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地域福祉と自治体行政(その2)福祉行政における市町村

澤井勝(大森弥編著『地域福祉と自治体行政』ぎょうせい:所収草稿、200年8月)


目次
(1)戦後改革と市町村福祉行政 (2)1986年の国庫補助負担金の補助率引き下げと団体事務化 (3)三審議会答申と90年福祉八法改正 (4)ゴールドプランからゴールドプラン21 (5)エンゼルプランと市町村 (6)障害者プランと市町村 (7)介護保険と市町村 (8)社会福祉法と市町村、地域福祉計画 終わりに、これからの市町村

ポイント

1、戦後の福祉行政は、国と都道府県を中心に組み立てられ、その事務は多くが「国の機関委任事務」であったため、市町村の自主的で自立的な福祉政策の展開は、極めて限定されていた。社会福祉協議会も行政の下請け機関としての性格を色濃く持っていた。

2、1980年代の福祉改革と1990年の「社会福祉8法改正」、によって、社会福祉の主体としての市町村が法的に位置付けられ、老人保健福祉計画や障害者基本計画、エンゼルプランなど、計画行政を地域において担う主体として実績を積む。そこでの当事者参加の試みや、調査活動、ボランティア組織とその活動の広がりが新しい福祉の時代を準備する。

3、介護保険制度での市町村の役割の拡大と、社会福祉事業法の改正による「社会福祉法」の成立は、地域福祉計画の総合的な策定、実施の責任を市町村に委ね、地域福祉の本価格的展開に道を開いたといえる。基礎的自治体としての市町村は、縦割り行政と指示待ち行政の幣を克服して、総合的な福祉・医療・保健・都市計画などの各行政の統合主体として、そして行政、事業者、市民、当事者というパフォーマーをコーディネートする政策形成主体として、期待されている。


(1) 戦後改革と市町村福祉行政

 わが国の福祉行政は、生活保護法(1946年旧生活保護法、1950年新生活保護法)を中核としたいわゆる保護行政、戦災孤児などへの対策から本格化した児童福祉法(1948年)、同じく戦傷者などへの対応もあって早期に作られた身体障害者福祉法(1948年)に始まり、高度経済成長の過程で1960年の精神薄弱者福祉法、1963年の老人福祉法、1964年の母子福祉法によって、福祉六法体制が形成された。これらの措置を中心とし、都道府県と都市の社会福祉事務所を拠点に、市(町村)の社会福祉のシステムが構成されてきた。

これに民間の社会福祉組織として社会福祉協議会が1951年の社会福祉事業法の制定に伴って組織され、共同募金運動、社会福祉法人とともに戦後の福祉制度を形作ってきたといえる。

 しかし、1980年代までの都道府県と市町村の社会福祉行政は、なお地域の福祉行政の主体として明確になっていなかった。それは、福祉行政そのものが都道府県知事や市町村長に対する「国の機関委任事務」がその大部分を占めていたため、国の事務という観念が強く、国の出先として事務を処理するという域をなかなか出られなかったことにもその理由がありそうである。

その中で、保育行政は地域のニーズに応える必要から、比較的に市町村行政として、自治的に展開されてきたといえる。保育行政は児童福祉法24条に基づく市町村長への機関委任事務であったが、例えば東京都や三多摩の市などは保育料の算定や、保育所の職員定数、それに入所基準などで、様々な裁量的な工夫がされていた。それが、「国庫補助金の超過負担問題」として一時クローズアップされることにもなったのである。

 また、機関委任事務ではない福祉行政の多くが、地方財政法16条に言う「奨励的補助金」によって誘導されて形成されるという集権的な性格をもっていた。つまり、集権制のもうひとつの柱である国庫補助事業が大きな割合を占めていた。例えば、老人福祉の分野での「老人クラブ」は国庫の3分の1の補助を得て、全ての市町村で老人福祉施策の主な事業であった。また、「家庭奉仕員派遣事業」、現在のホームヘルプ事業も奨励的補助事業であり、それに伴う補助要綱の世界であった。

