TOPPAGE分権改革>政令指定都市と住民自治
瀬例指定都市と住民自治

 

  政令指定都市と住民自治

                 大阪市政調査会『市政研究』2013年秋号            
              奈良女子大学名誉教授 澤井 勝

 

1、指定都市における「住民意思の的確な反映」

 

 第30次地方制度調査会の答申は、「現行の大都市等に係わる制度の見直し」の章で、まず指定都市制度が昭和31年に創設されてから、その基本的な枠組みが50年以上にわたって変更されていないと述べる。そのうえで課題を二つ挙げている。一つは、「二重行政の解消」である。特に大都市である指定都市と都道府県の間の二重行政を解消するために、その区域での同種の行政事務を処理する主体を一元化し、指定都市と都道府県との間の調整のあり方を検討することを求めている。その主な内容は、指定都市への事務移譲による二重行政の解消策を推進するものとなっている。

 もう一つは、「住民意思の的確な反映」という課題を挙げている。本稿では、この「住民意思の的確な反映」という提言について若干の検討を行うことしたい。

答申はこの章の「(3)「都市内分権」により住民自治を強化するための具体的な方策」で以下のような点を挙げている。

(1)  住民に身近な行政サービスについて、住民により近い単位で提供する「都市内分権」により住民自治を強化するため、区の役割りを拡充することとすべきである。

(2)  区の役割りを拡充する方法として、まず、条例で、市の事務の一部を区が専ら所管する事務とすべきである。

(3)  また区長が市長から独立した人事や予算の権限、例えば、区の職員の任免権、予算のうち専ら区に関わるものに係わる市長への提案権、財産のうち専ら区に関わるものの管理権、などを持つこととするよう検討すること。

(4)  このような権限を持つ区長については、副市長並みに市長が議会の同意を得て選任する、任期4年の特別職とすることを選択できるようにすべきである。

(5)  区長の公選も引き続き検討する必要がある。

(6)  さらに、区単位の行政運営を強化する方法として、区地域協議会や地域自治区等の仕組みをこれまで以上に活用すべきである。

(7)  条例で、区に教育委員会や区単位の市教育委員会の事務局を置くことを可能にすべきである。区の教育委員会等は、小中学校の設置管理など条例で定めるものを処理する。

 この第30次地方制度調査会の答申の特徴は、上にみたように、大都市に住み、働く人々から見ての難点を、「住民意思の的確な反映」が十分にできていないところに見ているところにある。大都市行政は、住民からは遠いという問題点を改めて確認し、それを解消しようとする。その解消策として、都市内分権と住民自治の強化を挙げているようだ。それを2段階で考えているといえる。まず区の権限(役割)の拡充である。具体的には、条例によって区への事務移譲を提案する。さらに区長に人事権と予算編成権の一部委譲を提案している。それに伴い、区長の選任に議会をかかわらせ、任期付きの特別職とすることを選択できるようにする。これらについては、地方自治法の改正を考えていると見られる。

 

2、住民自治の一つのモデル

 このような「区への分権」を、まず事務・権限の一部の区への移譲とそれにともなう予算提案権の一部、人事権の一部の移譲によってすすめることに異論はない。ただし、このような区への分権は、「住民自治の強化」には直ちには結びつかないことは留意が必要である。

現在の大阪市の市政改革でも「ニア・イズ・ベター」の標語が使われているが、これを実現するとしても、そのことで「住民自治」が実現するわけではない。むしろ、1969年に松戸市から始まった「すぐやる課」という行政サービスの迅速な提供と、それにともなう「市民の行政依存」を再生産することに陥る可能性もある。もちろん、すぐに「やるべきことをやる」のは当然だが、それによって住民自身が行政依存状態に陥ることは避けたい。

住民自治とは、「ある地域社会の統治が住民の参加と同意に基づいて行われていること」、とされている。具体的には、住民が自治体の代表たる首長と議会議員を選挙する(間接民主主義)。条例の制定改廃請求によって立法に参画する権利を持ち、首長と議員をリコールし、事務監査請求を行う(直接民主主義)。これが地方自治法上の住民自治の権利とされている。

