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障害者自立支援の課題

      奈良女子大学名誉教授   澤井 勝 
      (初出:大阪生涯職業教育振興財団機関紙、06年1月)

豪雪と福祉コミュニティ

 新しい年、06年は12月から続く日本海側での豪雪で始まった。特に過疎地での記録的な積雪は、高齢者世帯の生活に重くのしかかっている。このことは新聞やテレビの報道でかなり詳しく報道され、災害救助法の発動や、陸上自衛隊の派遣など、具体的な動きが伝えられている。一方でこの雪は、障害を持つ人たちとその家族の生活をも直撃しているに違いないのだが、ほとんど表面には出てこない。ホームヘルパーの訪問や、通所施設への移動は困難を極めているものと想像される。障害者や要援護高齢者とその家族の生活を支えるための雪国特有の在宅生活支援のありかたが問われている。例えば、一昨年の中越地震のときに経験したように、在宅生活の維持が一時的に困難となった当事者が希望したとき、避難所としての特別養護老人ホームや老人保健施設、などの柔軟な活用が、積極的に位置付けられているだろうか。

 このような災害弱者を支える課題は、阪神淡路大震災を通じて大きな問題として取り上げられるようになってきたが、雪害の場合はどうなのだろうか。震災や火災、水害から障害者を守るために、日ごろからボランティアや専門職員、そして当事者との連絡や支援施策の確認などに取り組むようになった自治体も多い。障害者基本計画に書き込み、それを地域福祉計画の中に取り込む議論をしているところも少なくない。

 しかし、このような災害時の障害当事者支援は、極めて具体的でなければならないから、そこまで手が行き届いている例は少ない。その中で、京都市上京区の春日学区の地域ぐるみの取り組み(『月刊総合ケア』996月号が詳しい)は、NHKの『ご近所の底力』でも取り上げられているように、極めて実効性のあるものだ。この仕組みは、いわば「コミュニティの再生」なのである。障害者の生活支援とは、このような地域コミュニティの「福祉コミュニティ」としての再生がベースとならなければならない。この「福祉コミュニティ」の上に、様々な専門機関(都道府県や市町村の行政担当課、各相談・支援センター、社会福祉法人、NPO団体など)のネットワークが構築されることが望ましいのである。

 

障害者自立支援法の課題

 ところで、年末から新年にかけて二つの新聞記事が目にとまった。ひとつは、障害者自立支援法によって「地域の障害者支援が『難しくなる』」という日本弁護士連合会の調査である(朝日新聞06125日朝刊)。障害者の地域生活の相談・支援事業をしている生活支援センター(高齢者については基幹型在宅介護支援センター、障害者は各地域生活支援センターなど)2012ヶ所にアンケートを郵送し、1137の回答を得ている。障害者が地域で暮らすために、特に不足している支援策を聞いた(複数回答)ところ、第一には「所得保障」で41%、第二は住宅の確保で39%、第三には就労支援(38%)が多かった。これら、所得、住宅、就労という三要素は生活の基盤となる要素であり、これらが不足しているということは、地域での生活が成り立たないということを意味しているのである。

 また障害者自立支援法によって、どのような影響が出るかを聞いたところ、「地域生活への支援が難しくなる」が55%と過半数を超えた。難しくなるのは何故かを自由記述方式で聞いているが、やはり応益負担の導入が響くと見ている。すなわち「応益負担(1割の定率負担)による負担増やサービスの利用制限」が指摘されている。また「就労支援は期待できない」「身体・知的・精神(障害)の統合は前進だが、障害の特性に対応できるか、障害程度区分の導入も不安」も多かった。

 まお、高齢者の在宅生活を困難にしている原因では、「認知症への対応が困難」(87%)、「家族が施設・病院を希望する」(84%)が突出して多い。

「障害者自立支援法」は051031日に与党の賛成多数で成立し(野党は反対)、この4月から施行され利用者負担も導入されるが、新たな障害区分による支給決定に基づくサービスは101日から施行されることとなる。

 この障害者自立支援法のポイントは厚生労働省によれば次の5点となる。第一に、身体障害と知的障害、精神障害の3障害福祉の制度的な格差を解消して一つの制度に統合する。その上で都道府県と市町村に二元化されていた実施主体を、市町村に一元化する。都道府県は市町村をバックアップする。