 いずれにしても国庫補助要綱や、補助基準に縛られるという意味で、多様な実施内容をもちながらなお、きわめて非自治的な政策領域であったといわなければならない。

 一方で、同じく1980年代から地域福祉をめぐる議論が活発になり、それが1980年代福祉改革という時代的な認識をも生んだ。この基礎には、1970年代の地域コミュニティ論と福祉コミュニティ形成論(複数の福祉活動集団の形成)などの実践現場からの問題提起があり、また制度的には社会福祉協議会の法人化などの流れがあったといえる。

 

(2) 1986年の国庫補助負担金の補助率引き下げと団体事務化

80年代の福祉改革は、皮肉なことに、1986年の国庫補助金の補助率の引き下げという財政面からのインパクトを受けた側面が大きい。すなわち「機関委任事務の団体事務化」によって、児童福祉法と老人福祉法などの中心的な事務事業が、自治事務ともいえる「団体事務」として位置付けられることとなったことである。機関委任事務から団体事務に転換するということは、主務大臣の指揮監督権が、当然には市町村ないし市町村長に及ばないことを意味する。従って、「政令に定めるところにより」という規定によって、市町村の団体事務を拘束しようとする規定が多用されることともなった。

例えば、児童福祉法24条1項「市町村は、保護者の労働または疾病その他の政令で定める基準に従い条例で定める事由により、その監護すべき乳児、幼児の保育にかけるところがある場合において、保護者からの申し込みがあったときは、それらの児童を保育所において保育しなければならない。」

しかし、このような制度上の転換は、国である厚生省の側にも、市町村の側にも、ましてや中間的な位置にある都道府県にも、十分にその意味が理解されないまま、数々の通達と補助金とその要綱のもとでなお集権的なシステムとして機能してきたといえる。(なおこの86年に社会福祉士法、介護福祉士法が成立している)。

とはいえ、この「団体事務化」」によって市町村の、社会福祉行政における役割を見直し、その地域における福祉の主体的・自治的な展開に期待しようとする流れが、明確になってきたのである。

 

(3) 三審議会答申と90年福祉8法改正

1986年1月には、「福祉関係三審議会合同企画分科会」が発足した。三審議会とは、中央社会福祉審議会、中央児童福祉審議会、身体障害者審議会で、この各審議会に企画分科会を設けた上で、その合同審議を行うこととされた。これは高齢社会の到来を見通しながら、大きな社会構造の変化に対応しうる福祉制度を総点検するという位置づけで行われた。この合同分科会は1989年3月に次のような提言を行った。

人生80年時代を迎えて、長寿社会にふさわしい福祉社会を実現するためには、サービスの一層の質的、量的拡充を図るとともに、ノーマライゼイションの理念を浸透させ、同時に福祉サービスを選別主義から普遍主義的な利用を可能にする制度的な保障を確立すること、サービス利用者の選択の幅を拡大する。そのための社会的基盤の整備を急ぐべきである。特に、社会福祉の運営と実施にかかわる市町村の役割を重視することを提言している。

この市町村の役割を重視するように求めた提言は、社会福祉の領域における、地方分権化の方向を決定付けるような役割を担ったと評価されている(松村洋子・大森彌『福祉社会の政策課題』放送大学教育振興会、2002年3月23頁)。

 1990年6月には、いわゆる社会福祉8法の改正が行われ、80年代の福祉改革のひとつの仕上げが行われたといえる。この福祉8法とは、老人福祉法、身体障害者福祉法、精神薄弱者福祉法、児童福祉法、母子および寡婦福祉法、社会福祉事業法、老人保健法、そして社会福祉・医療事業団法である。

 この制度改正のポイントは次の点にある。

(ア)在宅福祉サービスの積極的推進

 ホームヘルパー、ショートステイ、デイサービスを老人福祉法、児童福祉法精神薄弱者福祉法、身体障害者福祉法など福祉各法において法定し、従来補助金の補助要綱などで裁量的にしか位置づけられていなかった各サービスの位置づけを明確にした。例えば、以下のとおりである。

身体障害者福祉法18条

「市町村は、身体障害者につき必要に応じ、以下の措置をとることができる。

一 居宅において入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活を営むのに必要な便宜であって厚生省令で定めるものを必要とする者に対しては、政令で定める基準に従い、当該便宜を供与し、又は当該市町村以外の者に当該便宜の供与を委託すること。