しかし、住民自治のあり方は地方自治法の枠内にとどまらず、もっと広い。本来は、主権者である住民が、その意思に基づき立法し、行政の執行を管理し、また自ら事業を担うことであるからである。

そのいい例がイギリスのイングランドのタウンまたはパリッシュである。『自治体情報誌 Dファイル』に連載されている「イギリスの町議奮戦記」では、イギリス西南部、コーンウォール県にあるソルダッシュ(人口15000人ほど)というタウンの議員であるヒラリー・フランクさんの活動をレポートしている。2013年の秋号の竹下譲氏の整理に従えば、このタウンは、法律で義務付けられた行政を執行するのではなく、タウンのすべての仕事をタウン自身が選定し、業務を遂行するためにタウン自身で税額を定め、住民に課税する団体である。このため、実際に行われている仕事はタウンごとに様々である。道路の維持管理、小学校の運営、墓地の管理、スポーツ施設の設置・運営などなど。もっともタウンの間で共通点はある。それは「住民の声を伝える」という機能である。このタウンは、自ら公共的施策をまとめ、立法し、計画を策定し、事業を実行する主体である。

ここで議論している指定都市の都市内分権では、このような主体にはなりえない限界を持つが、限りなくそれに近づいていくような目標水準として、設定することはできる。

 

3、「住民自治の強化」

これを住民自治の一つのモデルと考えると、このたびの地方制度調査会答申では、「住民自治の強化」の内容がよく見えない、ともいえる。区長公選についてはなお検討するとしているが、議論は難航しそうである。ひとつヒントになるのは、(6)にある“「区地域協議会」や「地域自治区」等の仕組みをこれまで以上に活用すべきである」”という文言である。ただし、これもその前段に、「区単位の行政運営を強化する方法として」とされているので、自治体の行政運営の強化という観点からの検討だということがわかる。

 いま問われている「住民自治」は、自治法上の住民の権利にとどまらない領域に広がっていると述べた。それは松下圭一氏の公共政策論にいう、公共政策の主体に係わる問題である。中川幾郎氏の整理によると以下のようである。「松下の整理から、個人(家庭)→近隣・地域社会(市民活動を含む)→自治体政府と並べてみると、自治における補完性の原則をも説明していると言えよう。さらに松下は、「公共政策」の主体を国・自治体レベルの政府だけに限定していない。彼は、市民活動を第一の主体に置き、次に団体・企業、そして自治体・国・国際機構と並べている。ここでは、市民活動、団体・企業もまた「公共政策」の単なる提案者であるだけでなく、政策の実現者であり、公共的財産の管理・運用の当事者であることが前提となっている。」(中川幾朗編著『地域自治のしくみと実践』学芸出版社、2011年、4344頁)。つまり松下によれば、「公共政策」は民(市民活動・団体・企業)と官(自治体・国・国際機構)とが担うものである。この民の領域には、広く地域団体(自治会・町内会など)、とNPOやNG0などを含むと考えられる。

 こういった観点からすると、「住民自治の強化」とは、市民活動団体が多かれ少なかれ自律的に「公共政策」を担う状況を作り出すことに他ならない。

 

4、協働原則

これは同時に、各自治体でこの間一般的になり、基本構想や総合計画ベースでも広く取り入れられてきた「市民と行政との協働」という考え方と、平仄が合うようになってきたことも指摘しておきたい。協働の手法として、企画段階からの意見交換、事業委託、指定管理、補助金、助成金、実行委員会、協働の編集委員会などの方式が、旧来からの手法の内容改善も含めて定着してきている。もちろん、官僚制の惰性は強く、少しルーティーン化するともとのような、市民活動団体を下請機関化する傾向は根強いのだが。

