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地域福祉と自治体行政

澤井勝(大森弥編著『地域福祉と自治体行政』ぎょうせい:所収草稿、2002年8月)


目次  1,新地方自治時代の自治体のあり方
(1)地方分権改革と福祉行政 (2)地方分権一括法 (3)なぜ地方分権か 
(4)新地方自治法と国・自治体の関係 ア、「地域の事務」と委任概念の廃止 イ、「自治事務」と「法定受託事務」 ウ、厚生労働省関連の法定受託事務 エ、条例による規制 
(5)国・県による関与の法定主義と指導概念の廃止 ア、自治法第245条の2 イ、通知の意味を読む 
(6)関与の類型 ア、基本原則 イ、関与の類型、助言又は勧告など
(7)国と地方の紛争処理委員会と争訟
おわりに


1 地方自治新時代の自治体のあり方

 

ポイント

1、 地域福祉の主たる担い手である市町村は、2000年4月以降大きな変化を経験している。それは、地方分権改革一括法の施行によって、「機関委任事務制度」が廃止され、国と都道府県、国と市町村の関係が、「対等・平等」な関係に再編成されことである。同様に、都道府県と市町村の関係も「対等・平等」な関係に再構成されている。

2、地方自治体の事務は、自治事務と法定受託事務とに位置付けなおされた、これらの事務は、「地方自治体が責任をもって実施する事務」という意味では同じであり、国の関与のあり方と程度が異なる。従来の通達はその意義を失っている。

3、国の関与は全て「一般法」(新自治法)に規定された範囲に留まる。この法定の関与には、「指導」という関与は廃止されている。福祉関係の仕事にあっても、国と都道府県、国と市町村、都道府県と市町村は、相互にその自立性と主体性を尊重しながら、協力し合って、地域福祉を推進することが求められる。

 

 

(1) 地方分権改革と福祉行政

地域福祉を考えるとき、その基本的な担い手であるわが国の地方自治体が、20世紀の終わりから21世紀の初めにかけて大きな変動を経験してきたことを明確にとらえ、その意義について十分に把握しておく必要がある。

それは、自治体行政のあり方をある意味では根本的に転換するような改革であった。すなわち1999年7月8日に成立し、同月16日に公布され、翌年2000年4月1日に施行された地方分権一括法による改革である。

 地方分権改革については、これに先立って主に内閣総理大臣の諮問機関である地方制度調査会を中心とする機関等で種々議論されてきた。また「小さな政府論」という観点から第二次臨時行政調査会(1981年〜1983年)とその後の三次にわたる臨時行政改革推進審議会(行革審)においても議論されてきた。

その中心的な論点は、自治権の拡充という観点から、また中央集権システムの是正を求める観点から、国庫補助金制度の改革や通達行政のあり方など多岐にわたるが、なかんずく「機関委任事務制度のあり方とその改革」であった。

今回の改革は、この「機関委任事務制度」を廃止したところに最大の特徴があり、この制度の廃止によって、国による地方自治体に対する関与を最小限のものとし、不透明な「通達による指導」を基本的に不要にしたところに最大の意義がある。

 

このことは、これからの地域福祉を考える場合、決定的な意味を持っている。というのは、福祉にかかわる行政システムは、集権的であるという点では教育行政や農水行政などの並ぶような特質を持っていたからである。特に「局長通知」「課長通達」など省令や、それ以下の行政通達が、強く府県と市町村の福祉行政を拘束していたように観測される。

厚生行政の場合、1986年度の国庫補助負担金の国庫負担率引き下げにともなって、「機関委任事務の団体事務化」が行われた。この点は、機関委任事務制度廃止の先鞭をつけたといえないことも無い。しかし、団体事務化が団体委任事務化であった側面は否めず、強い監督権限を厚生大臣や、都道府県知事に留保するものであったため、厚生行政の集権制とパターナリズムは温存されたといってもよい。この集権的性格は、しかし、国の「下部機関としての府県」、「国と府県の下部機関としての市町村」というヒエラキーのもとで、これら府県や市町村からの「指導の要請」によっても、強く支えられていたのである。