二、身体障害者福祉センターその他の厚生省令で定める施設における手芸、工作その他の創作的活動、機能訓練、介護方法の指導その他の厚生省令で定める便宜を必要とする者に対しては、政令で定める基準に従い、当該市町村が設置する身体障害者福祉センター等に通わせ、当該便宜を供与し、又は当該市町村以外の者が設置する身体障害者福祉センター等に通わせ、当該便宜を供与することを委託すること。

三 居宅においてその介護を行う者の疾病その他の理由により、身体障害者療護施設その他の厚生省令で定める施設への短期入所を必要とする者に対しては、政令で定める基準に従い、当該市町村の設置する身体障害者療護施設等に短期間入所させ、必要な保護を行い、又は当該市町村以外の者の設置する身体障害者療護施設等に短期間入所させ、必要な保護を行うことを委託すること。」

また、日常生活用具の貸与や給付事業を法定化し、在宅福祉サービスに対する国および都道府県の補助金の規定を法で定めている。さらに、居宅の高齢者に対する専門的相談については、在宅介護支援センターの設置を法定している(老人福祉法6条の2)。

(イ) 社会福祉事業法改正による社会福祉事業への追加

 この改正で、第二種社会福祉事業として以下の17件の事業が追加されている。

・     児童居宅介護事業・児童デイサービス事業・児童短期入所事業・母子家庭居宅介護等事業・寡婦居宅介護等事業・父子居宅介護等事業・老人居宅介護等事業・老人デイサービス事業・老人短期入所事業・老人デイサービスセンター経営事業・老人短期入所施設経営事業・身体障害者居宅介護等事業・身体障害者デイサービス事業・身体障害者短期入所事業・精神薄弱者居宅介護等事業・精神薄弱者短期入所事業・精神薄弱者地域生活援助事業

(ウ)在宅福祉サービスと施設福祉サービスの市町村への一元化

 この改正で、在宅福祉事業に関わる権限と、施設福祉に関わる権限は、ともに市町村に委譲されることとなった。

・     老人福祉法では、特別養護老人ホーム、養護老人ホームへの入所決定者は市町村とされ、その権限が都道府県から委譲された。

・     身体障害者福祉法では、身体障害者の発見、相談、医療機関紹介、公共職業安定所への紹介、身体障害者更生援護施設への入所決定、更生訓練費の支給、補装具の給付、ショートステイの利用決定、更生医療費の給付など

特に、町村への権限委譲は大きなインパクトを与えた。この権限委譲、すなわち在宅サービスを提供する権限と、施設への入所決定権の委譲は、そのサービスを提供する責任を市町村に総合的に負わせるものであった。これが、この法改正のもうひとつの柱である「老人保健福祉計画」を市町村が主体的に担う基盤となり、その後の介護保険者としての市町村を制度的に準備するものともなったのである。

(エ)市町村および都道府県老人保健福祉計画の策定の義務化

 高齢者に対する福祉サービスと保健サービスを、一体的に供給するために、市町村が主体となった「地方老人保健福祉計画」を義務付けることとなった(老人福祉法20条の8、老人保健法46条の18)。

 都道府県は、この市町村老人保健福祉計画の達成に資するために、広域的な観点から「都道府県老人保健福祉計画を策定する(老人福祉法20条の9、老人保健法46条の19)。

 これらの地方老人保健福祉計画は、1993年度中には全市町村、全都道府県で策定され、介護保険制度が実施された2000年には、第二次高齢者保健福祉計画が、介護保険事業計画を包括する形で策定されている。

 この「地方老人保健福祉計画」はいくつかの特色を持っている。

第一には、市町村計画が主体であって都道府県計画はその積み上げによること。

第二には、市町村計画は厚生省が示す「参酌すべき標準」を参考に、「事業の目標量」を掲げることが義務付けられたこと。例えば、7ヵ年計画とした場合、7ヵ年で達成すべき事業の目標量として、ホームヘルプを(利用者数×時間数÷ヘルパー一日活動時間=○○万時間・人)という事業量で表現し、必要とされるヘルパー数(常勤換算)を、整備目標として計画に掲げる。また、要介護高齢者数の推計と、施設利用の趨勢から必要とされる特別養護老人ホームのベッド数と施設数を、整備目標量として掲げる。