 第二に、33種に分かれていた施設体系を6つの事業に再編する。それとともに、「地域生活支援」および「就労支援」のための事業やサービスを創設する。

 第三に新たな就労支援事業を創設し、雇用施策との連携を強める。

 第四に支給の必要度について、客観的な尺度、すなわち新たな「障害程度区分」を導入し、訪問調査、アセスメント、第一次判定そして審査会の意見聴取などによって支給決定を行うことによって、この過程を透明化、明確化する。

 第五には、国の費用負担についてその責任を明確化して、補助金から負担金(費用の2分の1)に位置付けを変える。そして利用者にも定率(費用の1割)の負担金を負担してもらい、みんなで支える仕組みとする。

 

当事者からの不安への対応

 このような新しい制度について、障害当事者から多くの不安な点や疑問点が提起されてきた。その最大の論点が、先の日弁連調査にもあるように、今まで受けてきたサービスが受けられなくなるのではないか、という不安である。その理由は多岐にわたるが、大きくは2点ある。ひとつはサービスの必要度が、行政によって決定されることになるが、それが適正に行われるか、という問題である。「障害程度区分」の審査決定が、本当に地域で生活しつづけたいという障害当事者のニーズを反映するものとして、機能するのだろうか。この不安に応えるために市町村や支援センター(社会福祉法人やNPOがその運営を受託している場合が多い)がとりくむべき課題は、サービスの必要度が適切に決定できるアセスメントや、ケアマネージメントの能力を持った専門家でもあるソーシャルワーカーを確保し育成できるかということになる。

もうひとつは、人によっては一ヶ月百万円を超える全身性障害者の介護費用に対して、一割の利用者負担を求められたら、障害年金では賄えず、利用できるサービス水準を切り下げざるを得なくなり、結局、これまで曲がりなりにもやってきた地域での「自立生活」の継続が不可能になるのではないかという危惧である。

 この危惧に対しては、厚生労働省は福祉サービス利用額の月額負担限度額の設定で応えようとしている。051221日時点での変更点として、それまで示していた市町村民税課税の一般世帯の負担上限額40,200円を37,200円とするとした。続いてこの下に、障害基礎年金1級受給者に相当する市町村民税非課税の者は24,600円、市町村民税非課税で年間所得80万円以下の者は15,000円、生活保護受給者は負担ゼロと設定している。これが実際に障害者の自立生活支援として十分かどうかをきちんと検証し、もし問題がでれば迅速に変更しなければならない。そのためにはアクセスしやすい相談と支援事業を、総合的に、かつ継続的に展開することが求められる。

しかし、障害当事者とケアシステムを運営する側との間には、常に深刻な認識のギャップがあることを確認しておくことも重要である。内閣府の「平成17年 障害者白書」に次のような「障害のある当事者からのメッセージ」が示されている。その一部を紹介する。

障害について知ってほしいこと       

・聴覚障害者はコミュニケーションに困難な点につらさがある。

・内部障害は外見ではわからないため、周りから理解されにくい。

・知的障害者は自分の意思を表現したり、質問したりするのが苦手。

・精神障害では病気の苦しみも強いが、収入も少なく生活上の苦しみも強い。

必要な配慮について知ってほしいこと

・知的障害者が働いて自立していくのに足りないものを補うことで、共に生きる隣人として受け止めて。

・精神障害者を特別視しないで、その人らしさを尊重して、笑顔で優しく接して。

・精神障害を打ち明けることは勇気が必要。勝手に他の人に言わないで。

 

学習障害というものの理解

 もうひとつの新聞記事は、「学習障害児に指導教室」(0618日、朝日朝刊)という記事である。文部科学省は学校教育法を改正して、小中学校の特殊学級を07年度をめどに「特別支援学級」として残す。盲・ろう・養護学校は複数の障害に対応する「特別支援学校」に改める。この法改正と合わせて、省令改正で、学習障害(LD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの子ども達のために、通常の学級でふだんは授業を受け、特定の教科など必要に応じて別の学級で特別の指導を受ける「通級指導学級」の指導対象とする。これはこの4月から行う。