こういった集権的な厚生行政が、この改革によって、少なくも法制度としては分権的に再構成されているのである。そして今回の地方分権改革は、市町村の現場が、そして都道府県の現場が、自ら考え、自ら実行する自治的、自立的な福祉サービスの供給主体に、そして地域の多様な福祉サービス供給主体と利用者をコーディ−ネートする、新しい主体に転換することを求めてもいるのである。

 

(2) 地方分権一括法

機関委任事務制度の廃止を実現した今回の地方分権改革は、1993年5月の衆参両院での「地方分権に関する決議」によって、国会の審議事項として政治過程に浮上した。その後、この地方分権改革を政府の中心課題として位置づけ、政府方針として確定したのが1994年12月の「地方分権大綱方針(閣議決定)」であった。この大綱方針に基づき、地方分権法」の準備が進められ、1995年5月に「地方分権推進法」(6年で失効する)が成立した。この法律は同年7月に施行され、7月3日に第一回の地方分権推進委員会が開催されている。

地方分権推進委員会は、諸井虔氏を委員長とする7人の委員で構成され、この委員会のもとにふたつの部会と事務局がおかれた。委員会は任期5年(後に一年延びて6年)であった。この委員会の審議の柱を機関委任事務制度の廃止とすることを鮮明にしたのが1995年12月22日の委員長見解「機関委任事務を廃止した場合の従前の機関委任事務の取り扱いについて(検討試案)」の公表であった。

もっともこの段階では、多くの人々にとって機関委任事務制度が廃止になるということには、半信半疑であったといってよい。それまでにも機関委任事務制度の廃止が何度も提言されてはいたが、いずれもそれ以上の効果は生じなかったからでもある。

その後地方分権推進委員会は、96年3月に「中間報告」を行った。この中間報告で、委員会として「機関委任事務制度の廃止」を明確にし、さらにその廃止後の分権型社会の創造を提起した。

 1996年12月に第一次勧告、1997年7月に基本答申となる第二次勧告、97年9月に第三次勧告、そして同年10月に第四次勧告となった。政府はこの勧告を受けて、分権推進計画を1998年6月に策定し、立法過程に入る。このようにして1998年一月の通常国会に「地方分権一括法」が提案され、若干の修正を行って、前記のように1998年7月8日に成立し、2000年4月1日施行された。この分権一括法は、475本の法律の改正を一括して改正しようとするものであった。

 旧厚生省の所管する法律のうち、この分権一括法の本則で改正されたのは、老人福祉法や健康保険法、児童福祉法、民生委員法、医師法、身体障害者福祉法、母子保健法、社会福祉事業法、生活保護法、児童手当法、知的障害者福祉法、介護保健法など94本、一括法附則におけるものが精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部改正、など4本となっている。

 

(3)なぜ地方分権改革か

 では、なぜこの時期に地方分権改革なのであろう。そのねらい等を、機関委任事務制度の廃止を明確に掲げた96年3月の「中間報告」を中心に見ておきたい。この「中間報告」では、分権改革のバックグラウンドについて次のように述べている。

 地方分権改革を必須とする理由は基本的には、中央集権型行政システムの制度疲労である。わが国の中央集権型の行政システム(機関委任事務制度と国庫補助金制度)は、その近代化と経済発展に寄与したことは一方の事実であろう。しかし、その弊害もある。すなわち、「国民国家の統一のために地域社会の自立を制約し、国民経済の発展のために地域経済の存立基盤を掘り崩す。権限・財源・人間、そして情報を中央に過度に集中させ、地方の資源を収奪し、その活力を奪う。全国画一の統一性と公平性を重視するあまりに、地域的諸条件の多様性を軽視し、地域ごとの個性ある生活文化を衰微させる。」(「中間報告」第一章)。

 この弊害は、わが国の政治・行政を取り巻く国際・国内の環境の急激な変化に対応することを困難にしている。その環境変化とは次の点である。

 第一には、冷戦構造が解体した条件で、国の各省庁が国内事情にかまけているために、激変する国際情勢に、十分に迅速かつ的確に対応することに失敗しているのではないか。国の各省庁を国内問題に対する濃密な関与から解放して、その役割を純化し、強化するべきである。