第三には、この事業目標量を測定するために、それぞれの市町村における高齢者の実態調査を必須としたこと。この実態調査には、サービス利用意向調査が組み込まれ、サービスの認知度の調査をも伴う。このような住民の本格的なニーズ調査、実態調査が各市町村で行われたのである。これは、かなりの市町村でコンサルタントだのみの形式的調査に堕したようにも観測されたが、熱心な担当者のいる多くの市町村では大きな成果を上げることができ、その後の福祉施策の展開の基盤をつくったともいえる。

 

(4) ゴールドプランから新ゴールドプラン、ゴールドプラン21

 福祉8法改正に向けた作業が進行中の1989年12月、政府は「高齢者保健福祉推進十ヶ年戦略を、大蔵大臣、厚生大臣、自治大臣の合意によって策定した。この「ゴールドプラン」は、1990年からの10ヵ年で、ホームヘルパーを10万人に、特別養護老人ホームのベッド数を24万床に、在宅介護支援センターを1万ヶ所などの数値目標を掲げた。

その後、地方老人保健福祉計画が策定されたため、その結果を市町村から積み上げた結果、1994年12月に見直しが行われた。これが「新ゴールドプラン」で、同じく三大臣合意によって策定されたものである。この新計画では、ゴールドプランと同じ2001年度末の目標値としてホームヘルパーが17万人、ショートステイが5万床から6万床に、デイサービスが1万ヶ所から1.7万ヶ所へ、老人訪問看護ステーションが5000ヶ所、特別養護老人ホームが29万床、などと引き上げられている。

 2001年にこの新ゴールドプランが終了したが、介護保険制度の開始とともに、そのサービス提供基盤の整備という性格を見直しつつ、引き続きサービス供給基礎の整備の見通しを示す必要から、2001年11月に「ゴールドプラン21」が策定された。「ゴールドプラン」および「新ゴールドプラン」は、毎年度の予算要求の基礎的な数値として活用され、主な目標値は達成されてその役割を果たしたといえる。「ゴールドプラン21」では、介護保険制度の導入によってサービス供給主体が多様化し、市場化の流れが形成されてきたため、目標というより経済見通しのような性格に変化している。

 数値的には、2004年までに、ホームヘルパーが35万人に、訪問看護ステーションが9900ヶ所に、デイサービスが2万6千ヶ所、ショートステイが9万6千人分、特別養護老人ホームが36万人分、グループホーム(新しく加えられた)が3200ヶ所、などと見通しが示されている。

 これらのプランによって、市町村における高齢者福祉と保健の施設整備は相当進んできている。療養型病床群、老人保健施設のような医療系統の施設整備とともに、各市町村とも、地域福祉の拠点としての施設がかなり整備され、さらに充実を図るという段階に来ているように思われる。しかし、高齢化はこれからが本番である。特に1947年生まれを先頭とする、「団塊の世代」が後期高齢者に到達する2022年以降にさらに大きな社会的負担が予想されている。そういった観点からも、次の時代に向けた市町村の機能や役割が改めて検討される必要がある。

 

(5) エンゼルプランと市町村

 このゴールドプランと地方老人保健福祉計画とのセットでの高齢者福祉施策の展開という方法は、他の福祉領域でも引き継がれ、国の施策と都道府県、市町村の計画化というかたちをとるようになる。

 1994年12月には、「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について(エンゼルプラン)」が、文部省・厚生省・労働省・建設省の合意によって策定された。ゴールドプラント異なるところは、大蔵省が入っていない点であるが、少子化対策として政府が省の連携によって施策体系を曲がりなりにも示したことに意義がある。少子化対策すなわち子育て支援の基本的方向として次の柱が掲げられている。

@子育てと仕事の両立支援の推進

A家庭における子育て支援

B子育てのための住宅及び生活環境の整備

Cゆとりある教育の実現と健全育成の推進

D子育てコストの軽減

 このプランでは、最後に「地方自治体における取り組み」として、「都道府県及び市町村において、国の方針に対応し、計画的な子育て支援施策の推進を図るなど地域の特性に応じた施策を推進するための基盤整備を進める。」としている。子育て支援政策では、地方分権化の政策目標は、高齢者や障害者施策に比較して、明確ではない。それでも「地域の特性に応じた政策」を推進するという方向は示されている。

 同じく1994年の12月には、翌年度予算の編成に向けて、大蔵・厚生・自治の三大臣合意が「当面の緊急保育対策等を推進するための基本的考え方」とうかたちで行われた。緊急対策の主な内容は、以下の通りである。

