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LD支援も虐待相談も市町村の仕事
              (初出:『自治総研』巻頭コラム、05年5月号。)

 

 LD支援も、虐待相談も市町村の仕事に

地方分権一括法が施行されてから4年、この4月から5年目に入った。この4年間に市町村や府県に権限が付与される「新しい領域」が確実に拡大してきている。福祉、雇用、教育、景観などまちづくり、環境、リスク管理、地域での共生など。これは自治体がどのような責務を果たすことが社会的に求められているか、ということを示唆している。

 ところで大学では今年度も4回生の卒業演習が始まり、ゼミ生それぞれの問題意識を出し合いながら、卒論のテーマを議論している。その中で、LDの子どもたちのことが話題になった。LDとは身体障害や精神障害、知的障害とならぶ「発達障害」のひとつである「学習障害」(Learning Disability)という新しい障害の概念であり、昨年、04123日に成立した「発達障害者自立支援法」のなかに位置付けられたものだ。広く捉えると、生徒の8%ぐらい、40人学級に3,4人は居ることになるという。

Oさんは、昨年の中学校での教職の実習で、注意欠陥多動性障害(ADHD)をもつ生徒にどういう姿勢で接するか、その悩みについて語った。Kさんは、自宅で開いている公文の学習塾に来るLDの子どもたちが生き生きとしてやさしく、学校では見せないかもしれない姿を見せてくれると言う。

このような「発達障害」の研究と支援の取り組みは、1960年代にアメリカで研究が本格的に始まったとされている。わが国では1990年ごろから実質的な調査や研究、施策化への運動が始まったようだ。それが今回の「支援法」に到達した。このLDの定義とそのような子どもへの教育のあり方、そして社会生活支援の考え方を次のように言う。

「人間をコンピュータに例えるなら、LDはコンピュータとしての製品チェックはパスしていても、どこか一部、つまり聞く、読む、書く、計算する、推論するといった、学習の基礎となる能力の習得や使用面に関係する部分に、やや不調な領域をもっているということができます。

こうした機能の不調さは、迂回する回路や補助装置を自動的に選択することで回避し、気づかぬこともあれば、意図的に別のソフトや支援ソフトを使って解決できる場合もあります。要は、使い心地とか、マシーンの癖をのみこんで使いこなせるかどうか、といった問題なのです。(略)LDの子どもが持つそれぞれの特徴(個性)を理解し、それによって彼らに生じやすい不利をできるだけ少なくする配慮は、人間の個性を認め、その個性に合った教育をすることになります。」(上野一彦『LDとADHD』講談社α新書)

この「発達障害者支援法」は、この41日から施行され、市町村は母子保健法による定期検診で早期発見につとめ、継続的相談事業を実施し、支援センターに紹介し、助言を行うこととされた。保育事業では「発達障害児の健全な発達が他の児童と共に生活することを通じて図られるよう適切な配慮をするものとする。」また就労の支援の準備、及び、「発達障害者がその希望に応じて、地域において自立した生活を営めるよう、住居の確保、生活訓練などの機会の確保、その他必要な支援に務めなければならない」とされている。

同じ41日に、「改正児童福祉法」が施行されている。この改正は、市町村を児童虐待防止のための最初の通告機関のひとつとして第一線の相談事業を担い、要保護児童の状況調査の責務を持つこととされた。また主として市町村が要保護児童対策協議会(虐待防止ネットワーク)を設置するとしている。既に多くの市町村が設置している。児童相談所は、市町村をバックアップする専門機関として特化することとなる。

また、210日に国会に上程された「障害者自立支援法」では、身体、知的、精神の三障害施策を一元化して、市町村は障害の認定を行う調査を行い、認定審査会を設置する。その審査の結果を受けて介護給付費の支給要否の決定を行い、その給付費の10分の9を支弁するなど、介護保険の保険者と似た職権を担うこととなる。早ければ来年の4月(一部は今年10月)から施行される。

問題は、このような矢継ぎ早の新しい権限の創設に対して、自治体側の対応が決定的に遅れているという点である。その場しのぎの対策のため、一線の職員の兼務の増大と不十分な予算措置となっている。これではしわ寄せが当事者に行くことは目に見えているし、現場で新しい差別を引き起こすといったことも懸念される。急がなければならないのは、将来的にどの行政分野をビルドするかを明確にすることだ。その上での思い切った機構改革によって、増大する喫緊の公共サービスの十全な展開を、NPOなど市民との協働のもとで可能にしたい。

(奈良女子大学名誉教授 澤井勝)


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