 第二には、東京一極集中の是正である。このゆがみを是正するためにも、地方分権によって「多極分散型の国土形成」を実効あるものにする必要がある。

 第三には、個性豊かな地域社会の形成である。その認識として、「この間に多くの行政分野でナショナル・ミニマムの目標水準を達成し」たとしている。その上でナショナル・ミニマムを超える行政サービスは、地域住民のニーズを反映した地域住民の自主的な選択に委ねるべきものとしている(このことは最近はローカル・オプティマムというようだが、これは京極高宣氏が地方老人保健福祉計画に関連して述べている)。

 第四には、高齢社会・少子社会への対応である。「わが国では今日、他国に類例をみない

急激なテンポで高齢化が進み、その反面では少子化が進んでいる。そこでこの人口構成の急激な変動に対応する各種サービスの供給体系の構築が急務になってきており、高齢者に向けては保健・医療・福祉及び生涯学習関連のサービス相互の緊密な連携が、幼児児童に向けては保育・教育関連のサービスの再編成が要請されている。」

 

 これらの環境変化に対応するために、機関委任事務制度を廃止し、地域住民の自己決定・自己責任の体制を構築する必要があるとしたのである。

 

(4)新地方自治法と国・自治体の関係

 今回の地方自治制度の改正は、先にも述べてきたように、「国と地方との上下・主従関係」を「対等・平等の関係、あるいは対等・協力の関係」に変えるための制度改正であり、機関委任事務制度の廃止であった。この「対等・平等の関係」を確立するための一般法としての法的な根拠は、改正地方自治法である。改正後の新地方自治法は、一方で機関委任事務制度廃止のための地方自治法の中にある条文を改正すると共に(同時に対応する国家行政組織法も改正)、新しく章をたて、あるいは新しい条文を追加している。それは機関委任事務制度を廃止したのちの自治体の事務の再構成と、国による関与の法定化に関わるものである。

 

(ア)、「地域の事務」と団体委任を含む委任概念の廃止

 機関委任事務制度を廃止した後の地方自治体が担う事務について、新地方自治法の第1条の2を設けている。

すなわち、同条第1項で「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ること基本として、地域おける行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。」と規定した。

この「地域の行政」とは、「憲法に定める地域的な統治団体として国家作用のうち立法、司法以外のいわゆる形式的意味における行政のうち、地域的な性格を有する行政を担う主体であることを表している。」(松本英昭『新地方自治制度詳解』ぎょうせい、平成12年4月、85頁。以下『詳解』と略記)。この条文で、地方公共団体が地域的な統治団体として、行政の主体として、位置付けられた。

また第2項において、国は本来果たすべき役割を重点的に担うこととし、「住民に身近な行政は出来る限り地方公共団体に委ねることを基本」とするとも定めている。

 その上で、第2条第2項では、「普通地方公共団体は、地域における事務およびその他の事務で法律またはこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する。」と定めている。

 「地域における事務」とは、普通地方公共団体の事務・権能を規定するもので、普通地歩公共団体は事務執行と権能を地域において広く担う主体として位置付けられた。旧法における普通地方公共団体の事務、すなわち「その公共事務及び法律又はこれに基づく政令により普通地方公共団体に属するものの外、その区域内におけるその他の行政事務で国の事務に属さない事務を処理する」とされ、いわゆる固有事務、団体委任事務、行政事務という三種類の事務があるとされていたのに対し、この規定を廃止し、「地域における事務」としたものである。

 つまりこの「地域における事務」とは、後述の「自治事務」、「法定受託事務」を含む地方公共団体の事務全般のことを指している。重要なことは、「委任概念の廃止」ということである。団体委任という考え方も、機関委任という考え方を廃止するともに廃止されていることに注意してもらいたい。

そして「自治事務」と「法定受託事務」は、後述するように、地方自治体の事務であることには変わりはなく、ただ国の関与の程度等に差異があるに過ぎない。

 もうひとつ、「法律又はこれに基づく政令により処理することとされる事務」とは、「地域における事務」とは言えない事務であっても国家機構のひとつとして普通地方公共団体が処理する場合があることを想定した規定である。その場合には、「法律」または「法律に基づく政令(各閣僚が署名した内閣の命令)」によらなければならないことを規定している。すなわち、大臣の命令である「省令」以下の行政命令によって、普通地方公共団体に事務処理を命ずることはできない。もちろん、「省告示」、「事務次官通知」や「局長通達」、「課長通知」など「通達」で事務処理を命じたり、「指導」したりはできない、という意味である。

