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地方分権改革の現在

  市民自治と行政改革の間で

                      奈良女子大学名誉教授  澤井 勝

                                (『現代の理論』第17号、09年6月、予定原稿)


権限移譲の可能性/国の出先機関の統合/3期目の分権改革?/分権の目的は自治か行革か/市民自治への分権改革へ/自治的市民社会をつくる
 

                       

権限移譲案の可能性

 政府の地方分権改革推進委員会(委員長は丹羽宇一郎伊藤忠商事会長、委員長代理は西尾勝東京市政調査会会長、任期は103月)は昨年128日、第二次勧告をまとめた。国の出先機関を地方振興局と地方工営局にまとめる。仕事の都道府県などへの移譲と合理化で段階的に35千人程度を削減するよう求めた。しかし、人員削減の時期や予算縮小は明示できなかった。

これに先立つ5月の第一次勧告は、権限移譲案が主で、1、国道や1級河川の管理権をできるだけ都道府県に移し、特に同一府県で完結する一級河川を都道府県管理とする、2、都道府県の事務のうち、都市計画法の用途地域の指定や変更、特別養護老人ホームの設置、保育所の設置認可等359事務を市町村に移す、3、補助金で作られた施設の転用や譲渡を容易にする、を柱とする。基礎自治体である市への権限移譲案に重点が置かれている。

なお、これら国からの権限移譲については、具体化は各省に任せられている側面が強く、どこまで2011年度の3月頃と予定されている新分権一括法に盛り込まれるかは未知数である。ここに今回の「分権改革推進委員会」の限界がある。また総理のリーダーシップが感じられないこともあって、これら勧告も「いいっぱなし」になる可能性も指摘されている。

国の出先機関の統廃合

この第一次勧告で第二次勧告の主題として予定されていたのが「国の出先機関」の統廃合であった。第二次勧告は、それに沿った作業によって、地方振興局と工営局への出先機関の統廃合を提案した。ところがその直後に地方分権改革推進委員会のこの勧告文に事務局がこっそり一文を挿入していたことが判明。職員の削減目標の項で、目標の他に「政府に対して具体的な措置を求める事項は5及び6の通りである」という文章が入っていた。この操作によって「4」に書き込まれていた削減目標、すなわち、「出先機関の職員のうち合計35000人程度の削減をめざすべきである」とした数値目標については「具体的な措置を求める」対象にはならないことになる。そこで、推進委員会は16日、第二次勧告を再審議することにし、新しい決議文をあげることとなった。結果として勧告文の修正は行わず、5節と6節の前提が第4節であり、切り分けずに一体のものとして踏まえるよう求め決議となった。できの良くないマンガのようであるが、このような事情が今回の地方分権改革推進委員会の仕事ぶりをよく表しているとも言える。分権改革が35千人の出先機関職員の削減問題に矮小化されているとも言える。

三期目の分権改革?

 地方分権改革は今回を第3期とすれば、第1期は1993年の衆参両院の決議を初まりとし、95年の地方分権推進法の成立(5年間の時限立法)とそれに基づく地方分権推進委員会(諸井虔委員長)の設置、そして翌年の2月に機関委任事務制度の廃止を柱とした「中間報告」をまとめ、9812月の第5次勧告と続く。この作業は1999年の475本の法律をまとめて改正した地方分権一括法に結実し、2000年に施行されている。

 第2期は、2001年に設置された「地方分権推進会議」(会長西室泰三東芝会長、3年期限)であるが、この会議は財界主導の「小さな政府論」と「生活者主導の分権論」との対立がとけず、基本的な答申をまとめるに至らなかった。言い換えれば小泉構造改革を後押しする意見をまとめるという機能に限定された。その最終意見の提出に当たって、西室会長が示した所管では、「地方の選択(自己決定)と自己責任」とを強調し、「単なる権限と税財源の移譲ではなく」「国と地方を通じた持続可能な行財政システムへの改革」を求めた。「自己決定と自己責任」という新自由主義の色合いが強かった。

分権の目的は自治か行革か

 この過程全体を評価して、一貫して委員を務めている西尾勝委員長代理は、「自治派」と「行革派」とがせめぎあって来たという。第1期は、国の機関委任事務制度の廃止を主題にして、自治派が優勢。第二期は経団連など財界や新自由主義のエコノミスト主導の小泉構造改革の一環を担う「行革派」が優勢で、神野直行東京大学教授などとの対抗が目立った。第3期も国の出先機関の統合と人員削減に焦点があり、「行革派」が優勢だが、「自治派」は最終答申で税財源移譲や国による規制を条例による規制に代えるなど、自治体の自由度の拡大に寄与する答申としたいとしている。

もちろん同じ人の中に、この二つの「派」が同居していることも多い。この文脈では、国から自治体への権限移譲も、国を小さくするという意味での「小さな政府論」として主張される。これは経団連の「道州制」の主張に色濃い。ここでは権限移譲や基礎自治体強化論は、財政負担を軽くし、「効率的で持続可能な」政府への要求となり、アメリカ共和党の路線に共鳴することなる。

市民自治への分権改革へ

地方分権改革が市民にとって身近なものにならず、関心も高くないのは、これまでの三期にわたる取り組みが「行政内分権」に限られてきたからである。むしろ、地方分権によって「市民の権利」がどう拡大するか、という視点からの地方自治体改革として組み立てられる必要がある。二年前に次のように提案したが、なお有効であると思う。

そのためには、地方自治法における住民の規定を改めることも必要だ。現行の地方自治法はその10条の第2項で、「住民は、法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分任する義務を負う」と定めている。これが「住民の権利と義務」なのである。この規定は明治211888)年の「市制町村制」における「凡市住民タル者ハ此ノ法律ニ従ヒ公共ノ営造物並ビニ市有財産ヲ共用スルノ権利ヲ有シ及ビ市ノ負担ヲ分任スルノ義務ヲ有スルモノトス」以来の規定で、実に120年近い寿命を誇る。寿命が長いことが批判されるべきこととは必ずしも言えない。しかし、本条については次のような指摘がある。「本条の問題点の基本は、その後の若干の改正を経たにもかかわらず、本来能動的積極的な地方公共団体の主人公たる地位にあるべき住民が、自治権の主体たる地位を否定され、市町村という公法人もしくはその第一の構成要素たる土地に従属する「第二ノ構成要素」、行政客体と位置づけられたことにある。」(佐藤竺編著『逐条研究地方自治法第1巻』地方自治総合研究所、243頁)。」(『自治日報』07518日号)。これを転倒する改革が求められる。

自治的市民社会をつくる

最後になるが、自治と分権をわれわれ市民が拡充するために何ができるかを三つだけあげておきたい。第一に、あなたが公務員であれば、法律を自ら解釈運用することを目指して、地域住民のニーズを捉え、問題解決に苦闘すること。これは内なる機関委任事務体制を克服するために必須である。今回の分権改革は国との対等関係を作り続ける永続革命としての性格が最も大事なのである。

第二に、われわれ自らがNPO法人を立ち上げ、地域や活動エリアで「現代のコーヒーハウス」を無数につくり、行政では困難な課題を担いたい。自治は観測したり、評論するものではなく、なにより参加し、つくるものだからである。

第三に、地域の町内会や自治会、管理組合の役職は機会があれば積極的に担う。地域社会の矛盾に満ちた付き合いの中にこそ、コミュニティ再生のカギがある。「よそもの、ばかもの、わかもの」が地域活性化のポイントであることは、よく知られている。ここに働き蜂だった団塊の世代などが地域で生きていくヒントがある。

 

 

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