特に協働事業を各課が進めるにあたって、行政と市民とが共通の原則に立つことを決めた「協働の原則」が、ごく部分的だが浸透しつつあることも重要な契機となっている。それは、「住民自治の強化」のためには、「行政が変わらなければならない」からである。たとえば奈良市の『奈良市市民参画及び協働によるまちづくり推進計画』で示された「協働の原則」は次のように定めている。この原則は2006年の設定当初は、NPO・ボランティアと行政との関係に限定していたものだが、現在は広く地域団体(市民公益活動団体、町内会や自治会など)をも協働の対象としている。

(1)対等であること、(2)相互に理解すること、(3)自主性を尊重すること、(4)自立化を進めること、(5)目的を共有すること、(6)補完しあうこと、(7)公開すること、(8)共に変わること、(9)期限を決めること

 

5、区地域協議会、地域自治区

 さて、答申では、“「区地域協議会や地域自治区」などのこれまで以上の活用”が挙げられている。おおむね1990年代以降、各自治体のコミュニティ政策の新しい展開で形成されてきた各地の法律に基づかない「まちづくり協議会」や「区地域協議会」などが一方にあり、他方には市町村合併の支援のために制度化された「地域審議会」「合併特例区」「地域自治区」が形成されてきた。答申が例示している自治区等は、「住民自治の強化」に結びつくだろうか。

(1)  地域審議会は合併特例法第5条の41項に根拠があり、合併後の一定期間、協議で定めるもので10年程度設置することができる。新市の市と湯の諮問に応じて審議するが、必要と認める意見を述べることもできる。201351日現在で、195市町村に設置されている。

(2)  地域自治区には2種類ある。

1)               地方自治法第202条の4に定める一般制度としての地域自治区。期間の定めはない。所長は事務吏員を充てる。地域協議会の委員は長が住民から選任する(上越市のように公選に近い選挙を行う地区も認める地域自治区もある)。協議で定める重要事項については、長は協議会の意見を聞かなければならない。協議会は必要と認める事項につき、長に意見を述べることができる。現在17団体に156地域自治区が置かれている。

2)               合併特例法第5条の81項に基づく地域自治区。市町村合併の時だけ設置が認められる(合併後の一定期間)。所長は市長が住民の中から選任する。地域協議会の委員は長が住民の中から選任する。現在30団体に65地域自治区が置かれている。

(3)  合併特例法に基づく合併特例区は熊本市に3区、宮崎市に1区ある。

 

 このうち合併特例法に基づく地域自治区や合併特例区などは政令指定都市の区には適用できない。一般制度としては、地方自治法第202条の4による地域自治区だが、これは地域協議会が長の任命制であったりする場合は「住民自治の強化」に結びつきにくいであろう。むしろ「行政運営の強化」に強く傾斜する可能性が高い。また、地域協議会の役割りも、長の諮問に応じる諮問会議の性格が強い。自ら発議することもできるが、かなりそれをできる協議会は限られるようだ。

 もっとも、この一般制度としての地域自治区の中でも、上越市のように、その審議会機能を活発に利用して、地域自治区レベルでの政策論議を積み重ねているところもある。上越市は20051月の合併時には合併特例法に基づく合併特例区を13(編入した旧町村ごと)設置したが、2008年には地方自治法に基づく恒久制度の地域自治区に編成しなおした。さらに2009年には旧上越市内に15地域自治区を設置し、市内全域に地域自治区を置いた。また2010年度から地域活動支援事業を始めている。この事業は各地域自治区ごとに地域活動事業を募集し、各地域協議会で審査して採択している。23地区で2億円を配当。これなどは、後に見る先進事例に似た形になりつつあるとも見える。

 

6、条例等による「住民自治協議会」

むしろ可能性は、法律に基づかないで形成されてきた「住民自治協議会」の先進事例にあるようだ。第1表は、20131月ごろ奈良県生駒市が行ったアンケート調査の一部を紹介したもの。これは生駒市が自治基本条例に定める「市民自治協議会」の設置に向けて、33都市にアンケート調査を依頼し、28都市から回答を得たものである。また第2表は、大阪市の市政改革室の資料である。これらの中には指定都市である熊本市、札幌市、横浜市の泉区、名古屋市、北九州市、福岡市などもあるが、区レベルの住民自治を考える場合、ほとんどが小学校区レベルの議論になるので、他の都市類型と差別化をしないで検討できると考える。

