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障害者自立支援法と市町村

                              奈良女子大学名誉教授 澤井 勝
                              (初出:『自治総研』2006年6月号)
目次
工賃より利用者負担が多い   障害者自立支援法の目的   市町村が実施主体   障害者施策の統合と市町村障害者福祉計画   利用者負担の導入   豪雪と福祉コミュニティ   日弁連調査   当事者からの不安への対応   学習障害者支援と公民協働  終わりに


工賃より利用者負担が多い

 419日午後9時からのNHKのニュースウオッチで特集「障害者自立支援法」の放映があった。障害者自立支援法が4月に施行されて現場で現れている問題を、さいたま市のある社会福祉法人の経営する授産施設(福祉作業所)と、埼玉県内のクロネコヤマトの配送センター(制服から見て)のひとつでの取材を通してルポした番組である。

 さいたま市のこの授産施設では、4月の自立支援法の施行を前後して、長く通勤してきていた利用者60人のうち、4人がやめ、さらに取材当日一人がやめている。理由は、「利用者負担」の導入である。この福祉作業所の場合、「利用者負担」である一割一律の「利用料」と「食費」の徴収が始まると、利用者が受け取る「工賃」との差がマイナスになる人が8割になる。くも膜下出血の後遺症で右半身麻痺と言語障害をもつ元編集者で30代の土谷和美さんの場合、一日4時間のチラシ折込の作業で一ヶ月の工賃が1万円。それに対して、「利用料」と「食費」の合計は19440円で、差し引き9000円以上の持ち出しとなる。取材中の土谷さんは「やめようか」と悩んでいた。彼女の場合、障害基礎年金か障害厚生年金を8万円から10万円を受給しているから、直ぐに生活に困るということはないだろうが、働いてお金が儲からないばかりか、収入が減るのでは働く意欲を失うことは間違いない。

 通所をやめた5人の場合、心配されるのは「ひきこもり」になることである。ここでは「工賃」の低さに問題のひとつがあることは確かだが、当面のところ、利用者負担の導入が「自立支援」という「法の目的」に背馳して、条件の差異はあれ個々の障害者の自立を阻害する結果をもたらしていることは間違いがない。

 「きょうされん」と社団法人「全コロ」の調査によると、全国の547施設のうちで147名が、通所をあきらめたという。

 もう一人、生まれつきの肢体不自由と聴覚障害をもつ24歳の柳伸介さんは、福祉事業所としてのクロネコの配送センターで朝の9時から夕方5時まで、配送用のダンボール箱の組立作業に従事している。収入は月に6万円で、一時間半かかる通勤の交通費を除く4万円のうちから、一人暮らしに向けて貯金をしてきた。しかし、4月から利用者負担が13千円となり、この自立に向けた貯金ができなくなった。「一人暮らしをする条件がなくなって、この法律は支援になっていない」と言う。

 

障害者自立支援法の目的

ここに言う、障害者自立支援法の目的とは、その第一条に次のように定められている。「この法律は、障害者基本法(昭和45年法律第84号)の基本理念にのっとり、身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)、知的障害者福祉法(昭和35年法律第37号)、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)、児童福祉法(昭和22年法律第164号)その他の障害者及び障害児の福祉に関する法律と相まって、障害者及び障害児がその有する能力及び適性に応じ、自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、必要な傷害福祉サービスに係る給付その他の支援を行い、もって障害者及び障害児の福祉の増進を図るとともに、障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することを目的とする。」

 

 この目的の特徴は、第一に、障害者基本法の基本理念にのっとるとしていることである。この基本理念は、同法第3条に次のように定めているものである。「第3条 すべての障害者は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有する。2 すべて障害者は、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が与えられる。3 何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利権益を侵害する行為をしてはならない。」

 第1項は、個人の尊厳の尊重ということで、全ての障害者がその個人としての「ディグニティー」をもって生きることを保障しようとする。第二項では、「ノーマライゼイション」の原理を基礎とした社会への「障害者の完全参加」の保障である。第三項はあらゆる障害者差別の禁止である。