 

(イ)、「自治事務」と「法定受託事務」

 機関委任事務制度の廃止と「地域の行政」、「地域における事務」という新しい地方自治体の事務の概念の成立によって、従来の事務は、「自治事務」と「法定受託事務」とに区分されることとなった。「自治事務」とは、特別な歴史的な沿革や、性質・背景を持つ「法定受託事務」以外の全ての事務である。「法定受託事務」は、「国(都道府県)が本来果たすべき役割に係わるものであって、国(都道府県)においてその適正な処理を特に確保する必要があるもの」として「法律又はこれに基づく政令により」特に定める事務である。

 

 @ 「自治事務」 自治法2条8項は、「この法律において『自治事務』とは、地方公共団体が処理する事務のうち、法定受託事務以外のものを言う。」と、包括的に定めている。従って、従来の地方自治体の担ってきた事務のうち、固有事務、いわゆる団体委任事務、行政事務などと、機関委任事務のうち法定受託事務とされなかったものも自治事務となる。

また、「法律又はこれに基づく政令により」自治体が処理することとされた事務の外、自治体の「条例」や「規則」(要綱なども含む)によって、自主的・自発的に処理されている事務も当然含まれる。

 福祉行政の領域では、例えば「介護保険法に基づく介護保険制度の確立と運用」という仕事は、「法定受託事務」ではありえないので、当然「自治事務」である。その他、老人福祉、児童福祉、障害者福祉もその基本的な部分は「自治事務」である。この領域での「法定受託事務」は、生活保護に係る給付事務など、ごく一部である。

 なお、「自治事務」であるからといって、地方自治体が全く自由な裁量で実施できるものではなく、国の関与を一切許さないというものでもない。その裁量の範囲や、国の関与の態様や程度は、「法律又はこれに基づく政令」の定めや、後掲の「関与の基本原則」との関係によって個別に定まるものである。

 

 A「法定受託事務」

  1) 第1号法定受託事務 自治法2条9項は、「この法律において『法定受託事務』とは、次に掲げる事務を言う。」とした上で、一号として、「法律又はこれに基づく政令により都道府県、市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係わるものであって、国に於いてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めがあるもの。」とする。これを第1号法定受託事務という。

 個々の具体的な「法定受託事務」は、地方自治法に定めがあるものは自治法320条に掲げられている。その他個別法によるものは、自治法別表第一に全て掲げられている。

  2) 第2号法定受託事務 都道府県にかかる市町村が担うこととされている「法定受託事務」は、自治法2条9条の二号として定められている。

 

 法定受託事務は、「同じ地方公共団体の事務でも『自治事務』より国がその適正な処理について相対的に高い関心と責任とを有する」(『詳解106頁』)ことを、より明確にするべき事務であり、関与の程度と態様を「自治事務」とやや違えているに過ぎない。

 「法定受託事務」も、法律又はこれに基づく政令により都道府県、市町村が処理することが定められている事務であるから、その処理は「自治事務」と同様に地方自治体の責任において行われる。

 なお、法定受託事務について、地方自治法あるいはその別表(第一が国の、第二が都道府県の)に掲げることとなっていることの意味である。分権改革の趣旨は、法定受託事務の拡大を抑制し、これからの事務も出来る限り「自治事務」とすべきものとするところにある。そのため、これから個別法の改正により「法定受託事務」を追加しようとするときは、地方自治法の改正、すなわち別表の改正が必要であり、それに伴う検討(「法定受託事務」とするかどうか)が慎重に行われる仕組みとなっている。

 

(ウ)厚生労働省関係の「法定受託事務」の事例

 02年4月における『地方自治法』による、厚生労働省関係の「第一号法定受託事務」として掲げられている事務の一部を掲げておこう。生活保護法のように事務と権限の本体部分が「法定受託事務」となっているのは例外で、事業者の許認可手続きや、報告の経由事務、費用負担の事務などが目立つ。

