を尊重しながら、いわゆる『道州制』についての検討も射程に入れていく」と書き込まれている。

この道州制については、自民党時代から経団連の悲願である、それは経済界の「小さな政府論」を仕上げる「国のかたち」だからである。

東大名誉教授の大森弥さんは『自治日報』のコラム(10730日号)でこのことを批判している。そこで引用されているのが、前地方分権改革推進委員会委員長で今度中国大使となった丹羽宇一郎さんの言葉だ。「もうかつての裕福な時代の日本とは違って、今の日本は大借金国と人口減少社会です。これから考えたら、地方分権改革を推進しないと、国が立ちゆかなくなることははっきりしています。それなのに、また目先を変えて『道州制』というわけです。地方と国の役割をどうするかという議論もまたやり直すというようなところで、新たな道州制なんてどうやってやるのでしょうか。そんな絵空事をまた始めるのではなく、まずやれるところをやる。それが今、地方分権にとって必要なことです。」

地域主権戦略大綱の中でも、目玉の一つである一括交付金は規模が縮小されそうな雲行きである。地方税財源の確保も従来の主張を超える提案は出そうもない。地方出先機関の原則廃止は政権基盤が弱くなった現政権では実現の見通しが遠くなった。地方政府基本法も思い切った市民参加や参加の方向ではなさそうである。

ということは、大森さんが言うように、政府はまずできるところから地方分権を進めること、そして自治体は市民と行政との協働の実現を着実に進めることにつきるのである。私たち市民もまた地方分権の内容と人々の自律の精神を鍛える事業を一歩でも前に進めるために汗をかくことが必要だ。

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