 

市町村が実施主体

 この目的の第二の特徴は、市町村がこの障害者自立支援の主たる施策の担い手とされたことである。

本法第二条は次のように定める。「市町村は、この法律の実施に関し、次に掲げる責務を有する。

一 障害者が自ら選択した場所に居住し、又は障害者若しくは障害児がその有する能力及び適性に応じ、自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、当該市町村の区域における障害者等の生活の実態を把握した上で、公共職業安定所その他の職業リハビリテーションの措置を実施する機関、教育機関その他の関係機関との緊密な連携を図りつつ、必要な自立支援級及び地域生活支援事業を総合的かつ計画的に行うこと。

二 障害者等の福祉に関し、必要な情報の提供を行い、並びに相談に応じ、必要な調査及び指導を行い、並びにこれらに付随する業務を行うこと。

三 意思疎通について支援が必要な障害者等が障害福祉サービスを円滑に利用することができるよう必要な便宜を供与すること、障害者等に対する虐待の防止及びその早期発見のための関係機関と連絡調整を行うことその他の障害者等の権利の擁護のために必要な援助を行うこと。」

 国と都道府県は、市町村が行う自立支援給付及び地域生活支援事業が適正かつ円滑に実施できるよう必要な助言、情報の提供その他の援助を行う、という位置付けである(同条第2項、第3項)。

 

障害者施策の統合と市町村障害者福祉計画

第三の特徴は、身体障害者、知的障害者、精神障害者、障害児を対象とする児童福祉法について一元的に自立支援のサービスを提供することを目指すとしていることである。従来の障害の種別ごとのたて割り行政を超えようとするものだ。特に精神障害者福祉も市町村責任とした意味は大きい。そしてまた、発達障害福祉など新たな障害者福祉も当然に市町村の責任において、その自立支援事業を他の事業と総合的に、かつ一体的に提供することが市町村の仕事とされた。

そのためもあって、市町村に「障害者福祉計画」の策定とその実施を義務付けた点が重要である。第88条は、「市町村は、基本指針(厚生労働大臣が定める)に即して、障害者福祉サービス、相談支援及び地域生活支援事業の提供体制の確保に関する計画を定めるものとする。」としている。障害者基本法第9条第3項において定められた、「市町村障害者計画」が「策定するように務めなければならない」と「努力義務」規定にとどまっているのに対して、「障害者福祉計画」は「計画を定めるもものとする」と、一歩踏み込んで義務化しているのである

 

利用者負担の導入

第四の特徴は、障害者福祉に利用者負担(給付費の一律一割負担プラス食費と光熱水費)を導入したことである。これは、本法の成立過程でぎりぎりまで論議された高齢者の「介護保険」との統合に深く関連している。

ドイツの介護保険の場合は、高齢者と障害者は同じ制度として運営されている。介護を要する高齢者と障害者は区別されていない。このような考え方は北欧諸国でも同じである。むしろ、わが国のように、高齢者と障害者を区別し、さらに障害者を細分化して管理するという考え方が特異なのである。このようなたて割りの福祉施策は、スタッフの専門性を細分化し、施設サービスの柔軟な活用の大きな壁となっている。財政的にも極めて非効率的である。また障害当事者が、分断されてきたことも大きなデメリットである。このような観点からも、障害者サービスと要介護高齢者とのサービスを統合していくことは重要な課題である。しかし、障害者団体の厳しい反対意見もあって、今回の自立支援法は、介護保険への統合は見送られたという経緯がある。

しかし、ごく近い将来には(遅くとも5年後の改正向けて)再度この統合は議論の中心となる。それは介護保険財政の側からの、介護保険対象者の年齢引き下げの議論と強く連動している。介護保険に障害者福祉を統合するとしたら、この一律の利用者負担という考え方を早めに、障害者福祉に導入しておくことは必すの条件であった。