 @ 職業安定法11条1項(求人求職情報の取次ぎ)で市町村が処理する事務。

A 食品衛生法14条1項、17条1項、19条2項、22条、27条により都道府県が処理する事務、17条1項、28条1項の規定で保健所を設置する市が処理する事務(保健所長の事務に限る。)。

B 精神保健及び精神障害者に関する法律29条の7(診療報酬支払の委託等の事務)、30条1項(都道府県の費用負担)、31条(都道府県の費用徴収)、第5章第4節(通院医療の都道府県負担と手続き)、33条4第1項と3項(都道府県による基準適合病院の指定と解除)。この法律で保健所を設置する市町村(保健所長係わるもの)処理するものとされている事務、例えば33条4項精神病院管理者の届出の経由事務。21条により市町村が処理する事務(保護者がないとき市町村長が保護者となる)。

C 生活保護法19条の1項から5項まで(保護の決定と実施)、24条1項(申請による保護の開始及び変更)、25条1項、2項(職権による保護の開始及び変更)、26条(保護の廃止)、27条1項(被保護者への指導、指示)、28条1項、4項(立ち入り調査)、29条(調査の嘱託)、30条から37条まで(生活扶助、教育扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助)、47条1項(保護施設への委託)、48条4項(保護施設の長からの届け出の受理)、53条4項(診療報酬支払の支払基金等への委託)、など。

D その他、社会福祉事業法(社会福祉法人からの申請等の受理等の手続き規定)、家畜伝染病予防法、結核予防法、麻薬及び向精神薬取締法、と畜場法、薬事法、医師法など。

 

(エ)条例による規制

 「自治事務」は当然のことだが、地方自治体の議会が定める条例によってコントロールすることが出来るし、むしろ人々の権利を創設し、あるいはそれを制限したり、負担を課したりする場合には、条例の定めが不可欠だと考えたい(新自治法14条2項「普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない」)。

「法定受託事務」については、それが地方自治体の事務である以上、これも当然ながら条例による規制をすることが可能である。このことを次のように言う。「このように従前の(旧自治法の)14条1項を維持した結果、『自治事務』であっても、『法定受託事務』であっても『法令に違反しない限りにおいて』条例を制定することができることとなった。」(『詳解』136頁)。

 

(5)国(都道府県)の関与の法定主義

(ア)、自治法245条の2

今回の機関委任事務制度の廃止と国の地方自治体に対する「包括的指揮監督権の廃止」によって、地方自治体が行う事務は、「自治事務」か「法定受託事務」となり、地方自治体が担う事務は、「全て地方自治体が責任をもって実施する事務」となった。そのため、このような国と都道府県、国と市町村、都道府県と市町村との間の「対等・平等」、「対等・協力」な関係という新しいかたちをつくる、国や都道府県の市町村へ関与のあり方、関与のルールを法定することが求められた。

 今回の改正では、旧自治法の第11章を改正し、その1節として「普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与等」、第2節に「国と普通地方公共団体との間及び普通地方公共団体相互間及び普通地方公共団体の機関相互間の紛争処理」を新設した。

 そして、自治法245条の2では、「普通地方公共団体は、その事務の処理に関し、法律又はこれに基づく政令によらなければ、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与を受け、又は要することとされることはない。」と規定した。これが「関与の法定主義」である。ここにいう「関与」には、許認可や指示など処分や公権力の行使にあたるといわれる関与ばかりではなく、助言や勧告、資料提出要求などの非権力的関与と呼ばれるものも含まれる。

 このことによって国が新たに地方自治体の遂行する事務について関与する場合には、必ず、法律又はこれに基づく政令に根拠を持つことを要求している。

 ところで、その具体的な適用形態だが、「国が一定の行政目的を実現するために地方公共団体に具体的かつ個別的に係わる行為として行う、助言・勧告については、法律又はこれに基づく政令に根拠がなければできないものである。この場合、例えば自治法245条の4の規定の『技術的な助言又は勧告等』に該当すれば同規定を根拠として行うことができるものである。」(『詳解』168頁。)