 これらのおおまかな共通する特色は、第一には、地区の取り扱い方である。自治法など法律に基づく自治区は、合併前の旧町村単位である。それを中心市にまで広げるときの区割りは、おそらくこれも中心市の合併の歴史から導き出されている場合が多いのではないか。一方で、特に協働事業を進めるという観点から、新しいコミュニティや新しい公共を目指してつくられてきた「協議会」は、多くが「小学校区」を地域として選択している。それはなにより、地域の住民の活動、市民活動の新しい展開を考えるところから、活動の範囲を小学校区とする場合が多い。それは特に高齢者の見守りや、声掛け、そして子供の通学途上の見守り、公園などのアドプト事業、配食事業、など生活圏での支えあい事業を担うものとして設計されてきているからである。

 第二は、公共政策へのニーズが多様化する一方、行政の平等原則では対応できない状況がある。それへの対応として、多様な主体を取り込んだコミュニティの再構築が求められていると言う問題意識が共通している。

 A市の場合。「現在少子高齢化や核家族化など急速な時代の変化の中で、地域では様々な課題が生じている。また市内には173の自治会があり、地域活動の中心的な役割を担っているが、加入率の低下や役員の高齢化、自治会未加入者の増加など自治会での地域活動にも支障が生じている。このような状況の中で、地域の様々な課題を解決するためには、「自分たちの地域は自分たちでつくる」との考え方のもと、これまでの自治会の役割りを超えて、地域が一体となって活動をしていくことが必要となっている。」

 三つ目に、地域担当職員を置いているのは28団体中19団体で、置いてないのは小美玉市、一宮市、草津市、東近江市(前は置いていた)、近江八幡市、徳島市、倉敷市、鳥栖市、熊本市である。地域担当職員を配置することで得られたメリットとしては、B市の場合、「可能な限り、その地域居住者もしくは出身者を地区担当職員としているため、地域の実情について精通しており、住民と一緒に考えながらスムーズに活動を進めることができる。また、協議会が進めたいと考える事業に関する行政側の情報を提供することができることから、地域の将来的な方向性についても検討することができる」などとしている。

 地域協議会を設置してのプラス面については、かなり大きいという回答が多い。担当者としては当然ではあるので、差し引いて見なければならないが。C市の場合。地域の総意に基づき、一体感を持って校区の課題に取り組める。各種団体が連携・協働することで、活動に相乗効果が生まれる。個々の団体では解決できなかった課題が解決できる。会議や事業等の重複を避けることで、活動が効率的になる。地域参加により、ネットワーク力や愛着心等が向上する。」

 もう一つは、従来、自治会・町内会が受託していた事業への補助金を統合し、一括して地域協議会に配分する方式が広く取り入れられていることである。この配分金の範囲内で事業メニューを選択できるところ、できないところで差が生じることもあろう。

 また、条例によって地域協議会を設置しているのは、28団体中10団体で、自治基本条例中に規定している場合が多い。他は設置要綱や補助金要綱などに規定しているものもあり、特になしというところもある。D市の場合、「校区まちづくり協議会」は、あくまで地域住民の組織であるため、条例や規則等での位置づけはないが、市の支援策として整備している校区まちづくり交付要綱に、その表現はある」としている。

 なお、大阪市が2013年度末までに市内全校区で設置するとしている「地域活動協議会」は、その設置根拠を「自律的な地位薫英を支援するための活動補助金交付要綱」としている。

 

 指定都市における住民自治の強化の道の一つは、このような地域協議会設置とその運営を通じて、住民自身が地域課題を討議し、施策を決定し、財源を調達し、事業を執行していくことを通じて形成されていくのではなかろうか。特に強調しておきたいのは、そのとき、地域協議会事業について、市と区の持つ行政の権能と資源を積極的に活用していき、行政責任を明確にしていくことである。そのような官と民との調整のあり方は、今後の課題である。

Copyright© 2001-2009 Masaru Sawai All Rights Reserved..