 LDやADHDの子ども達は、全児童生徒数の約6%(約68万人)いるとされている。40人学級であれば、一クラスに2人か3人はいることになる。この学習障害などは、

0412月に成立し、054月から施行されている「発達障害者支援法」によって法的に認められるようになった「新しい障害」である。脳機能の一部に不具合があり、人との関係をうまくコントロールすることが苦手な障害である。

 先の「障害者白書」では、外見では分かりにくいため「態度が悪い」「親の躾が悪い」などと批判されやすい」など、十分な理解と支援を受けられない、としている。教え方や学習の仕方をきめ細かくすることで克服できる部分が多いのが、この障害の特徴である。視覚的なサポートがあると理解が進み、学習の効果があがる。分かりやすく言うと、「ADHDは子ども自身の生まれつきの、あるいは発達初期の脳の発達と関係するか問題で、育て方とかしつけの問題ではありません。よく言えば、子どもらしい活発さが強く表に出やすく、後々まで続くタイプです。とはいっても、とても手がかかるし、周りからは他の子どもと比較していろいろ言われるし、母親は大変です。」(上野一彦『LDとADHD』講談社+α新書)。

 また、脳という「引き出しの中には開け閉めの調子が良くなくて、何となく使いにくい場合があるでしょう。整理の仕方が下手で、ごちゃごちゃしていたり、探すのに時間がかかってしまうこともあります。LDというのは学習に関する引出しのいくつかがそうした使いづらさや混乱しやすい状態にあることをいうのです。ゆっくり自分のペースで考えることが許されるとか、自分流の別のやり方が選べるとか、乗り越える工夫や方法を教えてもらい、うまくやっていく経験を積み重ねられるといいのですが。」(同前)

 LDやADHDではなかったかと言われる著名人には、オーギュスト・ロダン、レオナルド・ダヴィンチ、パブロ・ピカソ、サルバドール・ダリ、岡本太郎、アルバート・アインシュタイン、トーマス・エジソンなどがよく例にあげられる。「子ども時代、能力のアンバランスや行動のコントロールに悩んだ人々が見事に社会で活躍する姿は、まさに個性を尊重する社会のあり方を大いに刺激するもの」(同前)だ。

 

第一線としての市町村と府県、そして民間との協働

 このような新しい障害を持つ人を支援する責務が市町村や都道府県にある。市町村は早期発見のために、母子保健法の健康診査や学校保険法の健康診断で十分な留意をすること、発達障害の疑いのある児童と保護者に継続的な相談をし、医療機関を紹介するとともに助言を行う。保育や放課後の地域での生活支援を進める。学校教育ではその障害の状態に応じて十分な教育を受けられるよう必要な教育的な支援を行う。

 また、就労支援のために都道府県はその体制を整備するとともに、職安機能を活用する。市町村も発達障害者の就労準備を支援することが求められる。以上は発達障害者支援法の定めである。

 市町村はこの支援事業で第一線の仕事をまかされている。しかし、多くの自治体では、新しい仕事として、兼務で問題を処理するという状況を出ていないのではなかろうか。市町村においても、児童虐待やDV、さらには高齢者虐待防止法に基づく相談や支援事業にも積極的に対応する専門機関として、各課を横断するような専門のコミュニティー・ワーカーの設置が求められる。

このような市町村の現場をバックアップする専門機関として、都道府県の「発達障害者支援センター」の設置が進められている。大阪府では高槻市にある「アクトおおさか」に設けられた「自閉症・発達障害者支援センター」が社会福祉法人北摂杉の子会に委託して、05121日から「発達障害支援センター」に名称変更し、相談、療育支援、就労支援、研修を行っている。このような支援センターは、個別のケースでの市町村やNPOの活動に対する支援や、障害者団体など当事者組織のネットワーク化が期待されている。

なお、大阪府の場合、地域福祉計画の推進の中で、市町村にコミュニティ・ワーカー(CW)が設置されてきている。このことによって行政と社協、そしてNPO、市民団体などの連携と協働を進めることが期待されている。

 

 

 

                   

 

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