また、2003年度からの支援費の導入にともない、利用者が急増してきていたことも、政府にとって「持続可能な」制度とするために、利用者負担導入は不可欠と認識されている。(なお「持続可能な制度」というのは、サステイナブル・ディブロップメントのもじりだろうが、地球環境施策としての意味からすると不当に拡張的な言葉の乱用という問題があるといえる)。

すなわち、厚生労働省の資料によれば、障害者ホ−ムヘルプサービスの支給決定者数は、20034月の約10万人から、200410月の約16万人と1年半に1.6倍に急増していた。また、ホームヘルプ実施市町村数は、身体障害の場合は、20023月の72%から、20043月の78%に、知的障害者の場合は実施市町村数は、023月の30%から043月の56%に拡大してきた。精神障害者の場合は、033月に39%、043月に53%とこれも増加している。最も、なぜ100%にならなかったかは、大きな問題であり、このサービスを必須事業としてこなかった国の怠慢こそ責められて良い。また市町村の及び腰にも問題があった。これでは「福祉国家」というには程遠い水準の数値である。

 この一律の「利用者負担」導入が、もっとも大きな問題となってきた。特に障害者団体は強く反対してきた。そのために、低所得者に対する上限の設定などが行われてきている。これがどの程度、利用制限の緩和効果があるかはこれから見極めていくことが求められる。

 

 なお、国についても、障害者福祉施策の義務化は進んでいる。特に、給付費の2分の一を国庫負担とすることが定められていることが大きい。すなわち、第95条は「国は政令の定めるところにより、第92条の規定により市町村が支弁する費用のうち、障害福祉サービス費等負担対象額の百分の五十を負担する」としている。第92条の規定は、市町村が支弁する経費として「介護給付費等、サービス利用計画作成費、高額障害福祉費、特定障害者特別給付費及び特例特定障害者特別給付費の支給に要する経費」となっている。

 

 以上の特徴を含め、厚生労働省のパンフレットは、次のように整理している。

1、3障害の制度格差を解消し、精神障害者も対象に。市町村に実施主体を一元化し、都道府県はこれをバックアップする。

2、33種類に分かれた施設体系を6つの事業(療養介護(医療型)、生活介護(福祉型)、自立訓練(機能訓練、生活訓練)、就労移行支援、就労継続支援、地域活動センター)に再編。あわせて市町村の「地域生活支援」「就労支援」のための事業や重度の障害者を対象としたサービスを創設。

3、新たな就労支援事業を創設、雇用施策との連携を強化する。これまでは養護学校の卒業生の55%は福祉施設に入所せざるをえず、就労を理由とする施設退所者は1%にとどまっていた。

4、支援の必要度を客観的に判定する尺度(障害程度区分)を導入し、審査会の意見など支給決定プロセスの透明化を図る。

5、国の費用負担2分の一を法定した。利用者も応分の負担をし、皆で支える制度に。新規の利用者が増えることが予想されなかで、利用者負担で乱用を防止し、国の責任も明確化。

  

 豪雪と福祉コミュニティ

 新しい年、06年は12月から続く日本海側での豪雪で始まった。特に過疎地での記録的な積雪は、高齢者世帯の生活に重くのしかかっている。このことは新聞やテレビの報道でかなり詳しく報道され、災害救助法の発動や、陸上自衛隊の派遣など、具体的な動きが伝えられている。一方でこの雪は、障害を持つ人たちとその家族の生活をも直撃しているに違いないのだが、ほとんど表面には出てこない。ホームヘルパーの訪問や、通所施設への移動は困難を極めているものと想像される。障害者や要援護高齢者とその家族の生活を支えるための雪国特有の在宅生活支援のありかたが問われている。例えば、一昨年の中越地震のときに経験したように、在宅生活の維持が一時的に困難となった当事者が希望したとき、避難所としての特別養護老人ホームや老人保健施設、障害者施設などの柔軟な活用が、積極的に位置付けられているだろうか。