@低年齢児(0〜2歳児)保育、延長保育、一時的保育の拡充等ニーズの高い保育サービスの整備を図るとともに、保育所制度の改善・見直しを含めた保育システムの多様化・弾力化を進める。

A保育所が乳児保育、相談指導等多様なニーズに対応できるよう施設・設備の改善・整備を図る。

B対年齢児の受け入れの促進及び開所時間延長の促進のため保育所の人的な充実を図ると共に乳児や第3子以上の多子世帯等の保育量の軽減を図る。

C核家族化の進行に伴い、育児の孤立感や不安感を招くことにならないよう地域子育てネットワークづくりを推進する。

 この4番目の子育て支援ネットワークは、保育所の施設とスタッフを活用した「地域子育て支援センター」というかたちで広がってきている。

 この国の「エンゼルプラン」を受けて、市町村においては「子ども福祉、育成計画」が策定されている。これはそれぞれの市町村で工夫され、それなりに市民参加、住民参加も計られているといってよい。中にはコンサルタントに依存し過ぎた計画で、実現性や市町村の能力の形成にマイナスになりかねないものあるという問題をもっている。しかし、子どもを生んで育てることを、部局の垣根を越えて支援すること、ネットワークを形成する基盤を作ることに、市町村が計画的に取り組む機会となったことも事実である。

 

(6) 障害者プランと市町村

 障害者福祉の領域では、ゴールドプランから2年、エンゼルプランから1年遅れて、1995年12月に、「障害者プラン〜ノーマライゼイション7ヵ年戦略〜」が、障害者対策推進本部決定として策定された。障害者対策推進本部は、関係19省庁で構成され、本部長は内閣総理大臣である。この名称は変更されるべきであるが、国の関連施策を統合するものとしてはもっとも徹底している。この障害者プランの策定によって、国レベルでの計画的な福祉施策はで揃ったことになる。

 障害者プランの基本的考え方は、次の通りである。

「国においては、ライフステージの全ての段階において全人間的復権を目指すリハビリテーションの理念と、障害者が障害のない者と同等に生活し、活動する社会を目指すノーマライゼイションの理念の下、『障害者対策に関する新長期計画』を策定し、その推進に努めているところであるが、この理念を踏まえつつ、次の7つの視点から施策の重点的推進を図る。

@地域で共に生活するために

A社会的自立を促進するために

Bバリアフリー化を促進するために

C生活の質(QOL)の向上を目指して

D安全な暮らしを確保するために

Eこころのバリアを取り除くために

F我が国ふさわしい国際協力・国際交流を」

 この障害者プランに対応して、市町村と都道府県に障害者福祉計画の策定と実施が求められることとなった。「地方公共団体への支援」として、「市町村の施策の実施に当って、障害者等の意見を適切に反映するため、市町村の自主性、主体性を尊重しつつ、市町村障害者計画の策定と障害者及び障害者福祉事業に従事するメンバーを含む市町村の障害者施策推進協議会等の設置等を推進する。」としている。

 この障害者プランによって、市町村での「障害者福祉計画」策定とそれに基づく政策の実施が、これ以後進展していくこととなった。この計画策定過程を通じて障害者福祉政策の主体としての市町村という受け皿がようやく定着する可能性が開けてきたとも言える。

 

(7) 介護保険と市町村

 介護保険制度は、それまで家族の介護と医療機関に任されていた高齢者の長期的なケアを、社会的な連帯と負担において、本来の人間的なケアの確立によって支えること、さらに要介護状態になることを予防することを目指して創設された。

 1989年に中長期的課題として介護保険制度を取り上げた介護対策検討会報告書から、新介護システムを提言した1994年3月の高齢社会福祉ビジョン懇談会『21世紀福祉ビジョン』を経て、1995年7月には社会保障制度審議会勧告『社会保障体制の再構築』に至る。そして1996年4月の老人保健福祉審議会の最終報告『高齢者介護保険制度の創設について』によって制度の基本設計が出来た。

 その後、市町村等との合意形成を図りながら1996年11月に介護保険法案が国会に上程され、1年以上の審議を経て、衆議院および参議院の修正、与党からの見直し論などの洗礼を受けながら、1997年の12月に成立した。そして2000年の4月1日から施行されたのである。