 

 (イ)通知の意味を読む

これに関連して、以下のような事例を紹介しておきたい。

『介護保険の市町村(保険者)の指導について(通知)』の正しい読み方 

 厚生省は、都道府県知事宛に2000年の5月12日づけで老人保健福祉局長名の通知を出している。この通知はその内容において以下の観点から不適切であり、訂正されなければならないものである。そして各市町村は、この通知が、「指導」といっている行為が、実は「技術的助言」であり、「資料提出の求め」に過ぎないものであることを確認したうえで、対応すればよい。都道府県の担当者は、この「指導」が、市町村との間に上下関係をつくるものであってはならないことを行為規範として確認すべきである。その上でこの「通知」を利用するかどうか、主体的に判断することが求められる。

 この通知は、市町村の介護保険事業が適正かつ健全に運用されるように、「保険者事務に関する事項について周知徹底させること」を方針として、都道府県が「保険者を指導する」ために発せられたもののようだ。

 特に介護保険に関する事務処理は、厚生省自身の対応が遅れ、その上に変動が激しいために、大混乱のまま実施過程に突入することになったという事情もあって、なお未整備であるから、このような「指導」(介護保険法第5条)をせざるをえないということも理解できないことではない。しかし、それを、通知の形式も仰々しく、「指導体制」、「一般指導」、「合同指導」、「実施回数」、「指導の重点事項」、「講評」などとするのは過剰な関与で、分権改革に背馳する不適節な関与である。

 この厚生大臣と都道府県の市町村に対する「指導」の法的根拠は、本通知自身によれば、

介護保険法第5条と同法第197条、そして地方自治法第245条の4だとされる。介護保険法第5条は、国が「必要な各般の措置」をとる権限を定め、都道府県が「必要な指導及び適切な援助をしなければならない。」とする。第197条は、報告を求めることができる規定である。このふたつの規定だけを読めば、本通知のような従来型の指導を許容しているように読むことも可能である。

 しかし、もうひとつの根拠である地方自治法第245条の4は、「地域の事務」に関して、「各大臣又は都道府県知事その他の都道府県の執行機関は、その担任する事務に関し」、「技術的助言若しくは勧告」をすることができる旨、ならびに「資料の提出」求めることができる旨、定めた規定である。この「助言等」によっては、法律上の義務は生じない。

 したがって、次の規定が生きる。自治法第247条第3項、「国又は都道府県の職員は」、市町村などが「助言等に従わなかったことを理由として、不利益な取り扱いをしてはならない。」この場合の「助言等」には、なお個別法に残る「指導」などの規定を含む。

 本通知も、このように地方自治法上の根拠規定をかかげなければならず、「指導」の内実が「技術的助言」にとどまることを表明せざるを得ないのである。つまりこのような「通知」を読むためには、自治体の各係には新地方自治法を必ず備え、参照しなければならないのである。(地方自治総合研究所『自治総研』00年261号、巻頭コラム)。

 

(6) 関与の類型

 

 (ア)関与の基本原則

 自治法245条の3は、その第1項で、「国は」関与にあたって「その目的を達成するために必要な最小限度のものとするものとする」こと、及びその際にも、「普通地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならない」と規定している。この国には国会も含まれ、立法に当っての原則ともなっている。

 同条2項では、「自治事務」については、出来る限り代執行及び245条3号の基本類型以外の関与を、「法定受託事務」についても基本類型以外の関与を避けるよう規定する。

 

 (イ)関与の類型

 自治法245条は、「関与の意義」として、「国の行政機関が行う次に掲げる行為をいう。」とする。

 1 普通地方公共団体に対する次に関する行為

  イ 助言又は勧告

  ロ 資料の提出の要求

  ハ 是正の要求

  ニ 同意

  ホ 許可、認可又は承認

  へ、指示

  ト、代執行

 2 普通地方公共団体との協議

 3 一定の行政目的を実現するため普通地方公共団体に対して具体的かつ個別的に係わ

る行為

 