 このような災害弱者を支える課題は、阪神淡路大震災を通じて大きな問題として取り上げられるようになってきたが、雪害の場合はどうなのだろうか。震災や火災、水害から障害者を守るために、日ごろからボランティアや専門職員、そして当事者との連絡や支援施策の確認などに取り組むようになった自治体も多い。障害者基本計画に書き込み、それを地域福祉計画の中に取り込む議論をしているところも少なくない。

 しかし、このような災害時の障害当事者支援は、極めて具体的でなければならないから、そこまで手が行き届いている例は少ない。その中で、京都市上京区の春日学区地域ぐるみの取り組みは、NHKの『ご近所の底力』でも取り上げられているように、極めて実効性のあるものだ。この仕組みは、いわば「コミュニティの再生」なのである。障害者の生活支援とは、このような地域コミュニティの「福祉コミュニティ」としての再生がベースとならなければならない。この「福祉コミュニティ」の上に、様々な専門機関(都道府県や市町村の行政担当課、各相談・支援センター、社会福祉法人、NPO団体など)のネットワークが構築されることが望ましいのである。

 

日弁連調査

 ところで、年末から新年にかけて二つの新聞記事が目にとまった。ひとつは、障害者自立支援法によって「地域の障害者支援が『難しくなる』」という日本弁護士連合会の調査である(朝日新聞06125日朝刊)。障害者の地域生活の相談・支援事業をしている生活支援センター(高齢者については基幹型在宅介護支援センター、障害者は各地域生活支援センターなど)2012ヶ所にアンケートを郵送し、1137の回答を得ている。障害者が地域で暮らすために、特に不足している支援策を聞いた(複数回答)ところ、第一には「所得保障」で41%、第二は住宅の確保で39%、第三には就労支援(38%)が多かった。これら、所得、住宅、就労という三要素は生活の基盤となる要素であり、これらが不足しているということは、地域での生活が成り立たないということを意味しているのである。

 また障害者自立支援法によって、どのような影響が出るかを聞いたところ、「地域生活への支援が難しくなる」が55%と過半数を超えた。難しくなるのは何故かを自由記述方式で聞いているが、やはり応益負担の導入が響くと見ている。すなわち「応益負担(1割の定率負担)による負担増やサービスの利用制限」が指摘されている。また「就労支援は期待できない」「身体・知的・精神(障害)の統合は前進だが、障害の特性に対応できるか、障害程度区分の導入も不安」も多かった。

 まお、高齢者の在宅生活を困難にしている原因では、「認知症への対応が困難」(87%)、「家族が施設・病院を希望する」(84%)が突出して多い。

「障害者自立支援法」は051031日に与党の賛成多数で成立し(野党は反対)、この4月から施行され利用者負担も導入されるが、新たな障害区分による支給決定に基づくサービスは101日から施行されることとなる。

 

当事者からの不安への対応

 このような新しい制度について、障害当事者から多くの不安な点や疑問点が提起されてきた。その最大の論点が、先の日弁連調査にもあるように、今まで受けてきたサービスが受けられなくなるのではないか、という不安である。その理由は多岐にわたるが、大きくは2点ある。ひとつはサービスの必要度が、行政によって決定されることになるが、それが適正に行われるか、という問題である。「障害程度区分」の審査決定が、本当に地域で生活しつづけたいという障害当事者のニーズを反映するものとして、機能するのだろうか。この不安に応えるために市町村や支援センター(社会福祉法人やNPOがその運営を受託している場合が多い)がとりくむべき課題は、サービスの必要度が適切に決定できるアセスメントや、ケアマネージメントの能力を持った専門家でもあるソーシャルワーカーを確保し育成できるかということになる。

もうひとつは、人によっては一ヶ月百万円を超える全身性障害者の介護費用に対して、一割の利用者負担を求められたら、障害年金では賄えず、利用できるサービス水準を切り下げざるを得なくなり、結局、これまで曲がりなりにもやってきた地域での「自立生活」の継続が不可能になるのではないかという危惧である。