 この介護保険制度の特色は、第一に、その徹底した市町村を中心とした分権的性格にある。第二は、旧来の行政処分と措置の公的供給の原則を、市場の供給力に委ね、それを社会的にコントロールする、規制するという原則に転換することを目指す。すなわちこのふたつの原則で制度設計が構成されているところに歴史的な特色をもっているのである。

 介護保険制度は、保険者を市町村としている。つまり、介護保険の経営主体は、市町村となっている。これには有力な反論があって、少なくも都道府県単位でないと保険として成立しない、もたないという有力な意見がある。これに対して市町村を保険者にしたのは、要介護高齢者とその家族を地域でもっともよく見ている、あるいは見ることが出来るのは市町村であって都道府県ではないからである。そして、現物サービスの給付の状況を具体的に把握できるのが市町村だからである。このように地域状況を把握できる市町村が、第1号被保険者(65歳以上)の保険料を、具体的なニーズの測定した上で決定できる。そして介護予防政策の強力な展開によって、市町村の介護費用全体を引き下げるインセンティブが働くことも市町村単位のほうがより可能だからである。

 保険者としての市町村の権限と事務は以下の通りと定められている。

@被保険者の資格管理 

・被保険者の資格管理、・被保険者台帳の作成と管理、

   ・被保険者証の発行と更新 ・住所地特例の管理

A要介護認定・要支援認定に関すること

   ・要介護、要支援認定

   ・介護認定審査会の設置と運営

B保険給付に関する事務

   ・介護サービス計画作成を依頼する旨の届け出の受理

   ・償還払い

   ・支給限度基準額の上乗せ等

   ・現物給付の審査・支払

   ・一部負担金の減免等

   ・居宅介護福祉用具購入費・住宅改修費の支給 など

C保険福祉事業に関する事務

D市町村介護保険時魚計画の策定

E保険料の徴収

   ・第1号被保険者保険料の料率の決定

   ・普通徴収、特別徴収

   ・保険料の減免

   ・督促・滞納処分

F条例の制定

G特別会計の設置等

   ・予算・決算・収支・支出にかかわる事務

   ・国庫負担金、府県負担金、調整交付金等の申請

   ・支払基金の交付金申請

・市町村一般会計からの繰出し、繰り入れ

   ・積立金の設置、管理

H国保保険者、生活保護の事務、広報 など

 

 この中でも、介護保険事業計画の策定および第1号被保険者保険料率の決定の仕事が中心的な事務であり、また要介護認定のための一連の事務(認定申請の受理、訪問調査、介護認定審査会の設置と運営、要介護認定とその通知など)が基礎的な仕事である。

 さらに、法的には定められていないが、介護保険制度を制度本来の目的に沿って運営していくために以下のような仕事は不可欠である。

@ケマネージャーなど専門職の資質向上のための研究、研修

Aケアプランの検討と改善の指導

B地域ケア会議の設置と運営、会議の結果の政策化

C介護サービスの評価システムの構築と運用(施設および在宅)

    ・介護相談員の設置と運営 ・福祉オンブズマンの設置、・市民等による第三者評価委員会の設置と運営

D利用者の権利擁護システムの構築と改良

    ・処遇困難ケースと地域的、広域的援助システムの構築と維持

    ・成年後見制度の活用と法律家、カウンセラーなどとの協働

E新しいケアシステムの研究と政策化

    ・新特養システム(全室個室化とユニットケア)

    ・音楽療法など

    ・既存団地のコーポティ部住宅としての建て替え支援

    ・デイケアの改良と、宅老所の設置支援

 

 このような介護保険制度の運営が始まって、その波及効果はいくつかの点で市町村行政に顕著になってきている。

 第一には、情報公開と住民参加、当事者参加の拡大である。まず、介護保険事業計画に「公募委員」が参加することはごく普通になってきた。このためその後の地域福祉計画でもごく当たり前に「公募委員」が入っている。情報公開では、委員会の傍聴、議事録の作成と公開(インターネットでも)、パブリック・コメントも広く行われるようなり、他の計画(総合計画や環境計画など)でも同じスタイルがていちゃくしつつある。