 以上の規定から、「自治事務」については「助言又は勧告」「資料の提出の要求」「是正の要求」「協議」が原則的な関与の基本類型だとされている。

 「法定受託事務」については、以上の外、「許可、認可又は承認」「指示」「代執行」の関

与が類型として認められている。

 ごく例外的に自治事務についても、「許可、認可又は承認」を法的に認める場合が想定されるため、自治法245条の3第3項が、同じく「自治事務」に対する「指示」を認める場合は、同条第6項が規定されている。

 これらの基本規定のうち一定のものについては、地方自治法に一般的規定をおいており、それを根拠規定に運用することは先述の通りである。

 すなわち、「技術的な助言及び勧告並びに資料提供の要求」については自治法245条の4、「是正の要求」については自治法245条の5、「是正の勧告」については自治法245条の6、「是正の指示」については自治法245条の7、「代執行等」については自治法245条の8、が規定されている。

 これらの基本規定以外の関与は、原則的には認められないわけである。特別な事例でまったくやむを得ず必要な場合は新たな立法(政令も含めて)を行う必要があると考えられるのである。

 なおこれら関与の主体は、「各大臣はその担任する事務に関し」としている。この場合の「各大臣」は、旧自治法の「主務大臣」を改正したものである。その意義は次のように述べられている。

「一般的に、ある事項に属する行政事務の遂行について権限を持つ大臣を、その立場において抽象的に「主務大臣」ということとされる。

国と地方公共団体との関係において「主務大臣」という表現を用いると、地方公共団体の事務の遂行についても各省の大臣が権限を有し、その分担管理に属するかのような誤解を生ぜしめるおそれがある。そういう意味で、「主務大臣」という用語は、機関委任事務制度を想起させる表現と考えられるため、国と地方公共団体との新しい関係を規定しようとする今回の自治法の改正においては、「主務大臣」という用語に代えて、内閣法及び国家行政組織法の表現と同じく「各大臣」という用語を用いることとしたものである。」(『詳解』180頁〜181頁。)

 

(7) 国と地方の紛争処理機関と争訟

 

 国と地方公共団体との間で、国による関与に関する争いが生じたとき、まず行政内部でのこの争いを処理するために、公平・中立な第三者機関として「国地方紛争処理委員会」が設けられた。自治法250条の7〜250条の12までの規定がそれである。なぜこのような機関が必要かといえば、国と地方自治体は対等であって、上下の指揮監督関係にはない。したがって関与等について双方の考え方に食い違いがあって決着がつかない場合、第三者機関としての紛争処理委員会に判断を求める方法をとらざるを得ないのである。この委員会は5人の委員を持って構成され、この委員は優れた識見を有する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する。任期は3年であり、そのうち2名は常勤とすることができる。

 その手続きは、国が地方自治体に関与を行ったとき、その関与に関して地方自治体に不服がある場合には、当該地方自治体は国地方紛争処理委員会に対し審査の申し出を行うことができる。その審査の結果、国の関与が違法であるとき等には、関与を行った国の行政庁に対して必要な措置を講ずべき旨の勧告を行う。勧告がなされた場合、国の行政庁は必要な措置を講じなければならない。

 当該地方自治体は、委員会の審査の結果や国の行政庁のとった措置に不服がある場合には、高等裁判所に対して訴訟を提起することができる。

 

終わりに

 いずれにしても、今回の地方分権改革によって、国と地方自治体の関係が、そして、都道府県と市町村の関係が、法制度としては「上下・主従の関係」から、「対等・協力」「対等・平等」な関係となっていることを前提にこれからの福祉行政を現場から再構築していくことが求められているのである。特に、「指導」とか「委任」とか、あるいは「監督」という概念自体が国と地方自治体のあいだにおいて廃止されていることを前提にしなければならない。各行政主体間の関係は、「相談する」、「協力を求める」という関係が基本である。そして蛇足ながら、民間の活力を活用するなかで事業者等に対する「指導」が強く求められている一方で、柔軟な協力、協働関係の構築も求められていることも銘記しておきたい。

 

「参考文献」

1、松本英昭『新地方自治制度詳解』(ぎょうせい、2000年)

2、大森彌『地域福祉論』(放送大学学園、2002年)

3、澤井勝『分権改革と地方財政』(敬文堂、2000年)

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