 この危惧に対しては、厚生労働省は福祉サービス利用額の月額負担限度額の設定で応えようとしている。051221日時点での変更点として、それまで示していた市町村民税課税の一般世帯の負担上限額40,200円を37,200円とするとした。続いてこの下に、障害基礎年金1級受給者に相当する市町村民税非課税の者は24,600円、市町村民税非課税で年間所得80万円以下の者は15,000円、生活保護受給者は負担ゼロと設定している。これが実際に障害者の自立生活支援として十分かどうかをきちんと検証し、もし問題がでれば迅速に変更しなければならない。そのためにはアクセスしやすい相談と支援事業を、総合的に、かつ継続的に展開することが求められる。

しかし、障害当事者とケアシステムを運営する側との間には、常に深刻な認識のギャップがあることを確認しておくことも重要である。内閣府の「平成17年 障害者白書」に次のような「障害のある当事者からのメッセージ」が示されている。その一部を紹介する。

障害について知ってほしいこと       

・聴覚障害者はコミュニケーションに困難な点につらさがある。

・内部障害は外見ではわからないため、周りから理解されにくい。

・知的障害者は自分の意思を表現したり、質問したりするのが苦手。

・精神障害では病気の苦しみも強いが、収入も少なく生活上の苦しみも強い。

必要な配慮について知ってほしいこと

・知的障害者が働いて自立していくのに足りないものを補うことで、共に生きる隣人として受け止めて。

・精神障害者を特別視しないで、その人らしさを尊重して、笑顔で優しく接して。

・精神障害を打ち明けることは勇気が必要。勝手に他の人に言わないで。

 

学習障害者支援と公民協働

 もうひとつの新聞記事は、「学習障害児に指導教室」(0618日、朝日朝刊)という記事である。文部科学省は学校教育法を改正して、小中学校の特殊学級を07年度をめどに「特別支援学級」として残す。盲・ろう・養護学校は複数の障害に対応する「特別支援学校」に改める。この法改正と合わせて、省令改正で、学習障害(LD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの子ども達のために、通常の学級でふだんは授業を受け、特定の教科など必要に応じて別の学級で特別の指導を受ける「通級指導学級」の指導対象とする。これはこの4月から行う。

 LDやADHDの子ども達は、全児童生徒数の約6%(約68万人)いるとされている。40人学級であれば、一クラスに2人か3人はいることになる。この学習障害などは、

0412月に成立し、054月から施行されている「発達障害者支援法」によって法的に認められるようになった「新しい障害」である。脳機能の一部に不具合があり、人との関係をうまくコントロールすることが苦手な障害である。

 先の「障害者白書」では、外見では分かりにくいため「態度が悪い」「親の躾が悪い」などと批判されやすい」など、十分な理解と支援を受けられない、としている。教え方や学習の仕方をきめ細かくすることで克服できる部分が多いのが、この障害の特徴である。視覚的なサポートがあると理解が進み、学習の効果があがる。分かりやすく言うと、「ADHDは子ども自身の生まれつきの、あるいは発達初期の脳の発達と関係するか問題で、育て方とかしつけの問題ではありません。よく言えば、子どもらしい活発さが強く表に出やすく、後々まで続くタイプです。とはいっても、とても手がかかるし、周りからは他の子どもと比較していろいろ言われるし、母親は大変です。」(上野一彦『LDとADHD』講談社+α新書)。

 また、脳という「引き出しの中には開け閉めの調子が良くなくて、何となく使いにくい場合があるでしょう。整理の仕方が下手で、ごちゃごちゃしていたり、探すのに時間がかかってしまうこともあります。LDというのは学習に関する引出しのいくつかがそうした使いづらさや混乱しやすい状態にあることをいうのです。ゆっくり自分のペースで考えることが許されるとか、自分流の別のやり方が選べるとか、乗り越える工夫や方法を教えてもらい、うまくやっていく経験を積み重ねられるといいのですが。」(同前)