 第二は、介護保険事務は自治事務(法定の義務的自治事務)であるという意識が浸透し、厚生労働省や府県の指示まちという状態を脱しつつある。

 第三には、「調査なくして政策なし」という政策形成過程のサイクルの最初の段階が、市町村で展開し始めている。すなわち高齢者や障害者、そしてその家族、一般の住民等の意識調査や意向調査、さらには個別の地域座談会やワークショップなどによるニーズの発見とその構造化が身につき始めているといえる。

 市町村において「プラン・ドウ・シー」から「プラン・ドウ・チェック・アクション」という政策循環のイノベーションが意識的に実行される、その突破口が高齢者保険福祉計画と介護保険事業計画で開かれたとも言える。

 

(8) 社会福祉法と市町村

    市町村地域福祉計画の策定、支援費支給制度の実施

 2000年6月には、従来の社会福祉事業法が改正されて、社会福祉法と名称を改めている。この改正においては、まず、その第1条(目的)で、この法律は「社会福祉を目的とする他の法律と相まって、福祉サービスの利用者の利益の擁護及び地域における社会福祉(以下「地域福祉」という)の推進を図る」と改正の主眼点が占めされている。

続いて第4条で(地域福祉の推進)として、「地域住民、社会福祉を目的とする事業を経営する者及び社会福祉に関する活動を行う者は、相互に協力し、福祉サービスを必要とする地域住民が地域社会を構成する一員として日常生活を営み、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えら得るように、地域福祉の推進に努めなければならない。」と規定している。

 さらに第6条(福祉サービスの提供体制の確保等に関する国及び地方公共団体の責務)において、国、社会福祉を目的とする事業の経営者と協力して、「社会福祉を目的とする事業の広範かつ計画的な実施が図られるよう」、必要な措置をとるよう求められている。

そして、第10章に第1節「地域福祉計画」が新たに設けられ、「市町村は、地方自治法第2条第4項の基本構想に即し、地域福祉の推進に関する事項として次に掲げる事項を一体的に定める計画(以下「市町村地域福祉計画」という)を策定する」ことと規定された。

 また、2003年4月から、従来の措置費制度を改めて、利用者が自らサービスを購入する仕組みとして、支援費支給制度への転換が行われるが、この支援費制度は市町村が実施主体となっている。

 支援費支給制度とは、障害者(児)福祉、知的障害者福祉のサービス(療護施設、更生施設、授産施設、居宅介護事業、デイサービス、ショートステイ、通勤寮、グループホームなど)を利用する者は、市町村に支援費支給の申請を行う。市町村は支給が適切と認めるときは、支給決定を行う。利用者は、都道府県の指定を受けた事業者との契約によりサービスを利用する、という制度である。

 これはこれまでの措置制度が、行政によってサービス内容や施設の決定を行っていたあり方を、障害者の自己決定を尊重し、利用者本位のサービス利用を実現出来る仕組みに変えることを目指し組み立てられている。これは事業者にも転換を要求することとなる。行政の下請け機関から、サービス提供の主体として、利用者の選択に耐えられるように、そのサービスの質の向上と維持を図ることが求められるからである。

 

終わりに これからの市町村

 90年の福祉8法改正、分権一括法の施行、介護保険制度の始動、社会福祉法とそれに伴う個々の事業法の改正により、市町村は基本的には「社会福祉の実施主体」として明確に位置付けられている。市町村は「高齢者保健福祉計画」、「エンゼルプラン」、「障害者基本計画」、「介護保険事業計画」という諸福祉・保健計画と、それを総合した「地域福祉計画」の策定と実施の主体としてより積極的な役割を担うことが、地域住民からも、あるいはそれを超えて広く国民的に、そして国際的にも期待されている。

 そのためには、従来の縦割りの機構では十分な政策展開は難しくなっており、保健・医療・福祉の総合的な政策展開と、都市計画事業部局や教育委員会、消防・警察などとの全部局の統一した政策形成と実施が求められている。また、精神障害者福祉の在宅サービスの提供と生活支援事業が、大きく市町村の肩にかかってくることも合わせて、市町村としての高度な専門性の確保とその地域への還元、広域的な協力と連携が求められているのである。そして、個々の利用者を地域で支える地方自治体として、国や都道府県の諸権能や諸サービスをコーディメートし、各福祉施設との連携を図るキーステーションとして、あるいはプラットフォームとして自らを形成することが期待されてもいるのである。

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