 LDやADHDではなかったかと言われる著名人には、オーギュスト・ロダン、レオナルド・ダヴィンチ、パブロ・ピカソ、サルバドール・ダリ、岡本太郎、アルバート・アインシュタイン、トーマス・エジソンなどがよく例にあげられる。「子ども時代、能力のアンバランスや行動のコントロールに悩んだ人々が見事に社会で活躍する姿は、まさに個性を尊重する社会のあり方を大いに刺激するもの」(同前)だ。

 このような新しい障害を持つ人を支援する責務が市町村や都道府県にある。市町村は早期発見のために、母子保健法の健康診査や学校保険法の健康診断で十分な留意をすること、発達障害の疑いのある児童と保護者に継続的な相談をし、医療機関を紹介するとともに助言を行う。保育や放課後の地域での生活支援を進める。学校教育ではその障害の状態に応じて十分な教育を受けられるよう必要な教育的な支援を行う。

 また、就労支援のために都道府県はその体制を整備するとともに、職安機能を活用する。市町村も発達障害者の就労準備を支援することが求められる。以上は発達障害者支援法の定めである。

 市町村はこの支援事業で第一線の仕事をまかされている。しかし、多くの自治体では、新しい仕事として、兼務で問題を処理するという状況を出ていないのではなかろうか。市町村においても、児童虐待やDV、さらには高齢者虐待防止法に基づく相談や支援事業にも積極的に対応する専門機関として、各課を横断するような専門のコミュニティー・ワーカーの設置が求められる。

このような市町村の現場をバックアップする専門機関として、都道府県の「発達障害者支援センター」の設置が進められている。大阪府では高槻市にある「アクトおおさか」に設けられた「自閉症・発達障害者支援センター」が社会福祉法人北摂杉の子会に委託して、05121日から「発達障害支援センター」に名称変更し、相談、療育支援、就労支援、研修を行っている。このような支援センターは、個別のケースでの市町村やNPOの活動に対する支援や、障害者団体など当事者組織のネットワーク化が期待されている。

なお、大阪府の場合、地域福祉計画の推進の中で、市町村にコミュニティ・ワーカー(CW)が設置されてきている。このことによって行政と社協、そしてNPO、市民団体などの連携と協働を進めることが期待されている。

 

おわりに

 障害者自立支援法は、多くの問題をかかえたまま、取りあえず市町村において動き出した。われわれがすべきことは、事業の実施過程をできるだけきめ細かくモニターすることである。その中で、障害当事者にとってこれまでのサービス水準の低下や、サービス種類の不足が生じているのであれば、適切に是正するよう柔軟な予算措置をとることが求められる。そして制度的な不備があれば、迅速に制度改正の要求と実施を行うことが必要である。特に、自立支援という理念に照らして、障害当事者の主体性をスポイルするような仕組みを改め、行政担当者や福祉事業者の意識改革に取り組む必要がある。

 一方で、地域福祉計画の策定と実施の中で、市町村の単独事業として、「地域生活支援事業」などの着実な展開をすべきである。これには新たな一般財源(独自財源)の投入と、ボランティアやNPO団体、自治会町内会などをネットワーク化した福祉コミュニティの施策展開を進めることが重要である。

 なお、障害者自立支援法の施行を施行するスケジュールは付表のようになっている。先にも触れたように、「障害程度区分」の判定とそれに基づく「新たな支給決定」の実施や、施設や事業の段階的以降などは本格的には、200610月からである。また「個別支援計画」=ケアプランの作成も、これからである。いずれも厳重な点検が必要である。

(なお本稿は、06年1月に財団法人Aワーク創造館の「夢耕場」に寄稿した「障害者自立支援の課題」にその後の経過も含めて大幅に加筆したものである。)

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